事業承継税制とは|中小企業などの事業承継を円滑に進めるために
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相続税を算出するためには、相続財産の財産評価計算を行わなければなりません。
株式の評価額は思った以上に高額となることがあり、生前にある程度の評価額を把握しておき、相続税対策を検討することが重要になります。
今回は、株式の相続税評価方法や節税方法から相続手続きまで株式についてご紹介いたします。
上場株式は、証券取引所で売買されている株式で、誰でも購入可能な株式です。
上場株式は日々取引が行われており、相続開始日における金額を簡単に把握することができます。
ただし、相続開始日だけ株価が高騰し、それを基に評価すると相続税が高額になってしまう可能性もあります。そこで、適切な評価額とするために、次の4つの金額のうち最も低い金額を選択します。
株式の取引があるのは、原則として平日のみです。土日祝日や年末年始には、市場が休みであり、株価を確認できません。
相続開始日が、取引の行われていない日に当たる場合には、相続開始日に近い日の終値を相続税評価額とします。
例えば、相続開始日が土曜日であれば、前日の金曜日の終値が相続税評価額となり、相続開始日が日曜日であれば、翌日の月曜日の終値が相続税評価額となります。
株式は売買が行われた日から、3営業日後に引き渡しが行われます。したがって、新株の割り当てでは、基準日の3営業日前に株式を購入していなければ権利の確定には間に合わず、配当を受ける権利を有しないことになります。
この状態を「権利落ち」といい、配当の支払いを受ける権利がないときは、「配当落ち」とも呼ばれます。
上場株式の新株の割当てがある場合には、株式数の増加や配当の支払いが行われることを見込んで、株価が下がることが一般的です。
相続開始日が権利落ちの日から基準日までの間にある場合にも上記の原則的な評価を行ってしまうと、実質的な株価は権利落ちの前と変わっていないにもかかわらず、低く評価されてしまう可能性があります。
そこでこの場合には、権利落ちの日の前日の終値で評価します。
非上場株式は証券取引所に上場されていない株式で、一般の方が自由に取引することができない株式です。被相続人が中小企業のオーナー社長であれば、所有していることがほとんどです。
非上場株式は取引されていないため日々の株価がなく、その会社の財政状態により評価することになります。
評価方法には次の3つがあり、どの方法を使うかは大株主か少数株主か、大株主の場合には更に会社の規模はどのくらいなのかによって決まります。
その会社の発行済株式数の50%を超える株式を被相続人一族で保有している場合には、その会社の経営を支配することができるとして、類似業種比準方式と純資産価額方式を使って評価計算を行います。
大会社、中会社、小会社の区別は、次の通り、業種、従業員数、直前期末における純資産額、直前期末における取引金額で決まります。
従業員が70人以上であれば、すべて大会社に分類されます。
従業員が70人未満であれば、まず従業員数による判定と、総資産価額による判定を行ってどちらか小さいほうの区分を選択し、その区分と取引金額による区分を比べ、どちらか大きいほうの区分に最終的に分類します。
規模区分 | 区分の内容 | 総資産価額(帳簿価額によって計算した金額)及び従業員数 | 直前期末以前1年間における取引金額 | |
---|---|---|---|---|
大会社 | 従業員数が70人以上の会社 又は右のいずれかに該当する会社 |
卸売業 | 20億円以上(従業員数が35人以下の会社を除く。) | 30億円以上 |
小売・サービス業 | 15億円以上(従業員数が35人以下の会社を除く。) | 20億円以上 | ||
卸売業、小売・サービス業以外 | 15億円以上(従業員数が35人以下の会社を除く。) | 15億円以上 | ||
中会社 | 従業員数が70人未満の会社で右のいずれかに該当する会社 (大会社に該当する場合を除く) |
卸売業 | 7,000万円以上(従業員数が5人以下の会社を除く。) | 2億円以上30億円未満 |
小売・サービス業 | 4,000万円以上(従業員数が5人以下の会社を除く。) | 6,000万円以上20億円未満 | ||
卸売業、小売・サービス業以外 | 5,000万円以上(従業員数が5人以下の会社を除く。) | 8,000万円以上15億円未満 | ||
小会社 | 従業員数が70人未満の会社で右のいずれにも該当する会社 | 卸売業 | 7,000万円未満又は従業員数が5人以下 | 2億円未満 |
