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相続税は「最も税務調査が行われやすい税金」と言われており、令和2年の場合には、相続税を申告した約5.3%の人に税務調査が行われています(相続税の税務調査は、相続税申告書の提出から約1年から2年後に行われており、この税務調査率は、申告後2年後に税務調査が行われたと仮定して算出したものです)。
令和2年分の相続税の申告件数は153,023件(納税額0円を含む)、令和4年度に税務調査が行われた件数は8,196件 |
税務調査率は以前に比べると低くなりましたが、税務調査で申告漏れなどが指摘される割合は85.8%(令和4年)になっており、相続税の税務調査が行われるとかなり高い確率で追徴課税の対象になってしまいます。
「税務調査で指摘されない」「税務調査に入られない」ようにするためには、税務署が確認するポイントを網羅した相続税申告書を作成することが重要です。ここでは「相続税の税務調査で指摘されない申告書を作成するポイント」について紹介します。
1.被相続人の財産・債務の把握
相続税の税務調査で指摘されるものの多くは、「財産の計上もれ」です。相続税の税務調査の対象は、ランダムに選ばれているわけではありません。税務署では、事前に亡くなった被相続人のデータを解析し、被相続人にどれくらいの財産があったかを推測します。その推測をもとに相続税申告書の内容が適正かどうかの判断を行い、税務調査を実施するかどうかを決定します。
そのため「相続税申告書の財産・債務を適正に申告すること」が税務調査を回避する一番のポイントです。
1-1.税務署が把握している財産内容
税務署では、被相続人の財産に関する様々な情報を入手することができ、次の情報は、必ず入手している情報になります。もれがないように確実に申告しましょう。
- 預金口座の残高と入出金データ
- 被相続人の過去の所得データ
- 不動産の保有(登記)状況
- 株式や国債の保有状況
- 保険金の受取
- 被相続人の家族の預金口座情報
1-2.財産別に財産・債務の調査を行うと効率的
財産・債務の把握を行う「財産調査」は、遺産の中から財産の手がかりを探す地道な作業になり、財産・債務が多ければ多いほど時間のかかる作業です。財産が多い場合は、専門家に依頼した方がよいケースもありますが、ご自分で財産調査を行う場合は、「財産別」に行うと効率的です。
①預貯金
相続税申告では、「死亡日の預貯金の残高」を調べなければなりません。遺品の中の「通帳、キャッシュカード、銀行からの郵便物やメール」などをチェックし、取引のある金融機関を特定します。
金融機関が特定できたら「死亡日の残高証明書」の発行を依頼します。残高証明書の発行依頼には、死亡が確認できる登記簿謄本、申請者が相続人であることがわかる登記簿謄本、申請者の実印・印鑑証明・本人確認書類などが必要になるので、早めに準備をしておきましょう。
また、通帳がなければ、取引履歴も発行してもらうと生前贈与の調査などに役立ちます。
②債務の調査
債務の調査とは、被相続人の「借金の調査」です。借金の存在は、家族でも知らないことがあります。
債務の調査をするためには、遺品の中に「金銭消費貸借契約書、金融機関からの郵便物・メール」などをチェックします。また、ローンやクレジットなどの情報を管理している信用情報機関へ確認するといいでしょう。
③不動産の調査
不動産の調査は、地方自治体から送付されてくる「固定資産税の納税通知書」により調査することができます。ただし、固定資産税が課税されていない不動産は納税通知書に記載されていないため、地方自治体へ「名寄帳」を申請する必要があります。
保有不動産が判明したら、法務局に登記事項証明書(登記簿謄本)を申請しましょう。登記簿謄本を取得することで、持ち分や抵当権の確認ができます。
④株式や国債の調査
株式や国債の調査では、遺品の中に「取引報告書」や、「配当金の支払通知書」、「株主総会の招集通知書」などがないかをチェックします。
見つからないければ、「証券保管振替機構(ほふり)」に照会をかける方法もあります。ほふりは、有価証券の保有先を一括調査できる機関です。有価証券の保有状況が不明な場合には利用してみましょう。
