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中小企業では、社長のポケットマネーから経費を払うことも少なくありません。「後で会社から返済してもらえばいい」と考えていても、いつの間にか役員借入金の金額が膨らみすぎて簡単には返済できなくなってしまうことがあります。
また、社長の役員報酬が適正でない場合も役員借入金が膨れ上がる原因です。事業の収益に対して役員報酬が高額な場合、会社は決まった役員報酬を支払うことができずに未払の状態になり、役員借入金が増加することになります。
膨れ上がった役員借入金をそのままにしておくことは大きなデメリットです。なぜなら役員借入金は「相続税の対象」になってしまうからです。
1.社長の役員借入金は相続税の対象になる
社長に不幸があり、相続が発生した場合、役員借入金は社長の相続財産になり、相続税の課税対象になります。
会社が債務超過に陥っており、役員借入金を返済することができない場合「何か相続税の評価額を下げる方法があるのでは?」と思いがちですが、会社が法的な破産手続きを開始したなどの条件がない限り、役員借入金の評価額を下げることはできません。
会社が債務超過に陥っているケースでは、会社の株式の評価額は0円になるのにも関わらず、役員借入金においては会社の決算書の金額が全て相続財産になってしまいます。また、今まで返済されていない役員借入金はこれからも返済される可能性が低いため、役員借入金を相続した相続人にとって財産価値が低く、相続税の納税資金不足になってしまう危険性があります。
多額の役員借入金で相続人が困ってしまわないように役員借入金を解消する対策が必要です。
2.社長の役員借入金を解消する5つの方法
「会社の資金に余裕がある時に役員借入金を返済しよう」と考えがちですが、何かしらの対策や見直しを行わなければ返済する時が訪れることはないでしょう。ここでは、役員借入金を解消する5つの方法を紹介します。
2-1.役員報酬を減額して返済
役員借入金が膨らむ原因の1つに「適正額ではない役員報酬」があげられます。役員報酬が高すぎると資金繰りが間に合わずに役員報酬が未払となり、役員借入金が膨らみます。役員報酬を見直し、減額することで役員借入金の増加を抑えることができます。
また、役員報酬を大幅に減額し、社長への支払額の一部を役員借入金の返済に充てることで役員借入金を解消していくことができます。役員報酬を減額すると社長の所得税や住民税、会社と折半で負担している社会保険料の負担が減るため、資金繰りが楽になります。
ただし、役員報酬を減らすと、会社の経費が少なくなり、利益が増加するため法人税等の負担が増加する可能性があります。役員報酬の金額は、原則的に事業年度中に変更することはできませんので、十分検討して行う必要があります。
2-2.役員借入金を贈与する
役員借入金の直接的な解消方法ではありませんが、役員借入金を生前に相続人へ贈与する方法で相続時のデメリットを回避することができます。
役員借入金を贈与すると受贈者に贈与税が課税されます。贈与税の暦年課税には年間110万円の基礎控除があるため、役員借入金の贈与額が110万円以内であれば贈与税の負担なしで相続人への移行が可能です。
ただし、暦年課税には「生前贈与加算」があるため注意が必要です。生前贈与加算とは、亡くなる前の一定期間内に贈与を行った場合、その贈与がなかったものとして相続税の計算を行う制度です。
2023年の相続税法の改正により、相続開始前3年以内から7年以内に変更になります。生前贈与加算の年数は2031年までに段階的に延長されることになりますが、2031年以降であれば亡くなる7年以上前に役員借入金の生前贈与を行っていなければ効果がありません。社長の年齢や健康状態によりますが、相続が7年以内に発生する可能性がある場合には「相続時精算課税の選択」を検討してみましょう。
相続時精算課税の活用
相続時精算課税とは、受贈者が2,500万円まで贈与税を納めずに贈与を受けることができ、相続時に贈与した財産を加算して相続税申告を行う制度です。2023年の相続税法の改正では、相続税精算課税に「基礎控除」が新設されることになります。相続時精算課税の基礎控除額は年間110万円となり、年間110万円未満の贈与については贈与税も相続税もかかりません。贈与税の申告も必要ありません。
相続時精算課税制度は一度選択すると二度と暦年課税に戻すことができませんので、慎重に検討しましょう。
なお、毎年定額の贈与を行っている場合は定期贈与とみなされる可能性がありますので注意が必要です。定期贈与とは「5年間、年間100万円贈与する」など、取り決めが行われている贈与のことで、この場合は1年目に総額が贈与されたとみなして贈与税が課税されます。
2-3.役員借入金を放棄する
役員借入金を放棄(債務免除)し、役員借入金を帳簿上からなくしてしまう方法です。会社としては借金を免除してもらうことになるため「債務免除益」を計上することになります。債務免除益は特別利益になりますので、会社の損益にプラスして法人税等が課税されます。会社に多額の繰越欠損金がある場合には充当することができますので有効な方法と言えるでしょう。
ただし、債務免除を行ったことで会社が債務超過ではなくなり、株式の評価額がプラスになった場合には、他の株主への「みなし贈与」が発生することになります。役員借入金を放棄することで税負担が発生するおそれがありますので、事前に税理士にご相談ください。
2-4.DES(デット・エクイティ・スワップ)の活用
DES (Debt Equity Swap)とは「債務の株式化」をすることです。役員借入金を社長からの現物出資という形で資本金等に振り替え、役員借入金を解消する方法です。DESにより役員借入金の解消を行うと、役員借入金という負債が自己資本へ変わるため、自己資本比率が大きく増加することになります。
DESにより増加する資本金等は、役員借入金の帳簿価格ではなく、時価相当額で行う必要があります。帳簿価格と時価に差額がある場合には、債務消滅差益として会社の利益になり、法人税等が課税されますので注意が必要です。
例えば、役員借入金の金額が4,000万円あった場合でも、会社が社長に返済できる金額が1,000万円である場合には、DESにより資本金等に振り替えることができる役員借入金の時価は1,000万円になり、振り替えることができなかった残りの3,000万円は債務消滅差益として会社の利益に計上することになります。
2-5.金融機関から借入をして増資する
「DESにより債務消滅差益が計上されると法人税等を支払うことができない」という場合には、金融機関を利用してDESと同様の効果を得る方法もあります。
まず、会社で増資の決定を行います。次に社長が増資額を金融機関から借り入れ、会社に資本金を払い込みます。続いて、会社は払い込まれた資本金を原資に社長の役員借入金を返済します。社長は返済を受けた役員借入金を原資に金融機関から借り入れた増資資金の返済を行います。
上記の方法を行うことで、DESを行わずに役員借入金を間接的に資本金等に振り替えることが可能です。
まとめ
社長の役員借入金を解消する5つの方法を紹介しました。どの方法も、相続税・贈与税・法人税などの税制がからみますので、実施するには、十分な検討と注意が必要です。確実に行うためには、税理士などの専門家にご相談することをお勧め致します。
当会計事務所では、会社経営のこと・相続のことなど、経営者様のいろいろな課題に対して、解決するための方法を提案して参ります。お気軽にご相談ください。