事業承継では、綿密な事業承継計画書を作成し、関係者と協力して進めていくことが大切です。
事業承継計画書とは何か? 事業承継計画書を作成するメリット、作成する流れと具体的な作成方法などを解説します。
1.事業承継計画書とはどんなものか
後継者へ事業を引き継ぐ事業承継は、経営者・経営陣にとって大きな節目になります。事業承継を成功させるために事業承継全体の計画を記したものを「事業承継計画書」と言い、事業承継を行う際の道しるべとして利用されます。
事業承継は、一般的に5年から10年程度かけて行われ、後継者の教育や株式の集約、関係者の理解など、事業承継が円滑に実施できるように対策を行います。事業承継計画書には、具体的に「どのような対策を、誰が、どのタイミングで行っていくのか」を落とし込み、後継者や経営に関わる人と認識をすり合わせる役目があります。
2.事業承継計画書を作成するメリット
事業承継には、事業承継計画書が必須と言っても過言ではありません。事業承継計画書を作成することには、次のようなメリットがあります。
2-1.経営状況を把握し、将来の事業計画を考えることができる
事業承継計画書を作成するためには、会社の現状を分析し、将来の事業計画を考えなければなりません。会社が置かれている環境や現状の課題を明確にさせ、経営者の想いを後継者に引き継いでもらう必要があります。
客観的に現状分析を行い、5年後~10年後の事業計画やビジョンを考えることが事業承継を考えるうえで重要です。事業承継計画書の作成をきっかけにして、自社の分析を行うことができます。
2-2.現経営者と後継者の意識を合わせ、後継者育成の道筋を立てることができる
事業承継は、業務の引継ぎではありません。会社の経営理念や経営哲学を後継者へ伝え、次の世代のリーダーを育てることが事業承継の重要な役割です。
事業承継計画書に現経営者の「想い」を反映させることで、どのように後継者育成を行っていくのかの道筋を立てることができます。事業承継計画書を活用し、業務内容を含め、会社の哲学を計画的に、時間をかけて理解を深め、共に働く従業員との関係を築くことが重要です。
2-3.事業関係者の協力を得ることができる
事業承継では、事業関係者の理解を得ることが必要不可欠です。事業関係者とは、従業員・取引先・金融機関・株主・専門家などが該当します。事業承継計画書を作成する中で、事業承継後の従業員との協力関係、株主の理解、取引先や取引銀行との付き合い方を明確にすることができます。
短期的に後継者に事業を引き継ぐのではなく、後継者に各部門で現場経験を積ませ、子会社に取締役や自社の取締役に就任させるなど、段階的に後継者へ権限を移していくことで関係者の協力を得やすくなります。
2-4.株式を整理することができる
事業承継対策として、早めに取り組まなければならないことが「株式の集約」です。株式を移転する方法には譲渡・相続・贈与がありますが、どの方法であっても株価に応じて課税の問題が発生します。事業承継には、後継者の持ち株が少なくとも過半数必要になりますので、事業承継計画書作成の段階から「株式の整理」を意識し、計画的に進めていくといいでしょう。
また、名義株がある場合や少数株主がいる場合などは、事業承継をきっかけに株式を買い取るなどの整理を行っておくと、後継者の将来の負担が軽減されます。
2-5.事業承継税制の特例に活用できる
自社株を後継者へ贈与や相続により移転する際には、贈与税や相続税の負担が発生します。これらの税金の負担は株価が高ければ高いほど大きくなり、事業承継の障壁になってしまいます。そこで、事業承継を円滑に行うために、一定の要件を満たすことで贈与税や相続税の納税が猶予される「事業承継税制」が用意されています。
事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」があり、納税猶予割合が100%になる特例措置を利用するためには、事業承継計画書(特例承継計画)の策定が要件の1つになっています。
3.事業承継計画書の作成の流れ
事業承継計画書の作成は、おおまかに次の3つのステップが必要です。
3-1.STEP1 現状把握
事業承継計画を作成する前段として、会社の「現状把握」をしっかりと行う必要があります。現状把握は、次の5つの点を重点的に行いましょう。
