目次
家族信託を利用したアパート経営は、認知症対策のみならず相続税対策としても非常に有効です。
今回は、アパートローンの利用したアパート経営について、ローンの仕組みも含めてご紹介します。
1. 家族信託を利用したアパート経営
最初に、家族信託によるアパートの購入計画のスタートから、実際にアパート経営が始まるまでの流れをご紹介します。
1-1.家族信託契約からアパート管理まで
①家族信託契約の締結
家族信託の運用は、信託契約の内容を基に進めていきます。
アパートを信託財産にする旨はもちろんのこと、アパートの新規購入や売却など、受託者にどこまで権限を与えるかを詳細に決めて、家族信託契約書に記します。
ここでの不備は後々トラブルが発生する可能性が高くなりますので、専門家のサポートを受けながら契約書を作成することをおすすめします。
②アパートローンを組むことができる金融機関を探す
アパートを新規購入する場合には、金融機関でローンを組むことが多いかと思いますが、家族信託を活用したアパートローンの場合には、どの金融機関でも対応可能というわけではありません。
家族信託自体の取り扱いがないところ、別段の対応となるため通常のアパートローンよりも条件が厳しくなるところ、通常より多くの担保や保証人が必要になるところなど様々ですので、とにかく条件の良い金融機関を探します。
専門家によっては、金融機関を紹介できることもありますので、相談してみると良いかと思います。
家族信託は話題の制度であり需要も高いため、対応する金融機関は年々増加傾向にあります。メガバンクはもちろんのこと、全国の地銀や信用金庫でも広がってきています。例えば、横浜信用金庫ではアパートローンを活用した家族信託のセールスを開始しています。
③アパート完成・家族信託による管理
アパートが完成したら登記を行い、受託者は信託契約で定めた内容通りにアパート経営をスタートさせます。
アパートローンの返済については借り入れの方法で異なりますので、後述させていただきます。
1-2.家族信託を使ったアパート経営のメリット・デメリット
家族信託によるアパート経営には、次のようなメリットとデメリットがあります。
比較しますと、デメリットを超える大きなメリットがあることが分かります。
メリット
- 委託者が認知症などで判断能力が低下しても、アパート経営が滞ることはありません。
- 財産承継者を先何代までも定めることが可能です。
- 委託者または受託者が破産したとしても、信託財産は差し押さえの対象になりません。
デメリット
- 家族信託に精通した専門家はまだまだ少ない状況です。
- 信託財産から年3万円以上の収入がある場合には、信託計算書と信託計算書合計表を提出しなければならないため、確定申告以外にも申告の手間が増えます。
2. 家族信託を利用したアパートローンの仕組み
アパートローンには、信託内借入と信託外借入があります。
両者の仕組みと、適した利用場面についてご紹介します。
2-1.新規のアパートローンは信託内借入で
信託内借入とは、信託契約で定めた受託者の権限に基づき、受託者が契約者となって借入を行う方法です。借入金は信託財産に含まれることになるため、信託内借入といいます。
信託財産である融資金から購入したアパートは、当然ながら信託財産となりますので、そこから生まれる賃貸収入も信託財産となり、その信託財産を原資として借入金を返済することになります。
信託内借入は、返済まですべてを信託財産を利用して行うこととなり、スムーズで分かりやすい仕組みになります。新規のアパートローンを組む際には利用したい方法です。
2-2.既存のアパートローンは信託外借入で対応
一方、信託外借入とは、信託契約の枠外で委託者が契約者となって借入を行う方法です。あくまでも委託者の個人的な借入になりますので、借入金は信託財産の中に含まれないため、信託外借入といいます。
信託外借入を原資として購入したアパートも、委託者個人のアパートであるため完成時点では信託財産ではありません。アパートを受託者の管理にするためには、追加信託により信託財産にします。
