
事業を始めるとき、当初は、個人事業主として開業すると、手続きや経理も楽です。ただ、事業が成長してくると、法人化したほうが、信頼性や節税の面でメリットが大きくなります。
個人事業主が法人化(法人成り)するための、様々な手続きと必要書類をひととおり解説します。
1.個人事業主の法人化(法人成り)とは
個人事業主の法人化(法人成り)とは、個人で行っていた事業を設立した会社(法人)が引き継いで行っていくことを言います。個人事業のときの資産や負債を法人に引き継ぐこともでき、設立後すぐに事業を始めることが可能になります。
1-1.個人事業主の法人化(法人成り)メリット・デメリット
個人事業を法人化の主なメリットには次のようなものがあります。
- 所得税から法人税への変更による税制面でのメリット
- 家族に役員報酬を支給できる
- 税務上の経費にできる範囲が広がる
- 社会的な信用が高まる
法人化にはメリットだけでなく、次のようなデメリットも伴います。
- 法人の設立費用がかかる
- 会計の負担や法人税申告など税務申告の事務負担が増える
- 社会保険へ加入する必要がある
2.個人事業主の法人化の手続きの流れと必要書類
個人事業主を法人化するためには、法人(会社)の設立が始めの一歩です。法人の形態には株式会社、合同会社、合資会社、合名会社があり、一般的な法人化では株式会社、合同会社の形態が用いられます。
法人化するための具体的な手続きは、法人の形態によって多少異なります。本記事では株式会社を設立する場合の手続きを紹介します。
2-1.会社の基本事項の決定
株式会社を設立するにあたり、会社の基本事項を決める必要があります。まずは次の項目について決めておきましょう。
- 発起人(会社の設立を企画し、資本金の出資や定款の作成といった設立手続きを行う人)
- 商号(会社名)
- 本店所在場所
- 事業の目的
- 出資金の金額
- 設立時発行株式数と株式の種類、発行可能株式総数
- 株主と役員の構成
- 事業年度
2-2.印鑑の購入
登記申請には会社の印鑑が必要です。銀行口座の開設や取引先と契約を交わす際にも必要になりますので事前に用意しておきましょう。
印鑑は、代表者印(会社実印)、銀行印、角印の3種類を作ることが一般的です。印鑑の作成には発注してから届くまでに数日から1週間かかりますので、早めに準備しましょう。
2-3.定款の作成
定款とは、会社の決まり事を記載した書類です。基本的には、はじめに決めた基本事項をもとに作成することになります。定款は自分で作成することもできますが、記載間違いや漏れを防ぐためにも司法書士や行政書士へ依頼した方がいいでしょう。
行政書士には定款の作成のみ依頼することができますが、司法書士には定款作成のほか、次のステップである定款認証の代理も依頼することができます。
2-4.定款の認証
作成した定款は公証役場での定款認証が必要です。近くの公証役場に連絡して定款認証の予約を取り、事前にメールなどで作成した定款のチェックを受けます。問題がなければ、予約した時間に次の書類を持参し定款の認証を受けます。
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2-5.資本金の払い込み
定款認証後、発起人の銀行口座に資本金の払い込みを行います。この時点では会社の銀行口座はできていませんので、発起人個人の口座に振り込むことになります。
振込後は、登記申請で必要になる通帳の「表紙」と「1ページ目」と「資本金の振込が記載されているページ」をコピーしておきましょう。
2-6.登記申請を行う
資本金の払い込み後、法務局で登記申請を行います。登記申請には次の書類が必要です。
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3.法人化した後に必要な手続き
登記申請を行い、法人を設立した後は事業を行うための準備が必要です。法人化した後に必要になる手続きは次のとおりです。
3-1.会社の銀行口座の開設
事業を行うためには会社名義の銀行口座が必ず必要になるため、早急に銀行口座の開設を行いましょう。銀行口座はすぐに開設できるわけではなく、審査が必要になります。
近年では犯罪対策として審査を通過することが難しくなってきていますので、提出書類を漏れなく揃え、万全の体制で銀行口座の開設に挑みましょう。
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3-2.個人から法人への資産や負債の移転
個人が保有する事業に関する資産(車両、備品、在庫など)や負債を法人に移転します。資産や負債の移転は、無償で移転するのではなく、個人と法人との間で売買契約・現物出資・賃貸借契約が必要です。
3-3.各種契約の個人から法人への名義変更
賃貸している事務所や携帯電話の契約、備品のリース契約など、個人事業主の名義で契約になっているものは法人名義へ変更しなければなりませんので忘れずに行いましょう。
3-4.個人事業主の廃業
法人化に事業を移転させるため、これまでの個人事業は廃業することになります。
個人事業を廃業する場合には税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」の提出が必要です。ただし、一部の事業を個人で継続する場合や、個人に不動産所得があり確定申告が必要な場合は提出が不要な場合もあります。
3-5.各所への設立届出書の提出、社会保険・労働保険の加入手続き
設立した法人の設立届を税務署、都道府県、市区町村、それぞれに提出します。並行して、法人を設立すると社会保険への加入が必要になりますので、会社所在地を管轄する年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険新規適用届」を提出しましょう。
法人で従業員を雇用する場合には、労災保険の加入が必要になりますので会社の所在地を管轄する労働基準監督署に「労災保険関係成立届」を提出しましょう。
4.法人化後に毎年(毎月)必要になる手続き
法人化すると個人事業主とは違う手続きが必要になります。法人化することで必要になる主な手続きは次のとおりです。
4-1.法人税等の申告
法人は、事業年度ごとに必ず法人税・法人事業税・法人住民税の確定申告を行わなければなりません。
個人事業主の所得税の確定申告とは違い、法人の決算処理を行い、法人税申告書の別表の作成や勘定科目ごとの内訳書などを作成しなければならず、難易度が格段にアップしますので税理士に依頼しましょう。
また、法人の決算を行うためには正確な経理処理(仕訳)を日々行わなければなりません。法人では個人事業主よりも細かな経理処理が求められます。
4-2.株主総会の開催
株式会社では、会社の方針や重要事項を決定する際には株主総会での決議が必要です。また、取締役会を設置している場合には取締役会の開催も必要になります。
4-3.源泉徴収、特別徴収、社会保険料の徴収など
法人化することで、会社役員へ役員報酬を支給することができるようになります。役員報酬は給与所得となり、毎月の源泉徴収や住民税の特別徴収、社会保険料の徴収が必要になり、事務負担が増加します。
また、年末には毎月の源泉徴収税額と本来納めるべき所得税額の差分を精算する「年末調整」を行わなければなりません。
4-4.それぞれの手続きを専門家に依頼
以上が、法人が毎年(毎月)行う主な手続きですが、どれも、手間がかかり、専門的な知識が必要なものばかりです。
基本的には、株主総会を除けば、それぞれの業務を専門家に依頼して、本業に徹するほうが効率的になります。
法人税等の申告や、給与計算の業務は税理士や会計事務所に依頼することになります。もちろん、費用はかかりますが、仮に、自分で申告を行い間違えると、後で税務調査を受けて、ペナルティを課されることもあります。そのような手間や追加の税金のことを考慮すると、最初から税理士に依頼するほうが、安全でしょう。
個人事業主から法人化される予定の方、またはすでに法人化された方で、税金申告や給与計算、会計処理等ででお悩みの場合は、一度、税理士にご相談ください。