小売・サービス業 | 4,000万円未満又は従業員数が5人以下 | 6,000万円未満 | ||
卸売業、小売・サービス業以外 | 5,000万円未満又は従業員数が5人以下 | 8,000万円未満 |
【出典】「気配相場等のある株式の評価」|国税庁
類似業種比準方式とは、業種が似ている上場企業の株価の平均額、配当金額、年利益金額、純資産価額を参考にして株価を評価する方法です。
類似業種の株式の金額は国税庁が毎月公表しており、それを使用します。
類似した上場企業の株価 × 比準割合× 調整率
比準割合は次の算式で計算します。
比準割合=
{(評価する会社の1株当たりの配当金額/類似業種の1株当たりの配当金額)
+(評価する会社の1株当たりの年利益金額/類似業種の1株当たりの年利益金額)
+(評価する会社の1株当たりの純資産価格/類似業種の1株当たりの純資産価格)}/3
調整率は会社の規模ごとに、次の通り定められています。
【参考サイト】令和元年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について(法令解釈通達)|国税庁
純資産価額方式とは、その評価する会社の相続開始日における資産と負債を相続税評価額に直し、その差額の純資産価額を株式の評価額とする方法です。
(資産の相続税評価額の合計 - 負債の相続税評価額の合計 - 評価差額に対する法人税等相当額※)/発行済株式数
※ 評価差額に対する法人税等相当額 =(相続税評価額による純資産価額-帳簿価額による純資産価額)×37%
とりあえず大まかな株式の評価額を知っておきたい方は、相続税評価額は帳簿価格とかけ離れた金額になることは稀であるため、帳簿の純資産価額を発行済株式数で割ることで簡単に把握できるかと思います。
類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式による相続税評価額は、以下により算出します。
類似業種比準価額×L+1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)×(1-L)
Lの値を求めるためには、中会社の中でさらにその会社規模を判断する必要があります。2つの下表から該当するLの割合のうち大きいほうの値を用いて評価額を算出します。
総資産価額(帳簿価額によって計算した金額)と従業員数に応ずる割合
卸売業 | 小売・サービス業 | 卸売業、小売・サービス業以外 | 割合 |
---|---|---|---|
4億円以上 (従業員数が35人以下の会社を除く) |
5億円以上 (従業員数が35人以下の会社を除く) |
5億円以上 (従業員数が35人以下の会社を除く) |
0.90 |
2億円以上 (従業員数が20人以下の会社を除く) |
2億5,000万円以上 (従業員数が20人以下の会社を除く) |
2億5,000万円以上 (従業員数が20人以下の会社を除く) |
0.75 |
7,000万円以上 (従業員数が5人以下の会社を除く) |
4,000万円以上 (従業員数が5人以下の会社を除く) |
5,000万円以上 (従業員数が5人以下の会社を除く) |
0.60 |
直前期末以前1年間における取引金額に応ずる割合
卸売業 | 小売・サービス業 | 卸売業、小売・サービス業以外 | 割合 |
---|---|---|---|
7億円以上30億円未満 | 5億円以上20億円未満 | 4億円以上15億円未満 | 0.90 |
3億5000万円以上7億円未満 | 2億5,000万円以上5億円未満 | 2億円以上4億円未満 | 0.75 |
2億円以上3億5,000万円未満 | 6,000万円以上2億5,000万円未満 | 8,000万円以上2億円未満 | 0.60 |
【出典サイト】「気配相場等のある株式の評価」|国税庁
少数株主はその会社を支配することはできません。株式の価値は配当金を受け取れる程度のことであると考えられるため、配当還元方式により評価計算を行います。
また、類似業種比準方式と純資産価額方式との併用には、多くの資料が必要になります。非上場会社で経営に参加していない少数株主がこれらの資料を揃えることは難しいと考えられるため、簡易的な配当還元方式が設けられています。
配当還元額 =(1株あたりの年間配当額/10%)×(1株あたりの資本金等の額/50円)
それでは株式にかかる相続税を簡単に計算してみます。
次の条件で、非上場株式の相続税評価額を計算してみましょう。
事例1.
