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親に借金があることが発覚すると、ご自分が親の借金を肩代わりしなければならないのだろうかと不安を抱く方も多いでしょう。生前には親本人以外、原則として借金の返済義務はありません。ただし、親がお亡くなりになるとその借金を相続することになります。
しかし親の借金の負担をしたくないという場合には、親の生前や相続後にできる手続きがあり、適切な方法を選択することが大切です。
今回は、親の借金を肩代わりしたくない場合に取るべき方法について解説します。
1.子どもは親の借金を肩代わりする義務がある?
子どもに親の借金を肩代わりする義務があるかどうかは、親がご健在か否かによって異なります。
1-1.親が健在な場合
親の借金は、借金をした本人以外には原則として返済義務はありません。そのため、親が健在な場合には、子どもが借金の返済義務を負うことはありません。
ただし、親が借金をする際に、子どもが保証人になっていた場合には、保証人として親の借金を返済する義務が課されることがあります。
1-2.親が亡くなった場合
親がお亡くなりになると、親の遺産は相続人が相続することになります。遺産には、現金・預貯金・不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。そのため、親が亡くなると親の借金は、子どもが相続することになります。
借金を相続した場合、子どもは、法定相続分に従って、債権者に返済をしなければなりません。相続人による遺産分割協議によって、誰かひとりに借金を負担させたとしても、債権者との関係では、そのことを主張して債権者への返済を免れることはできません。
2.親の借金について生前にできる方法
親の借金については、以下のような方法で生前に処理することも可能です。
2-1.親の財産状況を把握する
親の借金を処理するためには、まずは親が借金をしているかどうか、借金をしている場合には、いくらの借金が残っているのかを調べる必要があります。
①親が協力してくれる場合
親が借金の調査に協力してくれる場合には、親に借金の内訳を明らかにしてもらいましょう。
親が借金を把握していない場合には、信用情報機関に信用情報開示請求を行うことによって、借入先の金融機関やカード会社などを把握することができます。
②親の協力がない場合
親の協力が得られない場合には、以下のような方法で借金の有無を確認するしかありません。
- 家に届く郵便物に督促状などがないかチェック
- 自宅やマンションの不動産登記事項証明書を取得し、抵当権設定の有無をチェック
- 通帳などの引き落としで返済履歴がないかをチェック
なお、親宛ての郵便物を勝手に開封すると、家族であっても親書開封罪に問われることがあります。
2-2.親に債務整理をしてもらう
親に借金があることが判明した場合には、生前に債務整理をしてもらうことで、子どもが相続する借金の負担を減らすことができます。
債務整理には、任意整理、自己破産、個人再生の3つの方法があり、それぞれメリット・デメリットがありますので、専門家に相談をしながら適切な方法を選択するようにしましょう。
3.相続開始後にできる方法
相続開始後であっても、以下のような方法によって借金の負担を免れることができます。
3-1.借金を確認する方法
親が健在の間は、親本人でなければ信用情報機関に信用情報開示請求をすることができません。しかし、親が亡くなった後は、相続人が親の代わりに信用情報開示請求をすることができます。
生前に親の協力が得られず、借金の有無がわからなかったという場合には、相続人が信用情報機関に信用情報開示請求をするとよいでしょう。
3-2.相続放棄を選択したほうがいいケース
相続放棄とは、被相続人の遺産に関する一切の権利を放棄する手続きです。相続放棄をすることによって、借金を含めたすべての遺産を相続することができなくなります。そのため、相続放棄をするのは、相続財産調査によってマイナスの財産がプラスの財産を上回ることが明らかになった場合に行うとよいでしょう。
なお、借金があるからといって安易に相続放棄をしてしまうと、その後借金を上回る遺産が見つかったとしても、相続放棄の撤回をすることはできません。
3-3.限定承認を選択したほうがいいケース
限定承認とは、被相続人の遺産自体は相続するものの、マイナスの財産の相続をプラスの財産の範囲内に抑えることができる手続きです。このような限定承認を選択した方がよいケースとしては、以下のケースが挙げられます。
- プラスの財産とマイナスの財産の詳細が不明なケース
- 自宅などの手放せない財産があるケース
- 被相続人の事業を引き継ぐケース
なお、相続放棄は、各相続人が単独で行うことができますが、限定承認は、相続人全員で行わなければなりません。他の相続人の協力が得られなければ限定承認は行えません。
4、親の借金を相続したくない方によくある質問
以下では、親の借金を相続したくない方によくある質問とその回答を紹介します。
被相続人に借金があることを相続まで知らなかったらどうなるの?
相続放棄や限定承認をするには、相続開始を知ったときから3か月以内に行わなければなりません(民法915条)。この期間を「熟慮期間」といい、熟慮期間経過後は、相続放棄や限定承認は原則として認められません。
ただし、特別な事情がある場合には、熟慮期間経過後であっても相続放棄や限定承認が認められる可能性もあります。まずは専門家である弁護士に相談をしてみるとよいでしょう。
相続人が親の借金の保証人になっている場合はどうなるの?
相続人が親の借金の保証人になっている場合には、保証人としての返済義務が生じます。親から相続した借金については、相続放棄によって返済義務を免れることができますが、保証人としての返済義務は、保証人固有の地位ですので、相続放棄をしても返済を免れることはできません。
返済が難しいという場合には、債務整理によって返済の負担を軽減することも可能です。専門家である弁護士に相談してみるとよいでしょう。
相続放棄の手続き中に親の債権者から支払い請求されたら?
相続放棄の手続き中に親の債権者から返済を求められたとしても、絶対に支払ってはいけません。相続財産のなかから借金の返済をしてしまうと、法定単純承認事由である「相続財産の処分」(民法921条1号)にあたり、相続放棄をすることができなくなってしまいます。
債権者には、相続放棄の手続き中であるため返済には応じられない旨伝えるとよいでしょう。
まとめ
ここまでご紹介した通り、親の借金も相続の対象となります。しかし適切に対処すれば、親の借金であっても決して不安になる必要はありません。ご不安なときには、弁護士にご相談いただくといいでしょう。
上原会計事務所には、弁護士が常駐しています。相続についてご不安になった際には、お気軽にお問い合わせください。