①経営資源の状況
会社の資産や借入金などの負債の状況、5年後、10年後の財務状況の見込み、従業員の人数や職場を取り巻く環境など、経営資源の状況を把握しましょう。
②経営リスクの状況
会社の置かれている事業環境、他社との競争力、将来の見込みなど、経営リスクについて客観的に分析しましょう。
③経営者の状況
経営者が保有している自社株式の状況、会社に貸している土地や建物、個人の負債や個人保証の状況などを把握しましょう。
④後継者の状況
後継者候補に該当する人の経営者としての能力や適性、経歴、事業への意欲など、後継者として相応しい人物かどうかを分析しましょう。
⑤事業承継の問題点
事業承継するにあたって、相続時に親族内で争いが起きないか、会社内部で後継者に反対する動きは起きないかなど、想定される問題点と対応策を事前に把握、分析しましょう。
3-2.STEP2 承継方法や承継時期の検討
後継者へ株式や事業用資産を集中させるための方法や承継を行う時期について検討します。親族内承継の場合は、生前贈与や遺言などの活用、後継者の税負担が大きくならないように事業承継税制の活用などを検討しましょう。
また、後継者以外の相続人への配慮も必要です。後継者のみに多くの財産を引き継がせてしまうと遺留分の問題が発生してしまいます。
3-3.STEP3 事業承継計画書、事業承継計画表の作成
STEP1~2の現状分析や検討をもとに具体的な事業承継計画を策定します。事業承継計画書、事業承継計画表には、決まった様式があるわけではありません。記載する必要がある項目が含まれていれば自由に作成可能です。
初めて作成する場合、事業承継計画書、事業承継計画表のイメージが湧かないと思いますので、日本政策金融公庫が用意しているテンプレートを参考にするといいでしょう。
【参考】日本政策金融公庫:事業承継計画書
4.事業承継計画書の書き方
日本政策金融公庫の事業承継計画書のサンプルを元に、書き方を簡単に紹介します。
①まず、事業承継の概要(現経営者名、後継者名、承継時期)を記載します。
②そして、事業承継を図るための具体的な取り組みを記載していきます。
- 承継に向けた事業の方向性
- 株式・財産
- 後継者教育
- その他の課題や取り組み事項
③事業承継を図るための必要な資金を記載します。
④⑤⑥支援機関等の支援を受けた場合は、その支援内容や、支援機関の連絡先等を記載します。
より具体的に、より分かりやすくするために「事業承継計画表」を作成してみましょう。事業承継計画表は、事業承継を実施するまでに現経営者と後継者がどのように経営に関わっていくのかを示したロードマップです。
中小企業基盤整備機構が用意しているテンプレートを参考にするとイメージしやすいと思います。
5.事業承継計画書作成のポイント
5-1.タイミングは60歳くらいが目処
「まだまだ現役」という経営者の方もいらっしゃると思いますが、事業承継には時間がかかります。もし、事業承継の準備がないまま病に倒れてしまった場合には、会社の存続の危機に陥ってしまいます。
経営者自身が健康なうちに事業承継ができるよう、60歳くらいを目途に事業承継について考えてみてはいかがでしょうか。
5-2.計画は数値で具体的に
事業承継計画書には、できるだけ具体的な数字を記載しましょう。達成できない目標値ではなく、これまでの実績から客観的に予測できる金額を記載することが重要です。また、事業承継スケジュールについても設定することで、何をすべきなのかが明確になりますので、できるだけ細かく設定しましょう。
5-3.現状の問題は早期解決
現状で把握している問題や課題は将来に先延ばしせず、早期に解決するようにしましょう。事業承継とは現経営者のケジメでもあります。後継者がのびのびと会社経営を行える環境を整えることは、現経営者の責務ではないでしょうか。
まとめ
事業承継計画書は、5年から10年程度かけて行われる事業承継で必須となるものです。まず、現状把握を行ったうえで、承継方法や承継時期の検討を行い、具体的な計画を作成します。
本記事では、事業承継計画書の作り方について概要を説明しましたが、他にも細かい箇所での重要ポイントは多くあります。それらをここですべてご説明するのは難しいですが、ご相談いただければ、さらに詳しくお伝えいたします。お気軽にお問い合わせください。