目次
相続は、いつ発生するかわかりません。
自己破産手続き中、どのタイミングで相続が開始するかによって相続できる財産に大きな違いが出てきます。
今回は、自己破産と相続財産の関係などについてご紹介いたします。
1.自己破産した相続人でも相続はできる
最初に、自己破産しても相続できるのかを確認しておきましょう。
1-1.自己破産は相続の欠格事由ではない
相続には「相続欠格」という制度があり、次に該当する相続人は強制的に相続権がはく奪され、相続することができなくなります。
仮に被相続人が遺言に相続欠格者に相続をさせる旨を記載していたとしても、それは認められません。また、一度でも相続欠格になってしまうと相続権は永久に失われてしまいます。
- 故意に被相続人や他の相続人を死亡させ、または死亡させようとした人
- 被相続人が殺害されたことを知りながら、告発や告訴をしなかった人
- 詐欺や脅迫によって被相続人の遺言を、作成、撤回、取消し、変更することを妨げた人
- 詐欺や脅迫によって被相続人に遺言を、作成、撤回、取消し、変更させた人
- 被相続人の遺言書を偽造、変造、破棄、隠匿した人
自己破産はこれらに該当しませんので、相続欠格にはなりません。
1-2.自己破産を理由に相続排除はできない
相続人の相続権を失わせる制度には、相続欠格の他に「相続排除」があります。
相続排除とは、次のような事情によって被相続人が自身の遺産を相続させたくない推定相続人がある場合に、家庭裁判所に相続排除の申請をして相続権をはく奪することができる制度です。
被相続人本人ではなく、遺言によって遺言執行者が相続排除の申請を行うことも可能です。
- 被相続人への虐待行為があった
- 被相続人への侮辱行為があった
- 被相続人の財産を盗んだ
- 事件を繰り返し起こした
- 反社会勢力への加入
- ギャンブルを繰り返して、被相続人に借金を負わせた
など
自己破産をしたこと自体は相続排除には該当しませんが、自己破産に至った理由が相続排除に該当する場合には、被相続人の意思によって申請が行われることによって、相続権を失う可能性はあります。
2.自己破産と相続財産の関係
次に、自己破産と相続発生のタイミングで相続財産がどれくらい変わるのかをご紹介します。
自己破産の手続き中、以下のどのタイミングで相続が開始するかによって、破産者の手元に残る相続財産が変わってきます。
- 自己破産の申立前
- 自己破産の申立から破産手続き開始決定前
- 破産手続き開始決定後
2-1.自己破産の申し立て前の相続
自己破産の申し立てとは、書類を揃えて家庭裁判所に破産を申し立てる手続きのことです。
その前に相続が発生した場合には、自己破産をしていない相続人とまったく同じですので、遺産分割協議に参加し、割り当てられた遺産を相続し、相続税を支払うことになります。
その相続財産で債務を返済することができますので、自己破産を回避し、任意整理や個人再生で解決できないかを検討されてみてください。
2-2.破産手続き開始決定前の相続
破産手続き開始決定とは、申し立てを受けた家庭裁判所が「これから破産の手続きに入ります」という決定を出し、正式に破産手続きがスタートすることをいいます。
既に家庭裁判所に自己破産の申し立てをし、破産手続き開始決定前に相続が発生した場合には最もタイミングが悪く、相続財産を手に入れることができなくなります。
破産者は、破産手続き開始時に有する財産の財産管理権を失い、破産手続き開始決定前に発生した相続による相続財産は破産手続きの中に組み込まれ、債権者への返済に充てなければならなくなるのです。
よって、破産手続開始決定と同時に、財産管理権を持たない破産者の代わりに家庭裁判所が選任する破産管財人が遺産分割協議に参加し、分割協議書に押印します。破産者の存在により、他の相続人の遺産の取り分を減らしてしまうことになってしまいます。
遺産分割協議も「否認権」の対象となる
そこで、債権者への返済に充てられるくらいならと、破産者の相続分を0にして遺産分割を行うことがあります。
しかし、こうした遺産分割協議は、破産管財人による「否認権」行使の対象となり、遺産分割協議が否定される可能性があります。
※否認権:債権者への配当を確保するために、破産手続き開始決定前に破産者から他の人へ渡った財産を取り戻す権限のことです。
2-3.破産手続き開始決定後の相続
破産手続き開始決定後に破産申立人が取得した相続財産は、自己破産の後に新たに取得した財産になりますので、すべて破産者の財産です。遺産分割協議にも参加できますし、当然ですが相続税も発生します。
自己破産の原因となった債務は免責決定によって支払い義務がなくなったうえに、相続財産を得ることができますので、最も有利なタイミングとなります。
自己破産は迅速な手続きが重要になります。特に相続の発生が懸念される場合には、弁護士など専門家へのご相談をおすすめいたします。
3. 相続放棄と自己破産
遺産分割協議で破産者の相続分を0にすると、破産管財人の否認権の対象となることはご説明しました。
これに対して相続放棄は、最初から相続人としての身分をなくす身分行為ですので、破産管財人の否認権行使の対象にはならないとされています。
相続放棄を上手に活用することができれば、弁済に回される相続財産をなくし、他の相続人へ遺産を残すことができます。
ただし、これにはタイミングが非常に重要になります。
3-1.破産手続き開始決定前の相続放棄で親の財産を守ることができる
破産の申し立てを行う前、または破産手続き開始決定前に相続放棄をすることができれば、相続人ではなくなりますので一切の遺産を相続しなくて済むようになります。
親名義の不動産など相続によって他の相続人と共有状態になりますが、相続放棄をすることでその後に自己破産したとしても債権者に競売にかけられることを防ぐことができます。
なお、相続放棄は相続開始後3ヶ月以内に家庭裁判所に申請をしなければなりません。
3-2.破産手続き開始決定後の相続放棄は限定承認の効力しかない
通常、破産の申し立てを行ってから破産手続き開始決定が出るまでの期間は1週間程度となっていますので、申し立てを行ってから相続放棄をしようとすると、ほぼ破産手続き開始決定後になります。
開始決定前であれば自由に相続放棄することが可能なのですが、開始決定後になりますと相続放棄は限定承認の効力しか持ちません(破産法238条1項)。
限定承認とは、相続した財産の範囲内で債務を引き継ぐことで、この場合にはまず破産者が受け取る遺産の範囲内でのみ被相続人の債務を返済し、それでもプラスの財産が残る場合には破産の手続きに組み入れられることになります。
相続放棄は破産者が受け取るはずだった遺産もすべて放棄することになりますので、債権者の権利を侵害しているとも考えられ、破産手続き開始決定後の場合には相続放棄に制限がかかっています。
3-3.自己破産で免責されない債務
自己破産をした場合でも、最終的に免責にならない債務があります。これを非免責債権といい、支払を怠ると財産の差押や強制執行が行われる可能性があります。
非免責債権の種類は多岐にわたりますが、代表的な例は次の通りです。
- 税金
- 国民健康保険料、国民年金保険料
- 夫婦間での生活費
- 婚姻費用
- 養育費
- 交通事故の被害者の損害賠償請求権
- 罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金または過料
など
3-4.相続放棄で免責されない債務
相続放棄にも免責されない債務があります。
- 夫婦の日常生活にかかる債務(家賃、水道光熱費など)
- 相続人自身が被相続人の借金の連帯保証人になっている場合の連帯保証債務
など
まとめ
自己破産と相続、相続放棄はタイミングが非常に重要になります。相続できるか否かの瀬戸際の問題になりますので、懸念される場合には専門家へのご相談をおすすめいたします。