家族信託は、相続対策や認知症対策として利用されていますが、具体的な状況によっては、家族信託が必要ないケースも存在します。
家族信託の利用を検討している方は、どのようなケースで家族信託が必要になるのかをしっかりと押さえておくことが重要です。
今回は、家族信託が必要なケース・必要ないケース、家族信託でトラブルにならないためのポイントについて、わかりやすく解説します。
1.家族信託が必要ないケース
家族信託が必要ないケースとしては、以下の5つが挙げられます。
1-1.本人が若く健康で認知症のリスクがまだない
家族信託は、契約締結と同時に効力が生じ、信託財産の管理権限は、本人から受託者に移行します。本人が若く健康で認知症のリスクがない状態であれば、本人がそのまま財産管理を行えばよいため、家族信託を利用する必要はないでしょう。
ただし、将来いつ病気や事故に巻き込まれるかはわかりません。家族信託の検討は、元気なうちから始める必要があります。
1-2.信託すべき財産がほとんどない
家族信託契約を締結すると、本人が認知症などにより判断能力を失ってしまったとしても、ご家族が適切に財産を管理・処分することが可能になります。
しかし、本人に信託すべき財産がほとんどないのであれば、家族信託を利用するメリットはほとんどありません。そのため、このようなケースでは家族信託は必要ないといえます。
1-3.財産名義を子どもなどに既に移している
家族信託を利用する主な目的は、本人が判断能力を失った場合に、財産の管理や処分ができなくなる事態を回避することにあります。
本人が生前に財産を子どもなどに移して、名義変更を終えているのであれば、本人が認知症になったとしても、名義人である子どもらが財産の管理や処分を行うことができます。そのため、このようなケースでは、家族信託は必要ないといえるでしょう。
1-4.親族間の仲が悪い
家族信託は、信頼できるご家族に財産の管理や処分を委ねる制度です。ご家族間の仲が悪い場合には、大切な財産の管理や処分を委ねるには不安があるといえます。財産の管理や処分について、後々トラブルになるおそれもあります。
そのため、家族間の仲が悪いケースでは、家族信託は控えた方がよいでしょう。
1-5.財産を託すべき信頼できる親族・第三者がいない
家族信託を利用するには、信頼して財産管理を任せられる家族や第三者の存在が不可欠となります。
独り身で財産を託すべき親族がいないという場合や信頼できる第三者がいないという場合には、そもそも家族信託を利用することができません。このような場合には、家族信託以外の方法で相続対策を検討するようにしましょう。
2.家族信託が必要なケース
家族信託が必要なケースとしては、以下の5つが挙げられます。
2-1.介護・医療費を本人の財産から捻出したい
本人が認知症になり、そのことが金融機関に知られてしまうと、預貯金口座が凍結されてしまいます。その状態では、本人の預貯金から介護・医療費の支払いができません。凍結された預貯金口座を再び利用するには、成年後見制度の利用が必要になりますが、それには時間も手間もかかります。
家族信託を利用すれば、本人が認知症になったとしても財産の処分が可能になります。本人が元気なうちから家族信託の準備を進めていくとよいでしょう。
2-2.相続を孫の代まで指定したい
一般的な相続対策で利用される「遺言書」は、自分が亡くなったときの相続に関する対策しかできません。その次の相続(二次相続)の対策もしたいという場合には、家族信託を利用する必要があります。
家族信託であれば、委託者の子どもを第二次受益者、孫を第三次受益者に指定しておけば、子どもの代だけでなく、孫の代まで相続を指定することが可能です。
2-3.賃貸不動産などの収益がある財産を保有している
アパートやマンションなどの賃貸不動産を所有している場合、さまざまな場面で所有者の判断能力が必要になります。賃貸不動産の所有者が認知症になってしまうと、賃貸借契約の締結、リフォーム工事の契約、賃貸不動産の売却などの手続きができなくなってしまい、賃貸経営に支障が生じてしまいます。
本人が認知症になる前に家族信託を利用すれば、そのような事態を回避することができます。
