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経営者なら知っておきたいキャッシュフロー経営

キャッシュフロー 資金繰り

十分な利益が出ているにもかかわらず倒産してしまう「黒字倒産」というケースがあります。黒字倒産は、手元資金不足により支払いが困難になることが原因です。黒字倒産に陥らないための経営を行うためには、資金の流れに焦点を当てた「キャッシュフロー経営」という考え方が重要です。

ここではキャッシュフロー経営の考え方やメリットをご紹介します。

1.キャッシュフローとは

1-1.キャッシュフローとは?

キャッシュフローとは、ひと言でいうと「お金の出入りの流れ」です。
ある一定期間に、会社の口座や手元から現金・預金がどれくらい増えたのか、減ったのかを示すものがキャッシュフローです。

キャッシュフローには入金と出金があり、商品を売却して売掛金の回収などで会社の資金が増加することを「キャッシュインフロー」と言います。
反対に商品を仕入れ、代金の支払いを行うなどして会社の資金が減少することを「キャッシュアウトフロー」と言います。
ここで言うキャッシュとは現金に限ったものだけでなく、現金同等物として次のものがあげられます。

【現金同等物の範囲】

  • 普通預金、当座預金などの要求払預金
  • 預入期間が3か月以内の定期預金
  • 満期が3か月以内のコマーシャルペーパー(CP)(※)
  • リスクが少ない短期投資
    など
※コマーシャルペーパー(CP)とは、企業が短期の資金調達のために発行する、割引形式の無担保約束手形です。

1-2.キャッシュフローと利益との違い

決算書でよく目にする「利益」は、発生主義という考え方に基づいて計算されます。たとえば、売上について考えてみます。

  • 商品を掛けで販売した場合
    → 商品を納品したタイミングで「売上」として計上されますが、この時点ではまだお金は入金されていません。
  • 逆に、仕入や経費も、支払い前でも「発生したタイミング」で費用になります。

このように、利益は「取引が発生したかどうか」を重視して計算されます。
そのため、利益が出ている=お金が増えているとは限りません。

さらに、減価償却費や引当金といった実際にはお金が出ていかない費用も、利益を計算する際にはマイナス要素として含まれます。
逆に、借入金の元本返済は、実際には大きなお金が出ていきますが、損益計算書上は「費用」としては扱われません。

こうした理由から、

  • 損益計算書で見る「利益」
  • 通帳や現金残高の増減として見る「キャッシュフロー」

の間には、どうしてもズレが生じます。
利益はあっても、売掛金の回収が遅れていたり、借入金の返済が重なったりすれば、手元資金は不足してしまいます。

会社の手元資金が不足すると資金ショートが発生し、黒字倒産につながってしまいます。

キャッシュフロー経営では、こうした「利益」と「お金の流れ」の違いをきちんと意識し、
決算書上の数字だけでなく、実際に動くお金の量とタイミングを管理していくことが出発点になります。

2.キャッシュフロー経営とは?

会社経営には会社の業績を見ることのできる損益計算書が必要不可欠です。しかし、損益計算書には実際の資金が伴わない取引である「非資金項目」が含まれており「利益=資金の増加」ではありません。そのため、利益が出ていても資金ショートにより倒産してしまう可能性があります。

キャッシュフロー経営は、資金の流れを重視した経営方法であり、資金がどのように調達されて何に支出されているのかを管理することで、会社にどれくらい資金が残っているのかを明確にし、倒産リスクを避ける経営方法です。

キャッシュフロー経営と従来の経営方法の違いを見ていきましょう。

2-1.従来の「売上重視」の経営との違い

従来の「売上重視」の経営では、入金と利益の計上時期が異なります。これが黒字倒産が起こる1つの要因となっています。

例えば、商品を大量に掛けで販売した場合、販売した時点で売上という収益を計上します。しかし、代金は売掛金の回収を行わなければ入金されないため、入金されるまで会社の資金は増えることはありません。このように収益基準(発生主義)で取引を判断してしまうと「収益があがっているのに資金がない状態」に陥ってしまう可能性があります。

一方、キャッシュフロー経営では売上が発生した時点ではなく、売掛金を回収した時を基準に経営判断を行い、営業活動によってどれだけ会社の資金が増加したかを重視して考えるため、会社が安定して事業を継続することができます。

2-2.従来の「利益重視」の経営との違い

事業を継続するためには利益を出し続けることは重要です。しかし、利益を重視しすぎた経営は資金ショートを起こしてしまうおそれがあります。

例えば、利益を追求する経営方法では、仕入れ単価を下げるために大量仕入れを行うことがあります。全て売却することができれば問題ないのですが、在庫をかかえてしまうと投下した資金を回収できずにキャッシュフローを悪化させてしまいます。利益重視の経営を行っている場合は、売却されていない在庫は損益計算書の利益に反映されないため、キャッシュフローの悪化に気付くことができません。

