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昨今では、少子高齢化や人口減少により生産性の向上に注目が集まっています。日本政府は働き方改革を掲げており、大企業だけではなく中小企業も従来の労働スタイルから多様化した労働スタイルへの変化が急務になっています。労働スタイルの多様化に対応するためには労働生産性の向上は必要不可欠です。
ここでは、労働生産性の特徴と労働生産性を向上するためにできることをご紹介します。
1.労働生産性とは?
1-1.労働生産性の定義
労働生産性とは、言葉通り「労働」の「生産性」です。生産性とは投入した材料や労働力などからどのくらい効率的に製品を生み出せるのかを測る指標です。つまり、投入したモノから得られる結果の相対的な割合を算出したものが生産性になります。
生産性は次の計算式により求めることができます。
産出(結果)÷投入したモノ=生産性
労働生産性とは、生産性の中でも労働について焦点を当てた指標になり、労働者1人がどのくらい効率的に産出(結果)を得られるかを指標にしたものです。
労働生産性を測ることで、労働力から得られる結果が適正かどうかの判断を行うことができ、改善計画などの経営判断が可能になります。
労働生産性は次の計算式によって求められます。
産出(結果)÷労働量(労働者数×労働時間)=労働生産性
1-2.労働生産性の種類
労働生産性には、産出物の違いによって「①物的労働生産性」と「②付加価値労働生産性」の二種類の指標が存在します。
①物的労働生産性
物的労働生産性とは、産出(結果)の対象が生産量や販売金額である場合に使用する指標です。
生産量や販売金額÷労働量(労働者数×労働時間)=物的労働生産性
例をあげると、自動車工場で労働者5人が10時間かけて車一台を完成させる場合の労働者1人1時間あたりの物的労働生産性は1台÷(5人×10時間)=0.02台ということになります。
②付加価値労働生産性
付加価値労働生産性とは、産出(結果)の対象を付加価値とした場合の指標です。付加価値とは生産によって新たに加えられた価値のことであり、生産額から原材料費・燃料費・減価償却費を差し引くことで付加価値額を求めることができます。
付加価値額(生産額-原材料費・燃料費・減価償却費)÷労働量(労働者数×労働時間)=付加価値労働生産性
例えば、スタッフ2人が5時間で6万円の商品を売った場合、その商品の仕入れ額や運送費などの金額4万円を差し引いた2万円が付加価値額となります。付加価値額を労働力で割ると2万円÷(2人×5時間)=2,000円となり、スタッフ1人1時間あたりの付加価値労働生産性は2,000円となります。
2.日本の労働生産性の特徴
近年の日本の労働生産性は先進国の中では低く、日本の1時間当たり労働生産性は、47.9ドルでOECD加盟国の37か国中21位(2019年)となっています。労働生産性1位のアメリカの77ドルと比べて6割程度の水準です。主要先進国7か国の中では1970年以降、最下位の状況が続いています。
日本の労働生産性が低い理由には1つのプロジェクトにかかわる人数が多く、工程が複雑化し、労働者の働く時間をかけすぎていることがあげられます。製造業が盛んなドイツでは労働法により残業が厳しく管理されており、効率性が重視された労働環境が整っているため労働生産性が高くなっています。
2-1.業界による労働生産性の違い
一言に労働生産性と言っても、労働生産性は業界や業種によって大きく異なります。
(出典:中小企業庁『2018年版 中小企業白書』 第3章 中小企業の労働生産性)
中小企業の時間当たりの労働生産性を業種別に分析すると、不動産業・物品賃貸業、情報通信業、製造業、建設業の労働生産性は高くなっています。一方、宿泊業・飲食サービス業の労働生産性が低くなっています。サービス業が低い水準にある原因は、サービス業に次の特徴があるためだと言われています。
- 同時性:サービスの提供と消費が同時に行われること
- 不可分性:サービスの提供と消費が同じ場所で行われること
- 消失:サービスは在庫を持てないこと
サービス業は製造業と異なり「時間と場所の制約があり」「在庫を抱えることができない」ため需要の変動により生産量が早いスピードで変化します。生産量が早いスピードで変化するため、労働力の投入を適切に調整することが難しく、そのことが生産性向上への大きな制約になっています。
2-2.大企業と中小企業の労働生産性の違い
労働生産性は業種だけではなく、大企業か中小企業かの事業規模によっても異なります。
(出典:中小企業庁『2018年版 中小企業白書』 第3章 中小企業の労働生産性)
製造業、情報通信業、学術研究・専門技術サービス業については、大企業と中小企業の間で労働生産性が大きく異なります。その理由として次の3つが考えられます。
①中小企業はスケールメリットが使えない
スケールメリットとは、同種のものを大量に製造することでコストが抑えられることを言います。大手スーパーのオリジナルブランドが安価な理由は、このスケールメリットを利用しているからです。中小企業では労働力や設備が不足しているためスケールメリットが利用できず、労働生産性が低下してしまいます。
②中小企業は人的リソースが不足する
スケールメリットと同様に、中小企業では人的リソースが不足しがちであり、効率的に分業ができず労働生産性が低下してしまいます。
③設備投資に格差が生じる
中小企業は大企業に比べ資金調達が難しく、十分な設備投資が行われていない場合があります。そのため、設備で補えない部分に労働力を割かなければならず、労働生産性が低下してしまいます。
3.労働生産性を向上させるには?
