相続と遺言

1.相続トラブルは遺言がないことに起因する

多くの相続争いが遺産分割時に生じています。遺産分割の話し合いがつかずに相続人同士が争うトラブルです。その最大の原因が、「遺言がない」ことです。遺言がないために、相続人同士が、互いに法定相続分という権利を主張することで権利と権利が衝突し争いが起こります。

弊所でも、遺言がないためにご苦労された相続人の方の次のような事案を扱ったことがあります。

(1)遺言がないことが原因で遺産分割協議を強いられた事例

複数のアパートを所有するCさんが、息子さんとご一緒に事務所にいらっしゃいました。Cさんの推定相続人は、配偶者である奥様とお二人のお子様(兄と妹)でした。

それまで、ご兄妹はCさんに「遺言によって、アパートをどのように分割したらいいのか、お父さんの考えを示してほしい」と強く訴えていましたが、その甲斐あって、「そんなに言うのなら」と遺言作成のための約束を取り付けてその日はお帰りになりました。

Cさんが不幸にも交通事故に会い、頭を強く打って、判断に支障をきたすようになったのは、その翌週のことでした。息子さんには、電話で、「何とか遺言を作れないだろうか」と懇請されましたが、判断能力を喪失して遺言を遺したとしても、法的には無効になってしまいます。

(2)遺言は判断能力に問題がないうちに作成しておく

事故に遭わずとも、認知症を患うなど判断能力を失うような事態が発生する確率は決して低くはないでしょう。このケースでは、相続争いを避けるため、奥様と兄妹の3人で遺産分けの話し合いにより事なきを得ましたが、いざという時に困らないように、遺言は、判断能力に問題がないうちに作成しておくべきなのです。

2.遺言とは|相続にはなぜ遺言の作成が重要なのか

遺言がないことが、相続トラブルを引き起こす可能性があることについてご理解いただけたと思います。そこで次に、遺言とはどのようなものかについて、改めて考えてみたいと思います。

遺言とは逝く人が、遺された人たちに伝えるメッセージですが、法的効果をもたらす機能もあります。遺言により財産を相続させる・遺贈することで、相続人や受遺者に対して被相続人の遺産を分配する効果です。

遺言者は、遺言による意思表示で自由に財産を処分することができます。

例えば、遺言により、自宅は妻に、アパートは長男に、現預金は次男にというように具体的な財産を決めて処分することもできます。また、1/3は妻に、1/3は長男に、1/3は次男にというように割合をもって財産を処分することもできます。そのうえ、長男に遺産分割を一任するとか、3年間は遺産分割を行わないといった指定もできます。自分の財産なのですから当然といえば当然ですね。

(1) 遺言の重要性

遺言の有無で相続の仕方に大きな違いがあることを、下図を使って確認したいと思います。

遺言書があれば遺言通りの遺産分割がなされる

上図からおわかりいただけように、遺言があると、基本的には遺言通りの遺産分割がなされます。一方、遺言がない相続では、遺産分割協議を経なければならず、話し合いがうまく纏まらないと、家庭裁判所の調停に移行するなど相続人間の争いになってしまいます。

家族の事情、教育資金、住宅ローン、老後の生活など相続人のその後の人生を考えれば、相続できる遺産は多いに越したことはありません。いくら仲のいい兄弟であっても、相続について利益が互いに相反するのであれば、「兄弟ではあっても、できるだけのことは主張する」しかないのです。

翻って、遺言は被相続人の最後の言葉です。「この遺言を守り兄弟仲良くしてほしい」といった遺言があれば、その言葉に多くの相続人は重きを置くことになると思います。「互いの事情もあるけれど親父のいうことだから・・」と、多少の不満はあっても相続人間で遺言通り分割できれば、遺言の効果は絶大ということになります。

相続税申告にみる遺言の効力

相続人全員の同意(遺言執行者がいる場合は、遺言執行者の同意も要する)があれば、遺言に従った遺産分割をする必要はありません。しかし、この場合には、遺産分割協議が不調に終わり、相続税の申告期限に間に合わないといったことも起こり得ます。では、申告はどうすればいいでしょう。

