目次
「相続税申告は税理士にお願いするもの」というイメージが強いかもしれませんが、相続税に限らず税金の申告は本来、納税者自身が行うことが基本であり、それが難しい場合や専門家の知識が必要と判断された方が、税理士に依頼される流れになります。
ただ、相続税の申告は法人税や所得税に比べて専門性が高く、ご自分の判断のみで行うことが難しいことがあります。
今回は、相続税申告を自分で行う方法と、自分で行えるケースと税理士に依頼した方が良いケースを具体的にご紹介いたします。
1.相続税申告を自分で行うには
1-1.相続税申告は誰がいつまでにする?
相続税申告は、被相続人の財産を相続または遺贈により取得する人で、相続税が発生する人が行います。
相続税が発生しない場合でも、小規模宅地等の特例など相続税申告が適用要件となっている制度の適用を受ける人は申告が必要です。
特例や控除を適用したために相続税が発生しない場合であっても申告が必要なケースについては、以下の関連記事をご参照ください。
【関連記事】相続税申告が不要なケース、必要なケースについてご紹介
申告期限は相続開始日(被相続人の死亡日)の翌日から10ヶ月で、相続税の納付期限も同日です。
1-2.相続税申告の流れ
①法定相続人、相続財産・債務の確認
法定相続人が誰になるのか、相続財産の名称と金額を書き出します。
ここでの確認漏れは相続税額に大きく影響します。
このとき、借金などの債務についても併せて調査します。負債は、相続税の課税財産の額から控除できるため、とても重要になります。
主な財産の確認方法は以下の通りです。
財産の種類 | 調査方法 |
---|---|
預貯金・有価証券など | 被相続人の通帳や被相続人宛ての郵便物、電子メールから金融機関に照会 |
土地・建物 | 登記権利書や固定資産課税台帳などから確認 |
自動車・船舶など | 権利証や課税状況の確認 |
借金 | 借用書や金銭消費貸借契約書等の書類や貸金業者からの郵便物などを確認 信用情報機関への借金の開示請求 |
②申告書用紙の入手
申告書の用紙は税務署で貰うことができます。国税庁ホームページからダウンロードすることも可能です。
生前から相続税がかかる可能性が高いことが税務署に把握されていた人は、相続発生後に税務署から申告書用紙が送られてくる場合もあります。
【参考サイト】相続税の申告書等の様式一覧(令和元年分用)|国税庁
③財産評価、申告書に必要な添付書類の収集
財産評価を行うために必要な書類(不動産の登記事項証明書など)や、申告書の添付書類(住民票、印鑑証明など)を収集します。
効率よく収集できるように、前もって必要書類を確認してリストアップしておくと良いでしょう。
【関連記事】相続税申告書の添付書類一覧
財産の評価方法については、財産の種類によって細かく規定されており、その規定に従って評価しなければ、過大・過小評価の原因となってしまいます。
④申告書の作成
実際に申告書を記入していきます。
申告書用紙を入手する際に、税務署から申告書作成の手引きが貰えます。分かりにくい場合には市販の本や、インターネットを利用すると良いでしょう。
また税務署では申告書作成についての相談を無料で受け付けていますので、相続に関する書類一式を持って行けば、税務署職員に聞きながら作成することができます。
【参考サイト】相続税の申告のしかた|税務署
⑤申告書の提出と納税
申告書は、被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署長に提出します。
納税は、税務署、金融機関、郵便局の窓口で行うことができます。
納税額が1,000万円未満の場合には、「国税クレジットカードお支払いサイト」でクレジットカード払いができます。
また納付額が30万円以下の場合には、事前に「バーコード付き納付書」を税務署に発行してもらうことでコンビニ払いも可能です。
税金は原則として現金一括納付ですが、特別な事情がある場合には延納または物納という選択肢もありますので、必要な場合には税務署に相談してみることもできます。
2.相続税申告を自分するメリット・デメリット
2-1.自分で申告するメリット
相続税振興を自分自身で行うメリットは、税理士報酬が発生しないということです。
相続税申告にかかる税理士報酬の目安は、遺産総額の0.5~1%といわれており、多くの税理士がこの範囲内で報酬を設定しています。
遺産が1億円ある場合には100万円程度の税理士報酬がかかるということになります。自分で申告を行えばこれが0円で済むということですから、大きな節約になります。
2-2.自分で申告するデメリット
時間と労力がかかる
相続税申告を自分で行う場合には、書類の収集をはじめとして、財産評価から相続税計算まで、ほとんどを調べながら慎重に行うことになります。
本来より高い相続税を支払う可能性がある
相続税を計算する過程には、財産評価や様々な特例制度など、判断や計算が難しい箇所があります。
財産評価を高い金額にしてしまったり、適用できたはずの特例を適用しなかったりすると、本来より高い相続税を支払ってしまう可能性があります。
こういった場合に税理士に依頼すると、節税効果が得られます。税理士への依頼は、単に申告書作成のためだけにするものではありません。
税務調査が入る可能性が上がる
申告書には代行をした税理士の署名欄があります。ご自分で申告した場合にはここが空欄になりますので、税務署はその申告書が税理士を通していないものだということがすぐに分かります。
相続税の専門知識のない方が作成した申告書は、どうしても誤りがある可能性が高くなり、調査対象となりやすくなります。
3.相続税申告を自分でできるケース
次のようなケースに該当する場合は、ご自分で相続税申告を行っても、それほど難易度が高くありません。
3-1.現預金が遺産のメインである場合
現預金はその金額がそのまま評価額となりますので、難易度は高くありません。
現預金が遺産の大半を占めている場合には、現預金以外の財産評価を誤ったとしても、課税される遺産に大きな差額が生じることはなく、リスクも小さくなります。
3-2.遺産に土地がない場合
財産評価の中で、群を抜いて複雑な計算が必要になるのは土地です。
これがない場合には、申告書作成の難易度も低くなります。
3-3.遺産が5,000万円以下の場合
相続税は遺産の金額に対してかかる税金ですので、遺産が多ければ多いほど相続税率は高くなり、相続税も比例して多くなります。
遺産が5,000万円程度であれば、適用される相続税率は10~20%ですので相続税もそれほど大きくならず、追徴課税のリスクも小さいです。
4.相続税申告は税理士に依頼したほうがいいケース
4-1.遺産に土地がある場合
土地の財産評価は、土地の形状や周辺の状況などを評価計算に反映させなければならないため非常に複雑で難しく、3人の税理士が同じ土地の評価をした場合でも、3通りの評価額が出ることもある程です。
また土地は、他の遺産に比べて高額である場合が多いですので、計算を誤った時の差額も大きくなってしまいます。
本来より多くの相続税を支払わなくて済むように、またはその反対に追徴課税がかかることのないように、最初から正確な申告を行っていた方が良いでしょう。
また、土地が複数ある場合には財産評価に数ヶ月費やすこともありますので、申告期限に間に合わないという可能性も出てきます。
税理士はこのようなピンチが発生した場合でも、対応できる知識を持っています。
4-2.遺産が1億円以上の場合
遺産が1億を超えるほどになると、相続税は計算のし方によって100万円単位で変動しますので、ミスがあった場合の追徴課税も大きな金額になってしまいます。
遺産が多い人ほど、税理士に依頼した方がいいかと思います。