一方、キャッシュフロー経営では商品の仕入れ代金を支払った時点を基準に考えます。売れ残った在庫(現金化できていない在庫)はキャッシュフローを著しく悪化させるため、キャッシュフロー経営では必要以上の仕入れをしないという意思決定が行われます。

2-3.黒字倒産を防ぐキャッシュフロー経営の考え方

「黒字倒産」とは、損益計算書上は利益が出ているにもかかわらず、資金が足りなくなり倒産してしまう状態をいいます。
原因の多くは、「利益」と「お金の動き」を切り離して考えてしまい、入出金のタイミング管理が不十分なまま経営判断を行ってしまうことにあります。

キャッシュフロー経営では、まず

  • 売上や利益ではなく、「手元資金がどれくらい残るか」
  • その資金が「いつ増え、いつ減るのか」

を軸に物事を考えます。

具体的には、次のような視点が重要になります。

  • 売掛金の回収サイトと、仕入・経費・借入金返済の支払サイトを把握し、
    「入金より先に支払いが集中していないか」 を常にチェックすること
  • 設備投資や新規事業の判断をする際に、利益予測だけでなく、
    投資後の数か月〜数年の資金繰りへの影響を試算すること
  • 借入についても、「いくら借りられるか」ではなく、
    毎月の返済額がキャッシュフローに無理のない水準かを基準に検討すること

こうした考え方に基づき、月次・四半期単位で資金繰り表を作成し、「このままいくと、○月時点で資金が不足しないか」を事前に確認しておくことで、借入の時期を早めたり、支払条件の見直しを交渉したりと、早めの手を打つことができます。

つまり、黒字倒産を防ぐキャッシュフロー経営とは、「利益が出ているか」だけでなく、「お金が途中で尽きないか」を常に先回りして確認する経営姿勢と言い換えることができます。

3.キャッシュフロー経営のメリット

資金の流れを重視したキャッシュフロー経営には様々なメリットがあります。

メリット①資金ショートのリスクが下がり、経営の安全性が高まる

キャッシュフロー経営を行うことで会社の安全性が高まります。会社は資金ショートを起こしたときに倒産するため、資金に着目したキャッシュフロー経営を行えば資金ショートのリスクを減らすことができます。

ある程度の資金を会社内に確保することで、取引先の倒産などの不測の事態に備えることができ、事業を安定して継続することが可能です。

メリット②金融機関・取引先からの信用力が強化される

キャッシュフロー経営により計画的な投資と資金調達が可能になります。資金に焦点を当てているキャッシュフロー経営では、融資を受ける際に資金繰り表などを作成し「何の目的で」「いくら」「どのように返済するか」を銀行へ説明することができるため、銀行などの金融機関からの信頼を得やすくなります

また、キャッシュフロー経営では資金繰りが安定しているため、取引先の仕入れ代金を支払えない事態に陥ることがなく、取引先からの信用力も強化されます。

メリット③新規事業や設備投資など、経営の自由度が高まる

新規事業の立ち上げや設備投資、マーケット拡大などには多額の資金が必要になります。常日ごろからキャッシュフロー経営を行っていれば「どのくらいの投資が可能か」「どのくらいで投資を回収できるか」など、経営において重要な意思決定を行うことができます。

計画的な資金管理を行い、資金に余裕のある事業運営をすることで安全で自由度の高い経営を行うことができます

4.キャッシュフロー経営のやり方

キャッシュフロー経営には多くのメリットがあります。どのようにしてキャッシュフロー経営を行えばいいのでしょうか。ここではキャッシュフロー経営の始め方をご紹介します。

4-1.資金繰り表を作成する

キャッシュフロー経営には「資金の流れを把握すること」が重要です。現在のキャッシュフローを知るためにも資金繰り表を作成してみましょう。

上場企業などの大企業になると決算書の他にキャッシュフロー計算書を作成する義務がありますが、非上場企業にはキャッシュフロー計算書の作成義務はありません。そのため、厳密にルールが定められているキャッシュフロー計算書ではなく、自社で作成しやすく見やすい資金繰り表を作成すると良いでしょう。

4-2.実績資金繰り表を作成する

資金繰り表には過去の実績から資金繰りを予測する「実績資金繰り表」と、事業計画をもとに資金繰りを予測する「予定資金繰り表」があります。まずは現状の資金繰りの把握を行う必要がありますので、実績資金繰り表の作成から行うと良いでしょう。

実績資金繰り表の作成には、現金の流れを表す現金出納帳と預金の流れを表す預金出納帳が必要です。また、会計上の利益と比較するためにも月次試算表があるとより効果的です。