この場合、「A不動産をBに相続させる」、「全財産をCに相続させる」といった「特定の財産を特定の相続人に相続させる」遺言が遺されていれば、遺言通りの分割による申告をすることになります。その理由は、遺言により、相続開始と同時にA不動産は、相続人Bに、全財産は、相続人Cに帰属してしまうからです(ちなみに、「全財産の1/3をDに、2/3をEに相続させる」といった「包括的な財産承継」を意図した遺言の場合は、遺産分割が必要となるため、法定相続分での申請後、修正・更生の請求が可能と解されます)。

「特定の財産を特定の相続人に相続させる」遺言が遺されていたら、協議が整わないからといって、遺言を無視した分割による申告は許されません。遺言と相違する遺産分割協議を整えるのなら、申告期限までということになります。遺言には、相続税の申告において遺産分割が強制されるという効果もあるのです。

(2)遺言の種類

普通方式の遺言には、「自筆証書遺言」、「秘密証書遺言」、「公正証書遺言」の3つがあります。ここでは、この3つについて簡単に触れておきます。

自筆証書遺言

法改正により、自筆証書遺言のうち、遺産目録の部分はワープロやパソコンで作成できるようになり、全文を自筆で作成する必要はなくなりました。

また、法務局で保管してもらえる制度も新設され、保管してもらった自筆証書遺言は、裁判所の検認も不要と便利になりました。遺言者が負担する費用も、申請手数料3,900円のみなど公正証書遺言と比べて安価となっています。ただし、法務局に保管してもらったとしても、自筆証書遺言の内容までチェックしてくれるわけではありません。

自筆証書遺言で問題となるのが、遺言の保管場所です。相続人に預けると隠匿や偽造・変造の原因となりかねません。かといって、わかり難いところに隠したために発見されなければ、遺言者の遺志が無駄になってしまいます。さらに、遺産分割後に発見された場合には、遺産分割に影響を与え面倒なことになる可能性さえあります。

そこで、自筆証書遺言を作成したら、遺言者が相続人以外の信頼できる人にその旨を伝えておくといいでしょう。

秘密証書遺言

秘密証書遺言は、次のプロセスで作成します。

  • 遺言者が遺言書を作成、署名・押印する(遺言書が自筆である必要はありません)
  • 遺言書を封筒に入れ、遺言で使った印鑑で封印
  • 遺言者が遺言の入った封筒を公正役場に持参する
  • 公証人・証人2人の前に遺言の入った封筒を提出し、自分の遺言である旨、氏名・住所を申述する
  • 公証人が、遺言が提出された日付、遺言者の申述内容を封筒に記入する
  • 公証人・証人2人・遺言者がそれぞれ封筒に署名・押印する

ただし、秘密証書遺言は、公正役場に秘密証書遺言を作成した記録は残りますが、遺言者自身が保管しなければなりません。また、遺言を遺言者自身が作成し、公証人がチェックすることもないため、不備があっても訂正されることはなく、要件を満たしていなければ無効になってしまいます。

秘密証書遺言には、このようなデメリットがあるため、あまり利用されていないのが実情です。

公正証書遺言

公正証遺言とは、公証役場で公証人が遺言者の口述をまとめた遺言書のことを指します。

遺言者は、遺言作成の前に公証人とどのような内容の遺言にしたいのか打ち合わせをし、遺言の作成に備えます。遺言の作成には、証人2人が必要となります。当日は、以下の流れで遺言を作成します。

  • 遺言者が遺言の内容を口述し、公証人が遺言の内容を筆記する
  • 公証人が遺言の内容を遺言者・公証人2人の前で読み聞かせる(又は閲覧させる)
  • 遺言者・証人2人が筆記に間違いないことを確認し、遺言書に署名・押印する
  • 公証人が公正証書遺言の方式に従って作成されたものである旨を付記し、署名・押印する
  • 公証人が原本、正本、謄本の3通を作成し、原本を公正役場で保管、正本・謄本は遺言者が持ち帰る

