目次
会社を成長させるためには、人事評価制度は必要不可欠です。会社にとって従業員は「人材」であり「人財」という財産でもあります。
人事評価制度は、個人が持つ可能性をできるだけ引き出す仕組みであり、経営計画に欠かせない仕組みでもあります。
ここでは、従業員のモチベーションをアップさせる人事評価制度の作り方と運用方法をご紹介します。
1.人事評価制度とは?
人事評価制度とは「労務管理上の人事評価制度」と「経営にとっての人事評価制度」があります。
「労務管理上の人事評価制度」とは、従業員の会社の貢献度や能力を評価し、それを昇進や給料などに繋げる制度です。この制度は「評価」「等級」「報酬」により従業員のモチベーションアップと育成が主な目的になります。
次に「経営にとっての人事評価制度」では、会社の活性化・生産性や業績の向上・最適な人員配置が可能になります。
2.一般的な評価制度の種類
人事評価制度には様々な種類や要素があります。
会社が重視する方向性により、どの評価方法をどれくらいの割合で採用するかを決定することで、会社独自の人事評価制度を作成することができます。主な評価方法を見ていきましょう。
2-1. 目標管理制度
従業員が自主的に目標を設定し、目標を達成するための取り組みを行うことにより従業員のモチベーションアップを促す方法です。
その結果、会社の生産性や業績の向上に繋げることができます。現在では、日本企業の8割が人事評価制度に目標管理制度を取り入れており、目標管理制度も次の3種類に細分化されています。
OKR
Objective Key Resultの略語であり、従業員と会社の目標をリンクさせることで従業員の士気を高めながら会社の目標を短期間で達成することを目指す目標管理制度です。
近年の変化の早い社会への対応に優れているため注目を集めています。
MBO
Management by Objectivesの略語であり、従業員の自主性を尊重した個人目標を設定し、会社の目標と統合することで業績向上を目指す目標管理制度です。
多くの日本企業で取り入れられている手法になります。
KPI
Key Performance Indicatorの略語であり、重要業績評価指標という意味です。
最終的な目標を達成するまでの過程に様々な目標を設定し、測定していく方法です。最終目標までに必要な過程を把握し、現状の把握と次のステップの把握を行うことで、より確実に最終目標に到達できる手法です。
目標管理制度のメリット・デメリット
ご紹介した3つの目標管理制度による人事評価には、共通した次のようなメリットとデメリットがあります。
メリット
- 目標を設定することで人事評価の指標が明確になり、従業員にとって自主的に目標設定ができるためパフォーマンスアップに繋がる
- 次のプロセスが明確になるため、作業効率アップが見込める
デメリット
- 従業員への評価作業に時間がかかる
- 目標の難易度により評価基準を変更する必要があり、適正な評価が難しい
- 個人の目標が組織の目標と連動しておらず、個人の目標の方が評価される状況では組織が弱体化するおそれがある
- 長期的な目標は社会の早い変化に対応できず、時代遅れになる可能性がある
2-2.コンピテンシー評価
コンピテンシーとは、高い業績の人に共通する行動特性のことを言います。
コンピテンシー評価では、コンピテンシーをリスト化し、そのリストを評価基準に活用することで会社全体の行動の質の向上を目指します。
評価基準は、責任感や積極性、協調性などの抽象的な評価ではなく、具体的な行動による評価を行います。例えば「人と親密な会話をすることができ、良い人間関係を構築できる」といった評価基準で評価を行います。
コンピテンシー評価のメリット・デメリット
メリット
- 効率的な人材育成が可能
- 具体的なスキルで判断するため、人事評価が容易
デメリット
- 導入時のコンピテンシー評価基準の分析が難しい
- 評価した行動特性が会社の業績向上に寄与するかわからない
2-3.360度評価(多面評価)制度
360度評価制度とは、上司だけではなく部下や同僚からの人事評価を受ける制度です。
従来の上司と部下という「縦」の関係からの評価だけではなく、対象者の周囲という「円」の関係でも評価を行います。上司以外の人も評価を行うため、より公平で客観的な評価を得ることが可能です。
360度評価のメリット・デメリット
メリット
- 「偏りのない客観的な評価」が可能
デメリット
- 広い範囲の人が評価者となるため、評価者の主観を取り除くことが難しい
2.人事評価制度の作り方と導入方法
実際に社内で人事評価制度を作成する場合は、次の7つの基本的なステップで作成します。
会社が何を重視しているかによって評価基準は異なりますが、基本的な作成順序は次のプロセスにより行います。