返済も信託契約の枠外で、委託者個人が行っていくことになりますので、アパートの賃貸収入を原資に返済をしたい場合には、送金の流れも信託契約で取り決めておく必要があります。
既にアパートローンを組んでいる場合
既に委託者がアパートローンを組んでアパートを所有しており、それを信託財産にしようとする場合には、まずその旨を借入先の金融機関に相談し、許可を得なければなりません。
ただし、金融機関から許可をもらうことは簡単ではありません。ローンの契約者は委託者であるにも関わらず、アパートを受託者が所有するのでは、返済が滞った際の請求先がなく回収不能になってしまうため、金融機関側からしますと、アパートの信託財産化は通常嫌がられるのです。
借入先の金融機関から許可が下りなかった場合には、家族信託に積極的な金融機関から信託外借入を行い、既存のローンを一括返済して借り換えることで対応すると良いかと思います。
3.アパートローンの相続税債務控除について
相続税の計算には、借入金などの債務は遺産総額から差し引ける債務控除という仕組みがあります。
アパートローンは借入金ですので、債務控除の対象になると思われるかもしれませんが、対象にならない場合もあるのです。
3-1.信託内借入
まず現時点においては、信託内借入の場合の債務控除の可否についての明確な定めはありません。
法律の条文から読み取って解釈する形となるのですが、委託者兼受益者の死亡により第2受益者に引継ぐことになる「受益者連続型信託」と、委託者兼受益者の死亡により終了する「一代限りの信託」とで、取り扱いが異なると一般的に解釈されています。
受託者連続型信託の場合
受益者連続型信託では、「受益者である親の死亡により受益権を受け継ぐ第2受益者は、相続により受益権を取得した者とみなされる」(相続税法9条の第2項)、「受益権を相続により取得したもとみなされた者は、信託の受益権を構成する資産・負債を取得・承継したものとみなされる」(相続税法9条の第6項)と規定があります。
よって、第2受益者は受益権を構成するアパートローンも相続によって取得したものとみなされることになると考えられますので、債務控除は可能と解釈して良いかと思います。
一代限りの信託の場合
一代限りの信託については受益者連続型信託のように、相続税法の中にアパートローンが承継されたもとのする明確な規定がないため、債務控除できないと解釈されるリスクがあります。
3-2.信託外借入
信託外借入は、委託者が個人的に借り入れたアパートローンであり、信託契約の枠内の債務です。よって、通常の相続手続きと同様と考えられるため、債務控除は可能です。
上原会計事務所では、家族信託におけるアパートローンの債務控除についてのアドバイスも可能です。もし、ご不安をお持ちの方がいらっしゃいましたら、是非、ご相談ください。
4.アパートローンの債務控除を考慮した家族信託
最後に、アパートローンの債務控除を受けるための信託内借入と信託外借入、信託契約の有利な組み合わせをまとめたいと思います。
4-1.信託内借入を利用
信託内借入を利用する場合には、相続税の債務控除が確実に適用できるように、アパートローンと財産の帰属先を一致させ、第2受益者に受益権を移転させることができる受益者連続型信託にすると良いかと思います。
4-2.信託外借入を利用
信託外借入では、委託者がアパートローンを負担しているため、債務控除の利用が可能です。一代限りの信託の場合には、信託内借入だと債務控除の適用にリスクがあるため、信託外借入を利用すると良いかと思います。
ただし、委託者が死亡した場合には、アパートローンはそのままだと法定相続人全員に相続されることになるため、金融機関と協議して受益権承継者と一致させる手続きを行う必要があります。
まとめ
アパート経営は家族信託を利用すると、そのメリットをより享受することができます。
アパートローンを組む際には、信託内借入と信託外借入の2パターンがあり、債務控除の可否が変わってきます。特に、相続税対策として家族信託を行う場合に、相続税の債務控除が受けられないと本末転倒になってしまいます。
家族信託を利用したアパートローンについては、金融機関も絡んでくることになりますので、税理士のサポートを受けながら進められることをおすすめいたします。