労働生産性を向上させるには、従来の方法から新しい方法へ切り替えていくことが重要です。ここでは労働生産性を向上させる方法を見ていきましょう。
3-1.業務のスリム化
労働生産性を向上させるためには、利益につながらない業務の見直しを行い「業務のスリム化」を行いましょう。
例えば、書類作成・署名捺印・会議・日報や報告資料作成などの業務を洗い出し、業務フローの改善や廃止を検討することで業務のスリム化が行え、労働生産性を向上させることができます。
3-2.DX(デジタルトランスフォーメーション)化
クラウドシステムやビッグデータの応用、ソーシャル技術といったデジタル技術を活用してビジネスを変革していくことを「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と言います。DXと聞くと「難しそう」と感じてしまいますが、現代の社会はどんどんDX化しています。
例えば、従来の人対人のコミュニケーションでは実際に会って交渉ごとや会議を行っていましたが、最近ではweb会議システムやオンラインチャットへと移行しています。データのやり取りにしても、クラウドサービスを利用し、社外であってもデータにアクセスできるようになってきています。こういった従来の業務をオンライン化して、業務のプロセスを変えていくことがDXなのです。
テレワークの導入による働き方の多様化やデジタル技術による収益構造の再構築などを行い、会社をDX化することで労働生産性を向上させることが可能です。DXは日本政府が推進している政策でもあり、DXに関する設備投資を行うと補助金や税制優遇制度を受けることができます。
ただし、DXはやみくもに導入すればいいというわけではありません。目的と手段をよく理解してDXを取り入れなければ逆効果になり、非効率化につながってしまうおそれがあるため注意が必要です。
たとえば、上司の承認のための押印を単にデジタル化するだけでなく、その承認プロセスは本当に必要なのかという検討が重要です。
3-3.各従業員に適正な仕事を任せる
各従業員は仕事の得手不得手があります。また、仕事によっては一人で行ったほうが効率的な場合や、誰か得意な人に任せたほうが効率的な場合などもあるはずです。
すべての従業員が一律で仕事をするのではなく、各従業員に適正な仕事を任せることで仕事効率は向上し、労働生産性向上につながります。
3-4.マルチタスクをやめる
業務が忙しくなると人はマルチタスクを行うようになります。ところが、心理学者ハロルド・パシュラーによる実験では、人はマルチタスクを行うとタスクの切り替え時に集中力のロスが生じてしまい、時間がより多くかかることがわかっています。
作業中に、電話・メール・会話などの割り込みが入り、複数の業務を行うことは、業務効率を低下させます。なるべく一つの作業に集中することにより、労働生産性を向上させることができます。
3-5.細かいタスクの把握と見直し
開発などの新しいものを生み出すクリエイティブな業務を除いた日々の業務は「細かい作業の繰り返し」であることが多いはずです。これらの作業が効率的に行われているかどうか一度洗い出し、改善点がないか検討することが労働生産性の改善につながります。細かい改善であってもやがて散り積もって大きな改善となります。
例えば、Excelをマウスではなくショートカットキーを使って作業効率を高めたり、上司や同僚との情報共有をクラウドシステムで行って共有にかかる時間を減らすなどの改善があげられます。
3-6.ワークスタイルを見直す
労働生産性を向上させるためにワークスタイルを見直してみるといいでしょう。働き方改革により残業時間の削減や有給休暇取得については社会全体で進んできています。さらにテレワークや自宅・コワーキングスペースでの仕事、副業の許可などのワークスタイルを見直すことで従業員のモチベーションアップにつながり労働生産性を向上することができます。
3-7.ビジネスモデルを見直す
労働生産性がなかなか向上しない場合は、ビジネスモデルに根本的な問題があるかもしれません。世の中は早いスピードで変化しています。従来のビジネスモデルを維持するのではく、現代社会にあったビジネスモデルへ変化させていくことで収益性を確保し、労働生産性の向上が可能になります。
4.生産性向上と業務効率化の違い
生産性向上と似た言葉で「業務効率化」という言葉があります。経営改善を行う際にどちらの言葉もよく使用されますが、この2つは似ているようで異なります。
業務効率化とは、業務のムラや無駄、資源の無駄を省くことです。無駄をカットしていくことで労働量を少なくし、労働生産性の向上につなげます。つまり、業務効率化は労働生産性を向上させる1つの「手段」となります。一見すると生産性向上と業務効率化は同じに見えますが、業務効率化では生産される製品などの結果までは考慮されていません。
一方、生産性向上はより少ない労働量や資源でより多くの結果を得ようとする方法を模索することなので、根本的な意味合いが異なります。業務効率化は生産性向上を行う手段になりますが、生産性向上そのものではありません。
まとめ
今回は「労働生産性向上のためにできること」をご紹介しました。
労働生産性の向上は、労働人口の減少が進む日本で避けては通れない課題です。従来の方法を重視するあまり労働生産性が向上せず、従業員は残業して会社の利益はあまり出ないという負のスパイラルに陥る前に、今回紹介した改善方法を一度検討してみてはいかがでしょうか。