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小規模宅地等の特例の適用は、被相続人との同居が基本的な要件となっています。しかし、被相続人が老人ホーム入居中に相続が開始した場合には、適用できるのです。
今の時代、老後は老人ホームで生活をされ、最期の時も老人ホームで迎えられる方も非常に多いことが考慮され、税制改正により2014年(平成26年)1月1日以降に発生する相続に適用できるようになりました。
今回は、被相続人が老人ホーム入居中に相続が発生したときの小規模宅地等の特例の要件や、その場合の添付書類についてご紹介いたします。
1. 小規模宅地等の特例を老人ホーム入居中の相続で使う要件
被相続人が老人ホームに入居中に相続を迎えた場合であっても、次の要件すべてを満たす場合には、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例が適用できます。
- 被相続人が相続開始直前において、介護保険法等に規定する要介護認定等を受けていたこと
- 老人福祉法等に規定する特別養護老人ホーム等に入居していたこと
- 老人ホーム入居後に被相続人の自宅を事業用(賃貸など)にしていないこと
- 被相続人、その被相続人と生計を一にしていた親族以外の者の居住用にしていないこと
老人ホーム入居中の小規模宅地等の特例については、国税庁へも多くの確認があるようで、質疑応答ページが作成されておりますので、ご参考程度にご覧ください。
【参考ページ】老人ホームへの入所により空家となっていた建物の敷地についての小規模宅地等の特例(平成26年1月1日以後に相続又は遺贈により取得する場合の取扱い)|国税庁
2. 小規模宅地等の特例を使うための要件は相続人ごとに違う
小規模宅地等の特例の適用要件は上記の他に、相続人ごとに次のとおり定められています。
上記の要件をすべて満たしたうえに、各相続人の要件を満たすことで、小規模宅地等の特例を利用することが可能になります。
被相続人の配偶者
- 要件は特にありません
老人ホーム入居前に被相続人と同居していた親族
- 相続開始時から相続税の申告期限までその家に居住していること
- その宅地を相続税の申告期限まで保有していること
被相続人と別居していた親族(通称:家なき子特例)
- 被相続人と相続人が日本国内に住所を有していること
- 被相続人に配偶者がいないこと
- 被相続人に同居親族がいないこと
- 相続開始時に居住している家を過去に所有していたことがない
- 相続開始前3年以内に相続人や相続人の親族等が所有する家に居住したことがないこと
- その宅地を相続税の申告期限まで保有していること
家なき子特例について詳しくは、こちらをご確認ください。
【関連記事】小規模宅地家等の特例が使える「家なき子特例」の要件と相続税対策
3.老人ホーム入居中の相続で小規模宅地等の特例を利用するための添付書類
小規模宅地等の特例の適用受けるためには、次の書類を申告書に添付しなければなりません。
- 住民票の写し
- 戸籍謄本
- 遺言書または遺産分割協議書
- 印鑑証明書
被相続人が老人ホーム入居中に発生した相続で、小規模宅地等の特例の適用を受ける場合には、要介護認定等を受けていたことや、老人ホームへ住所を移していたことなどを証明するために、上記の他に次の書類も添付します。
- 被相続人の戸籍の附票の写し
- 要介護認定証・要支援認定証・障害福祉サービス受給者証など
- 福祉施設の入所時の契約書の写しなど
4.小規模宅地等の特例を利用できる?その他のケース
それでは最後に、小規模宅地等の特例の適用を受けることができるか否かの判断に迷うケースについてご紹介いたします。
4-1.被相続人が要介護認定申請中に亡くなった場合
被相続人が老人ホーム入居中に開始した相続で小規模宅地等の特例を利用する場合には、「被相続人が相続開始直前において、介護保険法等に規定する要介護認定等を受けていたこと」という要件があります。
では、もし、要介護認定の申請中に亡くなってしまった場合にはどう取り扱われるのでしょうか。
市町村が行う要介護認定等の効力は、申請のあった日にさかのぼって生ずるものとされていますので、相続開始の日以後に要介護認定等があった場合には、その申請があった日から要介護認定等を受けていたものとみなされますので、小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
【参考サイト】老人ホームに入所していた被相続人が要介護認定の申請中に死亡した場合の小規模宅地等の特例|国税庁
4-2.老人ホーム入居後、子が被相続人宅に引っ越した場合
被相続人が老人ホームへ入居した後、生計を別にして別居していた子供が被相続人の自宅で生活を始めた場合には、「被相続人、その被相続人と生計を一にしていた親族以外の者の居住用にしていないこと」の要件に反しますので、小規模宅地等の特例は適用できません。
一方で、老人ホームへ入居する前に引っ越して同居していた場合には、適用できます。
4-3.老人ホーム入居後、同居していた子が引っ越した場合
被相続人と同居していた子供が、老人ホームへの入居を機に別の家へ引っ越した場合には、その空き家となった自宅を配偶者または家なき子が相続する場合に小規模宅地等の特例の適用が受けられます。
4-4.老人ホーム入居後に被相続人の家財を処分した場合
被相続人の家具家電、生活用品などを処分した場合には、その家はもう被相続人の住まいではなく、居住用以外の用途になっていると考えられますので、小規模宅地等の特例は適用できません。
4-5.老人ホーム入居後に自宅を賃貸にした場合
被相続人が不在であるため自宅を他人に貸した場合には、「老人ホーム入居後に被相続人の自宅を事業用(賃貸など)にしていないこと」の要件に反しますので、特定居住用宅地等(限度面積330㎡、減額割合80%)としての小規模宅地等の特例は受けられませんが、自宅を貸していますので、貸付事業用宅地等(限度面積200㎡、減額割合50%)として小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
ただし、2018年(平成30年)4月1日以降に開始した相続につきましては、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は対象外となりました。
老人ホームへ入居してから3年以内に亡くなった場合には、小規模宅地等の特例は受けられないということになります。
まとめ
被相続人が老人ホームへ入居している間に発生した相続についても、小規模宅地等の特例の適用は受けられます。手続きは通常の場合と同様で、証明するための添付書類が少し増えるのみです。
重要となりますのは、適用を受けられるかどうかの判断かと思います。
「うちは該当するのかな…。」という場合には、相続税に強い税理士に是非ご相談ください。