- 相続開始日:6月8日
- 相続財産:非上場の自社株式300株
- 会社の規模:小会社
- 発行済株式数:500株
- 純資産の相続税評価額:2億5,000万円(資産3億円、負債5,000万円)
- 純資産の帳簿価額:1億5,000万円(資産2億円、負債5,000万円)
- 相続人:配偶者・子供1人
- 遺産分割方法:法定相続分による(配偶者1/2・子供1/2)
事例1.では、非上場株式の評価方法は純資産価額方式になります。
(2億5,000万円 - 3,700万円※)/500株 = 426,000円
※評価差額に対する法人税等相当額 =(2億5,000万円-1億5,000万円)×37%=3,700万円
426,000円 × 300株 = 1億2,780万円
この場合の非上場株式の相続税評価額は、1億2,780万円となります。
続いて事例における非上場株式1億2,780万円にかかる相続税の総額を計算します。
便宜上、相続税の各種控除などは基礎控除のみとします。
{(1億2,780万円-基礎控除額4,200万円) ×法定相続分1/2 ×相続税の税率 20%-200万円 }× 法定相続人2人=相続税の総額1,316万円
相続税の速算表部分
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
【出典サイト】No.4155 相続税の税率|国税庁
- 配偶者の相続税納付額:相続税の総額1,316万円×配偶者が取得した株式の額(株式の相続税評価額1億2,780万円×法定相続分1/2)÷株式の相続税評価額1億2,780万円=658万円(配偶者の税額軽減により非課税)
- 子供の相続税納付額相続税の総額1,316万円×配偶者が取得した株式の額(株式の相続税評価額1億2,780万円×法定相続分1/2)÷株式の相続税評価額1億2,780万円=658万円
非上場株式1億2,780万円に対する相続税の総額は1,316万円、配偶者の相続税納付額は、相続税の配偶者控除により非課税に、子供の相続税納付額は、658万円となりました。
非上場株式の相続税の評価額は1億2,780万円ですが、手元にそれだけの現金があるわけなく、現金化できずに納税に困る可能性もあります。
相続財産に株式があると、事前の節税対策が大切になります。
お手元にある上場株式を生前贈与しておけば、相続開始時の遺産を減らすことができ、相続税の節税に繋がります。
前述の通り、株式は相続時の価額で評価されるため、相続時に値上がりしていれば、それだけ相続税も増えることになります。また、株式では配当がありますが、その配当も相続税の課税対象です。
一方、株式を生前贈与しておけば、株式の配当は受贈者に帰属し、贈与税は基礎控除となる年間110万円まで発生しません。
株式の発行会社をご自分で経営している場合には、相続税対策の幅が広がります。
上場株式と同様に、保有する自社株式を後継者へ生前贈与して減らしておけば、相続開始時には相続財産が減り相続税対策になります。
ただし、生前贈与には贈与税が課税されます。贈与税が相続税よりも高額になる可能性もあり、自社株式を生前贈与するには、税理士など専門家に相談することをお勧めします。
ご自分が経営している会社は、事前に株式の評価を下げておくことができます。相続税評価額が低くなればその分、相続税の節税に繋がります。
評価を下げる方法は、非上場株式の評価方法にあります。
類似業種比準方式では、退職金の支給や含み損のある固定資産の売却などで赤字を出しておくと、評価額は下がります。
純資産価額方式は、純資産価額が高いほど評価額も高くなるため、設備投資や不動産の購入を行っておくと含み損が発生し、評価額が下がります。
前述の通り、自社株式の評価によっては、多額の納税になる可能性があります。そこで納税資金の調達方法として登場するのが、相続した自社株式を発行会社に買い取ってもらう「金庫株」です。