⑤保険契約の調査
生命保険の契約の有無を調査するために、遺品に「保険契約書」があるかどうかを確認しましょう。見当たらなければ、通帳から保険料の引き落としがないか確認し、引き落としがある場合は保険会社に確認します。
調べてもわからない場合は、「生命保険契約照会制度」を利用する方法があります。この制度は、生命保険協会が生命保険の調査を行い、結果を知らせてくれる制度です。
2.生前贈与への適切な対処
相続税の税務調査で争点になりやすいポイントの1つに、「生前贈与」があります。
生前贈与は相続税の生前対策として活用しやすい方法ですが、適切な対処をしておかなければ否認されることもあります。税務調査で特に指摘されやすい生前贈与には、次のようなものがあります。
2–1.贈与ごとに贈与契約書を作成する
生前贈与を行う際には、贈与の事実を証明する「贈与契約書」を必ず作成しましょう。毎年贈与を行う場合は「定期贈与」と判断されないように慎重に行う必要があります。定期贈与とは「開始時点で毎年の贈与額が決まっている贈与」のことです。この場合は、贈与の総額が最初の年に贈与されたとして一度に課税されてしまいます。
生前贈与を行う際には、その都度贈与契約書を作成し、銀行振り込みを行い、贈与の事実を証明できるようにしておきましょう。
2-2.名義預金に対処する
預金口座の名義人が子や孫であっても、被相続人が預金をし、口座の管理をしていれば、相続財産に加算される「名義預金」に該当します。生前に名義預金になる口座が判明している場合は、その預金を親や祖父母などの実質的な預金者に返還することで対処することが可能です。相続が発生した後に判明した場合は、相続税申告に含めて申告を行えば問題ありません。
「名義預金に気付いていない状況」であることが一番問題になるため、過去の預金通帳や取引明細を確認し、不明な出金がないか確認しましょう。
2–3.名義保険には現金の贈与で対処
名義保険とは、契約者の名義が子や孫になっており、保険料を実際に負担しているのは親や祖父母の保険のことを言います。名義保険は、名義預金と同様に税務署が厳しく調査します。何かしら対処したいところですが、保険期間の途中で名義保険を解消する方法はありません。
ただし、名義預金に該当させないために、「毎年の保険料相当額の現金を贈与する方法」は認められています。毎年贈与契約書を交わし、贈与を受けた現金で保険料の支払いをする流れをきちんと証明できるようにしておきましょう。
3.正確な相続税申告書の作成が重要
相続税申告書に記載もれや添付資料不足などの不備があると、税務調査が行われる可能性が高くなります。税理士に依頼せずにご自分で相続税申告を行えば、税務調査に入られる可能性が高くなり、税務調査での指摘に対応できず、追徴課税の対象になってしまうことさえあり得ます。
税務調査の対象にならない、税務調査になっても指摘されない相続税申告書を作成するためには、相続税に強い税理士に依頼することが大切です。
また、相続税申告には「書面添付」という制度があり、税理士がしっかりと確認した項目を記載し、その書面を添付することで税務調査のリスクを下げることができます。税理士との面談の際に書面添付が利用できるのか確認してみてもいいでしょう。
4.当事務所は税務調査にも対応できる体制を整えています
相続税は税務調査が行われる割合が高いため、「相続税の税務調査が行われたらどうしよう…」と申告前から不安を感じている人もいらっしゃると思います。入念な財産調査、生前贈与への適切な対応、正確な相続税申告書の作成を行うことで、税務調査のリスクを下げることが可能です。
適切な相続税申告を行うためには、しっかりとした相続税の知識が必要不可欠です。相続税でお悩みの際は、税理士に相談してみましょう。
上原会計事務所では、税務調査が入る確率をできるだけ下げるため、書面添付制度を活用し、万一税務調査が入っても、対応できる体制を整えております。
さらに、弁護士法人も存在するUグループに所属しており、相続税以外の問題についても、ワンストップでお応えします。
相続税申告について、お困りの際は、お気軽にお問い合わせください。