自筆証書遺言に比べ、公正証書遺言は作成に公証人への報酬が生じます。また、手間もかかります。しかし、公証役場に保存されている遺言を確認することができ検認手続き無しで有効な遺言として使用することが可能です。

なお、公正証書遺言を作成するには、本人確認資料として印鑑登録証明書ほか必要になる書類があります。ご自分で手続きする場合は、公正証書遺言の作成を希望する公正役場にお問い合わせください。

3.遺言作成時の留意点

では、このような効果を持つ遺言を作成をする際に、留意すべき点はあるのでしょうか?

(1)遺言作成時には遺留分に配慮が必要

遺言は、争いを避けるためにも、なるべく偏りのない公平なものにすべきです。偏った遺言は、相続人に争いの原因をわざと作っているようなものだからです。

そこで、遺言を作成する際に忘れてならないのが、各相続人の遺留分について配慮することです。というのも、相続人の遺留分を侵害した遺言は、相続トラブルの原因になり兼ねないからです。

遺留分割合について

遺留分とは、遺産の一定割合を相続人に保証する制度で、相続人の生活の保証等の観点から極端な処分に一定の歯止めをかけています。

民法では、遺留分の割合を、次の通り定めています。被相続人の兄弟姉妹には、遺留分はありません。

遺留分の割合

  • 直系尊属のみが相続人の場合:遺産の1/3
  • 上記以外の場合:遺産の1/2

上記、遺留分の割合に従って算出すると、各相続人の遺留分は下表の通りとなります。

相続人の組み合わせと相続分・遺留分:
相続人の組み合わせと相続分・遺留分
相続人が配偶者のみのとき:
相続人が配偶者のみのとき
相続人が配偶者と直系卑属のとき:
相続人が配偶者と直系卑属のとき
相続人が配偶者と直系尊属のとき:
相続人が配偶者と直系尊属のとき
相続人が配偶者と兄弟姉妹のとき:
相続人が配偶者と兄弟姉妹のとき
相続人が直系卑属のみのとき:
相続人が直系卑属のみのとき
相続人が直系尊属のみのとき:
相続人が直系尊属のみのとき
相続人が兄弟姉妹のみのとき:
相続人が兄弟姉妹のみのとき

遺言の作成は遺留分を配慮して

遺留分は、「相続開始および遺留分侵害の遺言・贈与があったことを知った日から1年以内」に請求しなければ消滅時効により請求できなくなってしまいます。

また、遺留分は相続時の財産だけでなく、相続開始前10年以内に相続人になされた贈与(相続人以外は1年)を加算した金額を含めて計算する点にも注意が必要です。

もう一つは、遺留分額の支払は金銭支払い、キャッシュで行うという点です。相続財産が不動産の場合には、売却しなければ支払うということができません。遺言が相続人の遺留分を侵害していると、このように、争いの火種を遺してしまうことになるのです。

遺言を書くといっても、誰にどの財産を承継させるかだけでなく、遺留分のことまで含めて考える必要があるということをお分かりいただけましたでしょうか。

(2) 遺言は公正証書で作成を

公正証書遺言の大きなメリットの一つは、作成の段階で公証人に相談できるということです。公証人には、検事や裁判官を歴任した法律のプロが就任しており、遺言についてアドバイスもしてくれます。

対して、自筆証書遺言では、遺言の意思能力の問題から始まって日付、氏名、押印、加除変更方法など多くの問題が生じ、遺言者1人で遺留分まで含めた法的問題をクリアする遺言書を作成するのは荷が重すぎるように思います。せっかく自筆で書いた遺言が効力を有しなかったら取り返しがつきません。

人生最後の大切な文書であることを考えれば、費用が多少かかったとしても安全で確実な方法がいいでしょう。このような観点から、遺言は、なるべくトラブルの少ない公正証書遺言による作成をお勧めします。