ステップ① 評価の目的を設定
人事評価制度を作成し、人材育成を促進することで「会社がどのようになりたいのか」目標を定義します。
「よりよい会社にしたい」といった抽象的なものではなく、具体的な会社のビジョンを設定すると効果的な人事評価項目を作成することができます。会社の経営理念やバリュー、ミッションなどと照らし合わせて決めましょう。
ステップ② 評価の目的から評価項目の決定
評価の目的に向けて役割ごとの評価基準を設定し、目標とする組織になるために必要な役割や能力に応じた評価基準をクリアできる評価項目を設定します。
評価項目は、コンピテンシーを参考にしたり、次の3つの評価項目を掘り下げることで決定したりします。
能力評価
役割を遂行するために必要な能力を評価する項目です。
知識や技術、処理能力の高さや業務よって得られた能力を評価します。細かく設定することが難しい場合は、厚生労働省で定められている「職業能力評価基準」を参考にするといいでしょう。
成果評価
従業員自身が定めた目標の達成度や業務の遂行度などの業績を評価する項目です。
冒頭にご紹介した目標管理制度を利用して目標の達成度を計測したり、売上などの目に見える達成度を基準にしたりして成果評価を行います。
情意評価
業務へ取り組む姿勢を評価する項目です。
組織内のルール(規律)を守れているか、他の従業員と協調して業務に取り組んでいるかなどの業務への意欲が行動に反映されているかを評価します、
ステップ③ 評価項目の比重を設定
どの評価項目にどのくらいの比重を置くか設定します。
それぞれの部署や役割、経験年数によって比重を変更することで、目標とする会社組織に近づくことができるでしょう。
一般的には、役職の高い従業員ほど成果評価の比重が高くなる傾向があり、成果評価で判断がしづらい部署や新規雇用の従業員などには情意評価の比重が高くなる傾向があります。
ステップ④ 評価の反映方法の決定
評価項目をいつ、誰が、どのように評価するのか基本的なルール作りを行います。
また、評価した項目を数値化する方法や、その数値をどのように昇進や昇給にリンクさせるかを検討します。
ステップ⑤ 賃金の分析
現状の賃金について分析を行い、会社の適正な賃金制度の調査を行います。
人事評価制度の導入における賃金テーブルを作成し、その賃金テーブルを評価項目に結び付けます。また、賃金分析により残業対策や労務リスクを探り出すことができます。
ステップ⑥ 導入までのスケジュール策定
制度の導入時期の決定や従業員への周知・説明会などのスケジュールを組みます。
評価者へ人事評価制度研修などを行い、スムーズに制度が導入できるように事前に準備を行います。
ステップ⑦ 導入後の人事評価のフィードバック
人事評価制度は、経営状況や社会状況によって常に変化するため、評価項目や比重を見直す必要があります。
従業員からの人事評価に対するフィードバックを参考に何度も改善を行う必要があります。
3.人事評価制度策定時のポイント
人事評価制度策定時には、重要なポイントや考慮しなければならない点がいくつかあります。
3-1.4つの「明確化」
人事評価制度では「明確化」が最も大事なキーワードになります。次の4つの明確化を意識して人事評価制度を作成するといいでしょう。
- 人事評価制度の目的の明確化
- 人材育成を目的とした必要な能力の明確化
- 評価項目と比重の明確化
- 評価制度と昇進昇給の明確化
3-2.個人的感情は除外する
人事評価を行う評価者は感情的な評価を排除していかなければなりません。しかし、人事評価で100%個人的感情を排除することは大変困難です。
一度評価し終わった後に、もう一度評価を客観的に見直し、人事評価で個人的な感情や評価の対象外になる項目が紛れ込んでいないかチェックを行いましょう。
3-3.プロセスも重視
人事評価では成果評価や能力評価が重要視されがちですが、目標達成までの過程を評価する「プロセス評価」に注目することも重要です。
短期的に結果が出ていなくても、過程の行動が目標達成に繋がる行動かどうかを適正に判断して評価することが必要です。
3-4.会社の成長によって評価制度の見直しも必要
会社の事業が拡大するにつれ従業員の増加や役割の細分化などにより、当初の人事評価制度では対応できなくなることがあります。
会社や社会の変化に対応できる人事評価制度を構築し、構築した後も何度も見直しを行うことで、会社独自の人事評価制度を構築することができます。
まとめ
今回は「人事評価制度の作成方法」についてご紹介しました。
人事評価制度は人材育成を促進し、会社の成長に大きく寄与する制度です。また、会社の目標や方向性などで会社独自の個性が光る制度でもあります。
人事評価制度を作成したい、または見直しを行う際にご不明な点がございましたら、当事務所へお気軽にご相談ください。