社長が急死した時の株式の相続
中小企業の経営者の悩みの一つに株式の分散があります。
中小企業の中には自社株式を親族や役員に持ってもらっているという例が少なくありません。
また、社員持ち株会を作って株式を所有している会社もあるかもしれません。
そのような状態で、株式を所有している人の相続が開始すると、その人の相続人に株式が相続されます。会社からすると見ず知らずの人が株主になることになります。
この株式の分散を避けるために、よく用いられるのが「相続人等に対する売渡し請求に関する定款の定め」という定款の規定を設けることです。
「会社法第174条 株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。」
この定めを定款に設けておけば、相続された株式を会社が買取ることができ株式の分散を阻止できるので安心ですね。
ところが、この規定のある会社のオーナーが亡くなったときはどうなるでしょう。
会社が相続人に売渡請求をするかどうかを決定するのは株主総会ですが、その際には相続人は株主総会決議に参加することができません。(会社法175条)
例えば、オーナー51%、他の株主数名49%の会社のオーナーがなくなりました。
相続人であるオーナーの長男が51%の株式を相続しました。
そこで、他の株主たちがオーナーの長男に会社法174条の規定に基づく定款の定めによって、長男に売渡請求を実施し、会社が自己株式51%を取得しました。
会社所有の自己株式に議決権はありません。結果としてその他49%の株主が会社のすべての議決権を掌握し会社を支配しました。典型的な会社乗っ取り事件で長男にとっての悲劇が起こりました。
どうすればよかったのか?
株式の売渡請求の定款の定めを設ける場合には、オーナー株式は遺言によって長男に相続させるとして”一般承継”ではなく”特定承継”(遺贈)しておくか、定款変更して売渡請求条項を削除しておく必要がありました。
こうすることによって、売渡請求の定款の規定は遺贈には及ばず、長男がオーナー株式を相続承継することができます。ただし、譲渡制限株式のため譲渡承認の手続きはもちろんとる必要があります。(会社法137条)