
目次
相続税は誰にでもかかる税金ではなく、一定額以上の財産を保有する人が亡くなった際に、その財産を相続する法定相続人に課税される税金です。
この「一定額」のことを「基礎控除額」といい、相続税がかかる金額かどうかを判断するうえで非常に重要な要素となります。
ここでは、相続税がかからない金額について判断する方法も含めて解説いたします。
1.相続税がかからない金額はいくら?
相続税は、相続財産の総額が基礎控除額を超える場合に生じるため、相続財産の総額が基礎控除額以下の場合には相続税が課税されません。
基礎控除額の金額は、法定相続人の人数によって異なり、2025年現在では次の算式によって計算します。
3,000万円+600万円×法定相続人の数
上記の算式を法定相続人の人数に当てはめると、基礎控除額は次表の通りです。
一律3,000万円+ | 法定相続人の数 (600万円×人数) |
基礎控除額 |
---|---|---|
1人(600万円) | 3,600万円 | |
2人(1,200万円) | 4,200万円 | |
3人(1,800万円) | 4,800万円 | |
4人(2,400万円) | 5,400万円 | |
5人(3,000万円) | 6,000万円 | |
6人(3,600万円) | 6,600万円 |
上表の通り、法定相続人が1人の場合は相続財産が3,600万円以下、2人の場合は4,200万円以下である場合には相続税がかからず、相続税申告書の提出も必要ありません。
【法定相続人】
法定相続人とは、民法によって財産を相続する権利を定められている人のことで、配偶者と血族(子、親、祖父母、兄弟姉妹など)が該当します。血族には優先順位があり、先順位の相続人が1人でもいれば、後順位の者は相続人になりません。
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1-1.基礎控除「法定相続人の数」の数え方
法定相続人の数をカウントする際、相続人が「相続放棄を行った場合」と「養子縁組が行われていた場合」には基礎控除における「法定相続人の数」のカウントを間違えやすいため注意しましょう。
相続放棄を行った場合
基礎控除額の算定における「法定相続人の数」は、その相続で相続放棄があったかどうかを問いません。
例えば、法定相続人3人のうち2人が相続放棄を行ったとしても、「法定相続人の数」は3人とカウントし、基礎控除額は4,800万円になります。
養子縁組が行われていた場合
養子縁組が行われていた場合は、養子も法定相続人としてカウントすることになります。ただし、「法定相続人の数」に含める養子の数には制限があり、以下の数までのみ法定相続人としてカウントします。
- 実子がいない場合:養子は2人まで
- 実子がいる場合:養子は1人まで
ただし、実の親との親子関係を断ち切って養子縁組を行う「特別養子縁組」の養子は、実子と同様に取り扱われることになるため、全員を「法定相続人」としてカウントすることができます。
1-2.非課税枠や特例を利用する場合は申告が必要になるケースもある
相続税の計算には、非課税枠が設けられているものや相続税を抑える特例が存在します。非課税枠や特例を利用する場合には申告が必要になる場合もありますので、注意が必要です。
死亡保険金・死亡退職金がある場合
死亡保険金と死亡退職金の受取りがある場合には、これらの財産は「みなし相続財産」として扱われ、相続税の課税対象です。
しかし、死亡保険金や死亡退職金には、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠も用意されており、受け取った金額が非課税枠を超えている場合のみ、超えた部分と他の財産を合算した後の金額が基礎控除額を超える場合には相続税が課税されます。
例えば、以下の事例を考えてみましょう。
【事例】
- 法定相続人:配偶者、子2人
- 基礎控除額:4,800万円
- 死亡保険金:3,000万円
- 死亡保険金の非課税枠:500万円×法定相続人3人=1,500万円
- その他の相続財産:4,000万円
死亡保険金3,000万円から非課税枠を控除した1,500万円と、その他の相続財産4,000万円を合計した金額は5,500万円となり、基礎控除額の4,800万円を超えているため相続税が課税されます。
特例を利用して相続税が0円になるケースは申告が必要
相続税の計算では、要件を満たすことで相続税を軽減することができる特例が存在します。
特例を利用した結果、相続税額が0円になる場合であっても「配偶者の税額の軽減」「小規模宅地等の特例」などを利用している場合には、相続税申告が必要になります。