2-4.希望通りの事業承継をしたい
事業を営んでいる方は、後継者を誰にするかで悩んでいる方も少なくないでしょう。今後も事業を継続的に発展させていくためには、二代目だけでなく三代目まで後継者を決めておくことも必要になります。
家族信託は、親族以外の第三者を財産の承継先に指定することができます。事業用の資産や株式などの承継先を指定することで、希望通りの事業承継を実現することができます。
2-5.障害のある子どもの将来に備えたい
障害のある子どもを抱えている場合、将来の子どもの生活に不安を感じている方もいると思います。障害のある子どもが収益不動産を相続したとしても、適切に管理することは難しいため、このような場合には家族信託を利用するとよいでしょう。
家族信託で信頼できる親族に収益不動産の管理を任せて、障害のある子どもを受益者に指定することで、子どもが安定的に収益を得ることができます。
3.家族信託でトラブルにならないためのポイント
家族信託でトラブルにならないようにするためにも、以下のポイントを押さえておくことが大切です。
3-1.認知症になり判断能力を失う前に信託契約を結ぶ
家族信託契約を締結するためには、本人に契約締結に関する判断能力が必要になります。本人が認知症になってしまい、判断能力を失ってしまうと、それ以降は家族信託契約を締結することができなくなってしまいます。
将来的に財産管理に支障が生じないようにするためにも、元気なうちから家族信託の手続きを進めていくことが必要です。
3-2.家族で家族信託について話し合い、納得してもらう
家族信託により、本人が委託者兼受益者となり、本人が死亡した場合の第二受益者を指定することも可能です。この場合、本人の死亡により、信託財産が第二受益者に承継されることになりますが、この財産承継は、相続財産として扱われることになります。そのため、信託財産の金額によっては、他の相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性もあります。
そのため、他の相続人の遺留分を侵害するおそれのある信託契約を締結する際には、家族でよく話し合い、納得してもらうことが大切です。
3-3.信頼できる家族信託の専門家を探す
家族信託は、非常に複雑かつ専門的な内容になりますので、家族信託を締結する際には、専門家に依頼することをお勧めします。
専門家に相談すれば、法務および税務の両面から問題が生じないようにアドバイスしてもらうことができるでしょう。
3-4.家族信託にかかる手間・費用を確認する
家族信託契約を締結すると、受託者には、信託財産の管理を行う義務が生じます。
「こんなに負担になるとは思わなかった」という事態を回避するためにも、家族信託により生じる手間や費用などをあらかじめ確認し、しっかりと理解したうえで手続きを進めるようにしましょう。
3-5.信頼できる受託者を探し依頼する
家族信託は、信頼できる家族や第三者に信託財産の管理・処分を委ねる制度です。
そのため、家族信託を利用する際には、まずは信頼できる受託者を探すことから始めましょう。
3-6.身上監護が必要なら任意後見制度を併用
家族信託は、主に財産管理を目的とした制度になります。したがって、本人の身上監護については、家族信託だけでは十分にカバーすることができません。委託者が認知症になり、施設に入所する際の契約や入院手続などの身上監護まで対応したいという場合には、家族信託と任意後見制度を併用するとよいでしょう。
4.家族信託は当事務所へご相談ください
家族信託は、主に認知症対策や相続対策を目的として利用される制度であり、さまざまなメリットがあります。しかし、本人の具体的な状況によっては家族信託が不要なケースもありますので、家族信託という制度をしっかりと理解したうえで、手続きを進めていくようにしましょう。
家族信託の利用にあたっては、サポートが必要になります。まずは専門家に相談することをおすすめします。
当事務所は、弁護士法人が所属するUグループの一員であり、家族信託については、税務上の問題はもとより、法律上の問題についてもご相談いただけます。お気軽に、お問い合わせください。