具体的な作成方法

現状の把握では、まず過去3年間の資金繰り表を作成してみましょう。直近1年分については月単位で資金繰り表を作成することにより、毎月どのくらいの資金が必要になるのかが明確になります。実績資金繰り表により自社のおおよその資金繰りが掴めてくると、これらのデータを利用して毎月の予算を作成することができるようになります。実績資金繰り表にはこの予算と実際の実績を並べることで、どのような想定外の支出があったのかが簡単に分かるようになります。毎月、予算と実績を検証し改善計画を立ててみましょう。

資金繰り表のサンプルを掲載しておきます。資金繰り表は、常に見やすく、また書き込みやすいことが重要ですので、ご自分が使いやすいフォーマットで作成されると良いでしょう。

資金繰り表

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4-3.予測資金繰り表も作成して、予実管理を行う

慣れてきたら、予測用の資金繰り表「予測資金繰り表」も作成してみましょう。そして、対象の期間が過ぎたら「実績資金繰り表」を作成し、予測と現実のズレを確認します。

    ここで重要なのは、ズレの有無そのものではなく、「なぜズレたのか」を検証することです。

    • 売掛金の入金が予定より遅れたのか
    • 思った以上に仕入が増えてしまったのか
    • 急な設備購入や突発的な支出が発生したのか

    こうした原因を一つひとつ洗い出していくことで、

    • どの取引先は入金が遅れがちか
    • どの費用が膨らみやすいか
    • 今後どのタイミングで資金が苦しくなりやすいか

    といった「自社の資金繰りのクセ」が見えてきます。

    5.キャッシュフロー経営での改善ポイント

    「キャッシュフロー経営を行っているけど、なかなか会社の資金繰りが改善しない」と頭を抱える経営者もいらっしゃるのではないでしょうか。キャッシュフローを改善するには、次の点を意識して対策を行うと良いでしょう。

    対策①売掛金の回収は早く、支払いは可能な限り遅く

    キャッシュフローを改善するには、資金を長く会社に留まらせる必要があります。そのため売掛金の入金サイト(売上発生から入金までの期間)を早め、買掛金の支払いサイト(仕入れから代金の支払いまでの期間)を遅くすることで資金を会社に長い間留まらせることができ、キャッシュフローが改善されます。

    入金サイトを短く、支払いサイトを長くすることは取引先との交渉が必要不可欠です。サイトを変更してもらえるか交渉してみましょう。

    対策②請求を分割する

    長期にわたる大型の契約の場合は、納品後の一括請求を避けるようにしましょう。前払金や手付金を請求するか、契約自体を分割して可能なものから請求できるようにしましょう。資金回収をなるべく早く行うことによりキャッシュフローは改善します。

    対策③債権回収の管理を徹底する

    売掛金の管理を徹底し、回収遅れや回収漏れが発生しないようにしましょう。支払期限を超えた売掛金についてはすぐに催促を行い、なるべく早く入金してもらうようにすることでキャッシュフローの改善がはかれます。売掛金は回収が遅れれば遅れるほど回収することが困難になります。

    対策④クレジットカードを利用する

    経費の支払いにクレジットカードを利用すると支払いが翌月または翌々月になり、支払いサイトが長くなるためキャッシュフローが改善されます。クレジットカードによる支払いに変更することで、経理の効率化やカードのポイント獲得などのメリットを得ることができます。

    対策⑤在庫を減らす

    商品在庫を減らすことでキャッシュフローは改善します。商品在庫とは現金を支払って購入したものです。つまり現金が商品在庫になり、売れ残っている状態は「商品在庫分の資金が使えない状態」になっているということです。適正な在庫管理を行うことで在庫を減らし、キャッシュフローを改善することができます。

    対策⑥経費を見直し、固定費を中心に削減する

    基本的なことですが、固定費を中心に、経費を削減し、会社から出ていく資金を少なくすることがキャッシュフローの改善につながります。

    資金繰り表を見直し、無駄な経費がないかをよくチェックして、出ていく資金を減らします。

    まとめ:キャッシュフロー経営は税理士と一緒に進めると効果的

    今回は「キャッシュフロー経営」についてご紹介しました。

    キャッシュフロー経営は、資金の流れに焦点を当てた安全性の高い現実的な経営方法です。日ごろから資金繰り表を作成していれば、銀行からの資金調達の際にも役に立ち、対外的な信用を得ることが可能です。キャッシュフロー経営により、余裕のある会社経営を目指すことができます。

    とはいえ、日々の営業や現場のマネジメントに追われる中で、
    キャッシュフローの分析や資金繰り表の作成・更新を、自社だけで精度高く続けていくのは簡単ではありません。

    そのような場面で、税理士は

    • 決算書や試算表の数字から、資金面の課題やリスクを客観的に指摘する
    • 資金繰り表のフォーマット作成や運用方法を提案する
    • 金融機関との付き合い方や、借入・返済計画の立て方について助言する

    といった形で、キャッシュフロー経営をサポートすることが可能です。

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