特例には「相続税申告書の提出」が要件となっいるものがあり、相続税の納税がない場合であも申告が必要なため、相続税に強い税理士に確認することをお勧めします。
2.相続税がかかる金額かを判断する4つのステップ
相続税がかかる金額かについては、次の3つのステップで判断しましょう。
2-1.①基礎控除額を確定させる
まずは基礎控除額がいくらになるのかを把握するために、法定相続人は誰になるのか、何人になるのかを調べる必要があります。
被相続人の戸籍を出生から死亡まで遡って調査し、基礎控除額を正確に把握しましょう。
2-2.②相続財産の合計額を把握
亡くなった被相続人の財産を全て洗い出し、相続財産の合計額を把握します。この作業が一番大変で、財産を見落としてしまうと相続税がかかるかどうかを正確に判断することができなくなってしまいます。
預貯金や不動産といった財産だけでなく、有価証券や骨董品、ゴルフ会員権などの財産も漏れなく把握します。
2-3.③借金や葬儀費用など、控除できるものを差し引く
財産はプラスの財産だけとは限りません。借金やローンがある場合には、マイナスの財産としてプラスの財産から差し引くことができるため、マイナスの財産の把握も忘れずに行ってください。
また、被相続人の葬儀にかかった費用は「葬式費用」として相続財産から控除することができます。
2-4.④残った金額が基礎控除額を超えるかどうかを確認
プラスの財産からマイナスの財産と葬式費用を差し引いた金額を「遺産総額」と言い、この遺産総額が基礎控除額を超えている場合には相続税がかかることになり、相続税申告が必要になります。
遺産総額より基礎控除額が上回っている場合には相続税はかかりません。
3.相続税がかからない金額でも注意したいポイント
ご自分で計算した結果、基礎控除額よりも遺産総額が少ないから相続税がかからないと判断していても、相続財産の計算を間違っていたり、相続財産の漏れがあったりすることがあります。
相続税がかからない金額と判断しても、次のポイントには注意しましょう。
3-1.生前贈与はなかったかどうか
生前贈与に課税される贈与税には「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」の2つの課税方法があります。税務署に何も届け出を行っていない場合は「暦年課税」となり、生前贈与加算の対象になります。
生前贈与加算とは、亡くなった時から遡った一定期間内の生前贈与については、相続財産とみなされ相続税の対象になる制度です。加算される期間は、2024年以前の贈与分は3年、2024年以降の贈与から徐々に延長され最終的に7年になります。
一方で、申告書に相続時精算課税選択届出書を添付することで相続時精算課税制度を利用することができます。相続時精算課税制度には、2,500万円までの贈与が非課税になる特別控除がありますが、相続時に贈与財産の額を相続財産の額と合算しなければならない制約があります。
相続時精算課税制度を利用している場合は、遺産総額に贈与財産の額を合算し、合計額が基礎控除額を超えていれば相続税が課税されます。
生前贈与があった場合には、生前贈与があった日、生前贈与の対象になった財産の種類と金額を贈与契約書などでしっかりと把握しておきましょう。
3-2.「名義預金」は相続財産として課税対象になる
被相続人が配偶者や子どもの名義で預金を行う、実際の預金者とは異なる名義の口座に預けられたおかねを「名義預金」と言います。
名義が違っていても、通帳や印鑑を被相続人が管理している「名義預金」は、実質的に被相続人の財産と認定され相続税の課税対象です。
3-3.土地の評価方法に注意する
相続財産は時価により評価することになりますが、不動産の時価は預金などと異なり把握することが困難です。
国税庁では、土地の評価額を簡単に計算できるように路線価方式や倍率方式という方法を用意していますが、それでも計算方法は複雑です。ご自分で計算できない場合は税理士に相談してみましょう。
相続税がかかる金額かどうかで迷ったらご相談ください
相続税がかかる金額か否かは遺産総額が基礎控除を超えているかどうかで決まります。
一方、相続税額が0円になるケースであっても特例を利用していれば申告が必要になるケースもあります。
「自分で判断することができない」「相続税がかからないと思うけど自信がない」という場合には、相続税に強い税理士に相談してみることをお勧めします。
当事務所では、相続税がかかるかどうかのご相談も承っています。お気軽にお問い合わせください。