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優秀な人材を確保し、労働生産性を向上させることは国の課題にもなっており、労働生産性の改善と向上がこれまで以上に求められています。「優秀な人材を確保したいけど、人件費に余裕がない」と悩まれている事業主の方の強い味方に「キャリアアップ助成金」があります。
キャリアアップ助成金は、国の助成を受けて派遣社員などの非正規雇用労働者を、正社員化、処遇改善を行い労働者の意欲を高める制度になります。
ここでは、キャリアアップ助成金の6つのコースについてご紹介します。
1.キャリアアップ助成金とは?
日本の非正規雇用労働者は2010年より増加しており、近年では約40%の労働者が非正規雇用労働者と言われています。厚生労働省では、非正規雇用労働者の減少を目的としてキャリアアップ助成金に力を入れています。
キャリアアップ助成金とは、非正規雇用労働者を正社員にするための制度を会社内で整備し、実際に非正規雇用労働者が正社員になった場合に支給される助成金です。
キャリアアップ助成金は、労働者の新規雇い入れ、アルバイトの正社員化、派遣社員の直接雇用など、会社の状況に合わせて6つのコースがあり、自由度が高く、利用しやすい助成金になっています。
1-1.キャリアアップ助成金の7つのコース
キャリアアップ助成金は、「正社員化コース」が2コースと正社員化コース以外の「処遇改善関係コース」が4コース用意されており、合計で6つのコースがあります。
①正社員化コース
アルバイトやパートなどの有期契約労働者等を正規雇用労働者に転換した場合や直接雇用した場合に助成されるコースです。他のコースと比べて最も利用しやすく「キャリアアップ助成金=正社員化コース」と言われるほどです。有期契約労働者等を雇用する事業主の方が最初に検討する助成金です。
②障害者正社員化コース
障害者の雇用促進と職場定着を図るための助成金です。
③賃金規定等改定コース
有期契約労働者等の基本給の賃金規定等を増額して昇給させた場合に助成されるコースです。
④賃金規定等共通化コース
有期契約労働者等の賃金規定などを作成し、運用した場合に助成されるコースです。賃金規定等は、正規雇用労働者と共通の職務等に応じた規定でなければなりません。
⑤賞与・退職金制度導入コース
有期契約労働者を対象に、賞与・退職金制度を導入し、支給または積立を実施した場合に助成されるコースです。
⑥社会保険適用時改善コース
短時間労働者に以下のいずれかの取組を行った場合に助成されるコースです。
- 新たに社会保険の被保険者となった際に、手当支給・賃上げ・労働時間延長を行った場合
- 労働時間を延長して新たに社会保険の被保険者とした場合
1-2.人材開発支援助成金との違い
キャリアアップ助成金と間違えやすい助成金に「人材開発支援助成金」があります。どちらも雇用関係の助成金ですが、助成金の目的が異なります。
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の会社内でのキャリアアップを促進する助成金であり、非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を目的としています。
一方、人材開発支援助成金は従業員の職業能力開発の促進のために支給される助成金です。従業員が職務に関連した専門知識や技術を身に付けて労働生産性の向上や技術の承継、グローバル人材の育成などを目的としています。
2.キャリアアップ助成金の6コースの概要
キャリアアップ助成金の7つのコースにはそれぞれ助成の要件と助成金額が設定されています。各コースの助成の要件と助成金額を見ていきましょう。
各コース共通の要件
各コースに共通して支給対象になる事業主が定められています。主な要件は次の通りです。
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとにキャリアアップ管理者を置いている事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに対象労働者に対し、キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主であり、キャリアアップ計画書を取組実施日の前日までに提出していること
①正社員化コースの概要
雇用される期間が6か月以上の有期雇用労働者、無期雇用労働者、または、有期派遣労働者、無期派遣労働者を正規雇用労働者等に転換または直接雇用した場合に助成されます。助成額は有期・無期によって異なります。
転換または直接雇用 | 有期雇用→正規雇用 | 無期雇用→正規雇用 |
---|---|---|
中小企業 | 80万円(40万円×2期) | 40万円(20万円×2期) |
大企業 | 60万円(30万円×2期) | 30万円(15万円×2期) |
正社員に転換したあと、6ヶ月継続して雇用すると1期目として申請できます。
その後、さらに6ヶ月継続して雇用すると2期目として申請できます。
加算額
いろいろなケースの加算措置があります。
措置内容 | 有期雇用→正規雇用 | 無期雇用→正規雇用 |
---|---|---|
派遣労働者を正社員として直接雇用 | 28万5,000円 | |
対象者が母子家庭の母または父子家庭の父の場合 | 95,000円 | 47,500円 |
人材開発支援助成金の訓練修了後に正社員化した場合 | 95,000円 | 47,500円 |
正社員転換制度を新たに規定し転換した場合 (1事業所当たり1回のみ) |
20万円(大企業 15 万円) | |
多様な正社員制度を新たに規定し転換した場合 (1事業所当たり1回のみ) |
40万円 (大企業 30 万円) |