金融資産を持たない相続人が、相続した自社株式を発行会社に譲渡する代わりに金銭を受け取り、その金銭を納税資金に充てるのです。
同時に金庫株は、株式の分散対策にもなり、株主総会での議決権も事実上停止するため、会社経営の安定化にも資することになります。
非上場株式を発行会社に買い取ってもらうと、譲渡金額のうち資本金に対応する部分を超える金額は、会社が蓄積してきた利益の分配と考えられ、所得税が課税されてしまいます。
株式の資本金部分は譲渡所得として20%の所得税で済みます。しかし、利益の分配部分は配当金収入になり、所得税の総合課税の対象となり、非上場株式では、最大45%の所得税+10%の住民税がかかってしまうことになります。
そこでこの特例の適用を受けると、相続により取得した非上場株式を、相続開始日の翌日から相続税期限の翌日以後3年以内(相続開始日からでは3年10ヶ月以内)に、発行会社に譲渡すれば、資本金部分と利益部分を合わせて一律20%の所得税率で課税され、所得税負担を大きく軽減することができます。
事業承継税制とは、先代経営者から後継者への非上場株式の贈与や相続があった場合には、後継者にかかる贈与税や相続税の納税が全額猶予される制度です。
非上場株式の評価額は、業績好調な会社であればあるほど蓄積された利益が膨らみ、贈与税や相続税も高額になる可能性があります。納税が猶予されるのは、事業承継を円滑に進めるうえで大きなメリットになります。
株式の相続が発生した場合の手続きを具体的にご紹介します。
まず相続人が所有している株式をすべて洗い出します。
株式の評価額は高額になりやすいため、ここで漏れてしまうと、高額な申告漏れと追徴課税に繋がってしまいます。
特に上場株式は、被相続人がこっそり所有していることも多く、思い当たる証券会社はすべて確認します。もし、被相続人が株式を保有・運用していた証券会社がわからなければ、「証券保管振替機構」通称「ほふり」に照会する方法もあります。
非上場株式は、一般の方が手にすることはほとんどなく、会社のオーナーやその親族が役員などに就任し株主となっているため、株式を発行する会社の株主名簿を確認すれば、誰が何株持っているかを確認できます。
被相続人が上場株式を所有していたことが分かったら、株式の所有者が死亡したことを取引先の証券会社に連絡し、保有残高や保有銘柄を確認するために残高証明書の発行を依頼します。
残高証明書には、死亡日時点で被相続人が所有している株式の銘柄名や数量、時価が記載されており、遺産分割協議や相続税申告の際に使用します。
誰がその株式を相続するのかを、相続人で話し合います。
被相続人が経営者を務めていた会社の非上場株式の場合には、その会社の後継者が相続することが一般的です。
株式を相続する人が決まったら、株式の名義変更を行います。
名義変更を行わない限り、株式は相続人のものにはなっていません。名義変更が完了してはじめてその株式の所有者は相続人になります。
名義変更手続きは上場株式と非上場株式で異なります。
取引先の証券会社に名義変更をしたい旨を連絡し、依頼された必要書類を揃えて提出します。必要書類は証券会社ごとに異なります。直接ご確認ください。
また、被相続人の口座をそのまま使用することはできませんので、株の相続人が証券会社に口座を持っていない場合には、新たに開設します。被相続人の取引先であった証券会社とは別の証券会社の口座に引き継ぐこともできます。
非上場株式の場合には証券会社などが間に入らないため、その株式の発行会社に直接連絡をして手続きを行います。
発行会社に保管されている株主名簿の書き換えが行われたら、名義変更の完了です。
ここまでご紹介した通り、相続財産に株式が含まれていると相続税評価や相続手続きも複雑になります。
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