(3)遺言作成は専門家に相談する

遺言を書く際に、親族間で相談するのは抵抗があるかもしれません。そのような時には、専門家を利用するのはいかがでしょうか。

弊所では、弁護士、税理士、ファイナンシャルプランナーなどが専門的立場からお話をお伺いし、法務、税務といった面から問題のない遺言をまとめ上げるお手伝いをさせていただきます。

法務の面からは、遺留分を侵害しないように事前に生前贈与を検討するのも、そうした理由からです。ただし、特定の人に贈与があったことが後々わかるとトラブルになりかねませんので、適切なプロセスのもと慎重に行います。

税制面からも、二次相続まで考慮したうえでの遺産分割となるように検討を加えます。相続税の節税には欠かせない「小規模宅地等の特例」についても最大限の適用ができるように調査いたします。

遺言の作成には、是非、専門家の活用をご検討ください。

遺言に抵抗がある方には「家族信託」がお勧め

それでも、「遺言を書くことにはどうしても抵抗がある」という方に、弊所では家族信託をお勧めすることがあります。

家族信託による遺言代用型信託の方法をとると、遺言と同様に、あらかじめ信託契約で定めた方に財産を承継させる効果を得ることが可能です。高齢による判断力低下や、認知症のリスクを避けるために信託契約という契約を結ぶことで抵抗なく話を進めることができます。

4.相続シミュレーションをご利用ください

相続トラブルを避けるためには、生前から相続にかかわる打ち合わせを専門家と行っておくと効果的です。相続人の調査、相続財産調べ、生前贈与の有無、債務の有無、相続人の家庭環境、経済状況、二次相続とのバランス、節税効果、納税資金の問題等を事前に調査し、どのような遺産分割が最も適切なのかをシミュレーションいたします。

相続のシミュレーションをすると、漠然としていた相続が明確になってきます。目の前に財産の明細や数字が明示されると、緊迫感が違ってきます。相続に対する認識が深まることは、間違いありません。

第三者それも知識を持った者の目で客観的に現状を把握してもらい、安心した相続を実現するためにも、信頼できる専門家に依頼されることをお勧めします。弊所でも、相続シミュレーションを行っております。是非、ご活用ください。

5.遺言を作成しても争いになったら調停・審判

それでも争いになるときは、家庭裁判所に遺産分割の調停や審判を申し立てることになります。

弊所では、遺産分割の調停・審判について、提携する弁護士が対応させていただきます。ただし、裁判の場合であっても、調停を有利に進めるには法務的な交渉だけでなく税金面からのアドバイスも重要です。

弁護士、税理士がワンストップでお客様の対応をさせていただきますので法務面、税金面から有利な交渉を進めることが可能です。

弊所の「開示請求」により多額の遺産の減少が明らかになった事例

Dさんが亡くなり、相続したのは、Dさんのお子様である3兄弟です。長男は、父Dさんと同じ家に住んでおり、死ぬ間際まで面倒を見ていたため、次男、三男は少財産の取り分が少ないことには納得していました。ところが、長男が2人に見せたDさんの相続財産明細は想像以上に少ない金額でした。しかし、長男は、2人に通帳を全て見せ、「これしかない」と主張して譲りません。

仕方なく次男、三男は遺産分割の調停を申し立てました。そこで、相談を受けた弊所では、国税庁に「相続税法49条第1項に基づく生前贈与の開示請求」を行いました。すると、生前Dさんが、長男に多額の贈与をしていることが判明しました。弊所が介入することで、生前贈与により多額の遺産分割対象財産が減少していたことを、突き止めることができました。

6.遺言の作成はお早めに

遺言は、15歳以上で意思能力のある方なら誰でも書くことができます。しかし、高齢になり判断能力が衰えてくると遺言を書く能力を疑問視されることが多くなり、認知症と診断されると遺言を書いても無効になってしまう可能性が高くなってしまいます。

遺言は、最後に遺せる相続人達へのメッセージです。作成するのなら、明確な意思表示のできるうちに書いておくことをお勧めします。

当事務所では、遺言作成のサポートを積極的に行っております。是非、以下の電話番号・メールからお気軽にお問い合わせください。

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