正社員化コースはこちらの記事で詳しくご紹介しています。また、キャリアアップ助成金を申請する場合に注意しなければならないポイントについてもご確認ください。
【関連記事】キャリアアップ助成金(正社員化コース)を確実にもらうための方法
②障害者正社員化コース
障害者正社員化コースは、重度の障害者か重度以外の障害者かに区分され、有期雇用・派遣労働者から正規雇用労働者にした場合に120万円(60万円×2期)(大企業は90万円(45万円×2期))の助成を受けることができます。詳しくは、こちらをご覧ください。
【参照】厚生労働省:キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)
③賃金規定等改定コース
有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、昇給させた場合に助成されます。
賃金引き上げ率 | 3%以上5%未満 | 5%以上 |
---|---|---|
中小企業 | 5万円 | 65,000円 |
大企業 | 33,000円 | 43,000円 |
加算額
職務評価(※)の手法の活用により賃金規定等を増額改定した場合の加算措置があります。
企業規模 | 加算額 |
---|---|
中小企業 | 20万円 |
大企業 | 15万円 |
※職務評価とは、職務の大きさを相対的に比較し、その職務に従事する労働者の待遇が職務の大きさに応じたものとなっているかの現状を把握することをいいます。
賃金規定等改定コースの支給の流れ
- キャリアアップ計画の作成・提出
事業所ごとにキャリアアップ管理者を配置し、労働組合等の意見を聞いてキャリアアップ計画書を作成し、賃金規定等を増額改定する前日までに管轄労働局へ提出し認定を受けます。 - 賃金規定等の増額改定の実施
- 増額改定後の賃金に基づき6か月分の賃金を支給・支給申請
- 審査、支給決定
必要書類
支給要件確認申立書、キャリアアップ計画書、増額改定前および増額改定後の賃金規定等、対象労働者の増額改定前および増額改定後の雇用契約書等の書類
④賃金規定等共通化コース
有期雇用労働者等に正規雇用労働者と共通の賃金規定等を新たに作成し、適用した場合に助成を受けることができます。
助成金の支給額は、中小企業で1事業所当たり60万円となり、大企業の場合は1事業所当たり45万円になります。
賃金規定等共通化コースの支給の流れ
- キャリアアップ計画の作成・提出
- 賃金規定等の共通化の実施
- 賃金規定等共通化後の賃金に基づき6か月分の賃金を支給・支給申請
- 審査、支給決定
必要書類
支給要件確認申立書、キャリアアップ計画書、共通化前後の就業規則または労働協約等、有期雇用労働者等と正規雇用労働者が共通の賃金規定等の適用を受けていることを証明する労働者名簿等
⑤賞与・退職金制度導入コース
すべての有期雇用労働者等に関して、賞与 ・ 退職金制度を新たに設け、支給または積立てを実施した場合に助成されます 。
制度 | 賞与または退職金制度 いずれかを導入 |
賞与または退職金制度 を同時に導入 |
---|---|---|
中小企業 | 40万円 | 56万8,000円 |
大企業 | 30万円 | 42万6,000円 |
諸手当制度等共通化コースの支給の流れ
- キャリアアップ計画の作成・提出
- 賞与または退職金制度の導入
- 賞与の支給または退職金の積立・支給申請
- 審査、支給決定
必要書類
支給要件確認申立書、キャリアアップ計画書、制度新設前後の就業規則または労働協約等、対象労働者全員の制度新設前後の雇用契約書または労働条件通知書等、対象労働者全員の初回の支給・積立て前後および賞与支給月分の賃金台帳等など
⑥社会保険適用時処遇改善コース
雇用する短時間労働者に、以下のいずれかの取り組みを講じた場合に助成されます。
(1)手当等支給メニュー
新たに社会保険の被保険者となった際に、賃金総額を増加させる取り組み(①②)を行い、また、最終的に、恒常的な所得の増額となる取り組み(③)を行った場合。
制度 | ①1年目の取組 ②2年目の取組 |
③3年目の取組 |
---|---|---|
中小企業 | 40万円(10 万円 × 4 期※) | 10万円 |
大企業 | 30万円(7.5 万円 × 4 期※) | 7.5万円 |
※1期は6ヶ月
①、②:労働者負担分の社会保険料相当額 (標準報酬月額等の 15 %以上)の 手当支給又は 賃上げ
③:基本給の総支給額を 18 %以上増額 (賃上げ等、労働時間延長あるいはその両方による増額)
(2)労働時間延長メニュー
新たに社会保険の被保険者となった際に、週の所定労働時間を4時間以上延長する等を行った場合、または、週の所定労働時間を4時間以上延長する等を実施し、これにより当該労働者が社会保険の被保険者要件を満たし、その被保険者となった場合 。
企業規模 | 金額 |
---|---|
中小企業 | 30万円 |
大企業 | 22.5万円 |
※職務評価とは、職務の大きさを相対的に比較し、その職務に従事する労働者の待遇が職務の大きさに応じたものとなっているかの現状を把握することをいいます。
(3)併用メニュー
社会保険加入後、1年目に(1)手当等支給メニュー ①の取組 を行い、2年目に(2)労働時間延長メニューの取組を行った場合も、それぞれの額を支給します。
※中小企業 50 万円((1)① 20万円+(2)30万円 )、大企業37.5 万円((1 )①15 万円+(2)22.5万円)
選択的適用拡大導入時処遇改善コースの支給の流れ
- キャリアアップ計画の作成・提出
- 手当支給または労働時間延長を実施
- 延長後6か月分の賃金を支給・支給申請
- 審査、支給決定
必要書類
支給要件確認申立書、キャリアアップ計画書、対象労働者の雇用契約書または労働条件通知書等、対象労働者の賃金台帳等など