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家族信託

嫁に財産を渡したくない父がとった行動とは

相続人に関すること

父Aの推定相続人 長男B、次男Cの2人

相続時の状況

父A名義のマンション(5,000万円)自宅(5,000万円)金融資産(5,000万円)合計1.5億円

父Aからの相談

長男Bは独立して米国に家を買って生活している。次男CはAと同居しているが結婚はこれからである。そこでBにはマンションを相続させ、Cには自宅と金融資産を残したいと考えている。ここまでは遺言を書けばできそうである。ただ、父Aは長男Bの妻Dと折り合いが悪くBが死亡したときにDにマンションを相続させたくない。マンションはCに相続させたい。何かいい方法はないか?

問題点の抽出提案

この種の話、よく聞きます。嫁に財産を渡したくないという義父、夫に財産を渡したくない妻・・・
民法では子供、両親のいないBの財産は配偶者のD(法定相続分3/4)と兄弟のC(法定相続分1/4)に相続されます。そこで、マンションをDに相続させない方法を検討しました。

① Aが跡継ぎ遺贈遺言を残す方法・・・Aが「マンションをBに相続させ、Bが死亡した場合にはCに相続させる」と書いた場合はどうでしょう。実はこの跡継ぎ遺贈型遺言については、Bへの相続は有効だが、Cへの遺贈は無効とする余地が多く(最高裁S58.3.18判決)相続人間に紛争を生じかねない問題です。

② Bが遺言を書くとしたらどうでしょう・・・Aが亡くなった後のBの財産を推定しますと、自宅(50万$)金融資産(30万$)そしてAから相続したマンション(5,000万円)となりそうです。BがマンションをCに相続させ、自宅と金融資産はDに相続させるとする遺言を書けば問題は解決します。遺留分侵害もなさそうです。しかし、夫であるBに対してそのような遺言を強制することはできません。もし書いたとしてもAの死後Bが遺言を書き直す可能性もあります。

③ 信託を考える・・・AとしてはBの意志にかかわらず、Bの死後はマンションをCに相続させたいと考えています。そこで、遺言ではなくマンションを信託財産とする「跡継ぎ遺贈型受益者連続型信託」をご紹介しました。

④ 「跡継ぎ遺贈型受益者連続型信託」は遺言の限界を超え、財産を第1、第2、第3の者へ相続させることができます。最初の受益者をA(=委託者)Cを受託者とします。Aの死後は第2受益者をBとし、Bの死後は第3受益者をCとします。マンションをA→B→Cと連続して相続(遺贈)させることができDに移ることはありません。

⑤ しかし、受益者連続型信託には30年という期間の定めがあります。(信託法第九十一条) 信託契約開始から30年経過した日以降に最初に受益者となった人の死亡の時までとしています。Aが信託設定後30年以内に死亡しBが第2受益者となっていれば30年経過以降に最初に受益者となるCは第3受益者となることができます。


⑥ 信託であっても遺留分の問題は注意が必要です。
A相続発生の場合・・相続人であるB、Cはそれぞれ財産の1/4の遺留分を有しています。B信託財産=マンション(5,000万円)C自宅と金融資産(1億円)を残した場合、遺留分は3,750万円(15,000万円/4)を侵害していません。
B相続の場合・・DはそもそもAの相続人ではありませんのでBからCへ財産が移転しても遺留分の問題は生じないと考えられますが、反対意見もあり信託分野において未解決の点とされています。

⑦ 信託についてのご理解をいただいた上でAを受益者、Cを受託者とする信託の組成に移り現在、進行中です。

解決できた事項

① 家族信託が盛んに行われています。自分の財産を自身が死んだ後まで誰に相続させたいのか自由に選択できるメリットがあります。跡継ぎ遺贈型以外にも認知症対策、障害者生活保障のための信託など様々な活用例が見られます。

② 信託契約を組成するには、これら以外に金融機関や税務手続、公証役場など複雑な手続きも要し費用も発生します。税務リスクも発生しますので専門家に相談されることをお勧めします。

③ 今回はBにお会いすることなく委託者=受益者のAと受託者C間で信託契約を結びました。Aさんが亡くなった後のトラブルも予想されるところです。本来であればBにもご説明して信託契約を組成したいところでした。

解決事例カテゴリー
相続税申告事業承継遺言不動産対策家族信託相続トラブル