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遺言書は、相続を円滑に進めるための重要な手立てとなります。事実、昨今では、遺言書を遺すことがテレビなどで話題になることがあります。
しかし実際に遺言書を書く方はまだまだ少数で、2023年に行われた60歳~79歳の2,000名を対象とした調査でも、「既に自筆証書遺言を作成している」方が、2.0%、「既に公正証書遺言を作成している」方が1.5%と、遺言書を既に作成している方が3.5%という結果です*。
このような事情から、親に遺言を書いて欲しいと思っていても、なかなか切り出せないのが現状ではないでしょうか。
そこで、今回は、気持ちよく遺言書を書いてもらうための方法と、遺言書を作成するにあたってのポイントをご紹介させていただきます。
* 「遺言・遺贈に関する意識・実態把握調査要約版」より|日本財団
1. 高齢になった親に遺言書を書いてもらう方法は?
まず、遺言書を書いてもらうための方法をいくつかご紹介いたします。
1-1.親が遺言書を書くことに抵抗がないかを知る
もし、遺言書を書くことを躊躇しているのであれば、まずは、その理由を知ることが遺言書を書いてもらうための第一歩となります。
上記でご紹介した調査では、「遺言書は作成しておらず、今後も作成しない」とする回答が44.3%で、「まだ遺言書は作成しておらず、しばらく作成するつもりはない」との回答を合わせると8割にも達します。
遺言書を書かくことを躊躇するのは、おそらく以下に挙げる理由が複雑に絡み合っていると考えられます。
- 自分が死ぬことを前提としており縁起でもない
- 自分の家族が相続争いになるはずがない
- 一般家庭には関係のない話だ
- 書き方についての法律の規定が分からず面倒
- 法律の相続分で分ければいい
これらの絡み合った理由を一つずつ解きほぐしていくことが、一番の近道でもあるのです。
時間をかけながら向き合う必要があるかと思いますが、次のような方法で、話のきっかけを作れるかもしれません。
1-2.子供が自分で遺言書を書いてみる
遺言書を書いてもらう前に、自分で遺言書を書いてみるのも一つの方法です。自分で遺言書を書くことによって、今まで意識していなかったことに気づくことがあるかもしれません。
遺言書を書く際には、自分の親や配偶者、子供の将来について真剣に考える必要があります。作成するにあたり、自筆証書遺言の修正方法など具体的にどこが面倒なのか気付くこともあるでしょう。
また、親に遺言書を書いてもらいたいと説明する際にも説得力が増し、実際に書いてもらう段になって直面した問題を一緒に考える際に、自分の体験が生きてきます。
1-3.親に遺言書の必要性を説明する
遺言書がなくても遺産分割はできます。しかし、仲の良い家族だからといって、スムーズにいくかどうかは、保証の限りではありません。相続争いは誰にでも起こり得ることです。
相続では、大きなお金が動くことがあるため、人格が変わってしまう相続人もいます。そのうえ、元は他人である各相続人の配偶者が介入することで、話が厄介な方向に進んでいくこともあります。
また、財産がたくさんあるから相続争いが起こるというわけでもありません。例えば、相続財産が自宅と預金だった場合には、自宅を分割をするのが難しいため、「私も預金が欲しい」となる可能性もあります。
遺言書がないがために、遺された家族がこういったトラブルを抱える可能性をじっくりと説明してください。
遺言書は書かせるものではなく、自由意思で書くものです。説得ではなく、あくまでも説明をするという点については、お忘れにならないようお願い致します。
1-4.親にセミナーに通ってもらう
セミナーに通ってもらうのも一つの方法です。
最近では「終活」という言葉が一般的になり、ご自分の死にまつわるセミナーが全国各地で行われるようになりました。
遺言書を書くことに躊躇していた方でも、セミナーであれば、専門の講師が分かりやすく説明し、何より同世代の方々と共に学ぶことで、遺言書へのイメージが改善されていくかと思います。
最初から遺言書セミナーでは直接的で抵抗を感じる方もいらっしゃるかと思います。まずはエンディングノートのセミナーから誘ってみてはいかがでしょうか。
1-5.遺言書の作成について専門家へ相談を受ける
遺言書を書いてもらったとしても、その内容が十分ではないために、遺言書の存在がかえって火種となってしまい、相続トラブルに発展することもあり得ます。
トラブルのない遺言書を作成するためには、法律上の細かい制約を満たさなければならず、弁護士など専門家のサポートが必要不可欠になります。
遺言書を書いてもらう約束だけ取り付けて、後は任せっきりでは、片手落ちとなってしまいます。スマートフォンやパソコンを駆使して情報収集をし、相談先をリサーチしてください。
公正証書遺言を作成するために公証人に依頼する場合には、公証人役場を探して連絡を取り、一緒に行くなどすれば、親も「面倒」だと感じることなくスムーズに遺言書作成を進めていくことができるでしょう。
2. 遺言書を書いてもらうための留意点
最後に、親に遺言書を書いてもらう際に留意すべきポイントをご紹介させていただきます。
せっかく書いてもらっても、次のようなことになると本末転倒になってしまいます。
2-1.遺言書を無理やり書かせると欠格事由となる
親をだましたり、強迫して無理やり遺言書を書かせたりした場合や、既に書いてある遺言書を変更させるなどした場合には、相続人である子供であっても相続欠格に該当し、相続権を失って、(民法891条)相続できない可能性があります。
2-2.無理に書かせた遺言書は無効となる
無理やり書かせた遺言書は、親の真意が書かれたものではなく無効になります。
高齢で遺言書の文面を考えることが難しい場合には、子供が文面を作ってあげることはあるかもしれません。しかし、決してその内容を強制しないようにしなければなりません。
内容すべてについて説明し、十分に理解したうえで書いてもらわなければなりません。
2-3.自筆証書遺言は自書でなければ無効となる
自筆証書遺言は、遺言者本人がすべて手書きで作成しなければなりません。
本人以外が代わりに作成したあとに、本人が署名捺印したものでは無効となってしまいます。
ただし、自筆証書遺言に添付する財産目録については自書でなくてもかまいなせん。パソコンからプリントアウトしたものや、子供の代筆でも認められます。
2-4.遺言書の作成には「遺言能力」が必要
遺言書を作成するには、作成の際に「遺言能力」があることが法律上必要とされています。遺言能力とは、遺言によって死後どのような結果をもたらすかを理解したうえで、ご自分の力で遺言書を作成する能力です。
自筆証書遺言であっても、公正証書遺言であっても、遺言書の作成時に遺言者にこの遺言能力がなければ、無効となってしまいます。遺言者が亡くなった後に、一部の相続人から「作成した時には認知症だったはず」といった主張がなされることがあるのは、こうした理由があるからです。
遺言書の作成にあたっては、遺言者に遺言能力のあることが重要な前提条件となり、遺言者が認知症になり判断能力を完全に失ってしまうと、遺言書を作成することができません。
そのため、次のような資料を作成し、遺言能力について疑義が出た場合に備えておくと安心です。
- 医師に遺言書作成当時の診断書を書いてもらっておく
- 遺言作成当時の遺言者の会話など、遺言能力があることを示す動画を残しておく
公正証書遺言の作成は当事務所へご相談ください
遺言書は、どのようなご家族であっても、作成しておくに越したことはありません。
ただし、遺言書は作成する本人の意思を表すものですので、決して強要はしないようにしてください。
ご自分での説明に限界を感じられましたら、専門家への相談も是非ご一考ください。
当事務所では「遺言作成支援プラン」をご用意して、積極的に公正証書遺言作成のサポートを行っています。お気軽にお問い合わせください。