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相続財産に株式がある場合には、まず財産評価計算を行い、相続税を計算します。
株式の評価額は思った以上に高額となることがありますので、生前にある程度の評価額を把握しておき、相続税対策を検討することが重要になります。
今回は、株式の相続税評価方法から相続後の手続き、節税方法まで株式についてご紹介いたします。
1.株式の相続税評価方法
株式は大きく分けて、上場株式と非上場株式があります。
どちらに該当するかによって評価方法が異なりますので、それぞれご紹介します。
1-1.上場株式の相続税評価方法
上場株式とは、証券取引所で売買されている株式のことです。
上場株式は日々取引が行われていますので、相続開始日における金額を簡単に把握することができます。
ただし、もしも相続開始日だけ何か特別な事情が起こったことにより乱高下していた場合には、適切な評価額とならない可能性があるため、次の4つの金額のうち最も低い金額を選択します。
- 相続開始日の終値
- 相続開始月のすべての営業日の終値の平均
- 相続開始月の前月のすべての営業日の終値の平均
- 相続開始月前々月のすべての営業日の終値の平均
【例外】新株の割当て・配当の支払いがある場合
株式は売買が行われた日から、3営業日後に引き渡しが行われますので、新株の割り当ての場合には、基準日の3営業日前に株式を購入していなければ権利の確定には間に合わず、配当を受ける権利を有しないことになります。
この状態のことを「権利落ち」といい、配当の支払いを受ける権利がないときは、「配当落ち」とも呼ばれます。
上場株式の新株の割当てがある場合には、株式数の増加や配当の支払いが行われることを見込んで、株価は下がることが一般的です。
相続開始日が権利落ちの日から基準日までの間にある場合にも上記の原則的な評価を行ってしまうと、実質的な株価は権利落ちの前と変わっていないにもかかわらず、低く評価されてしまう可能性があります。
そこでこの場合には、権利落ちの日の前日以前で相続開始日に最も近い日の終値で評価します。
1-2.非上場株式の相続税評価方法
非上場株式とは証券取引所に上場されていない株式のことで、被相続人が中小企業のオーナー社長である場合には、所有していることがほとんどです。
非上場株式には上場株式のようには取引されていないため日々の株価がありませんので、その会社の財政状態により評価することになります。
評価方法には次の3つがあり、大株主か少数株主か、大株主の場合には更に会社の規模はどのくらいなのかによって決まります。
- 類似業種比準方式
- 純資産価額方式
- 配当還元方式
大株主である場合
その会社の発行済株式数の50%を超える株式を被相続人一族で保有している場合には、その会社の経営を支配することができるとして、類似業種比準方式と純資産価額方式を使って評価計算を行います。
- 大会社:類似業種比準方式
- 中会社:類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式
- 小会社:純資産価額方式
※大会社、中会社、小会社の区別は、業種、従業員数、直前期末における純資産額、直前期末における売上高で決まります。
類似業種比準方式
類似業種比準方式とは、業種が似ている上場企業の株価の平均額、配当金額、年利益金額、純資産価額を参考にして株価を評価する方法です。
類似業種のこれらの金額は国税庁が毎月公表していますので、それを使用します。
類似した上場企業の株価 × 比準割合× 調整率
比準割合は次の算式で計算します。
比準割合=
{(評価する会社の1株当たりの配当金額/類似業種の1株当たりの配当金額)
+(評価する会社の1株当たりの年利益金額/類似業種の1株当たりの年利益金額)
+(評価する会社の1株当たりの純資産価格/類似業種の1株当たりの純資産価格)}/3
調整率は会社の規模ごとに、次の通り定められています。
- 大会社:70%
- 中会社:60%
- 小会社:50%
【参考サイト】令和元年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について(法令解釈通達)|国税庁
純資産価額方式
純資産価額方式とは、その評価する会社の相続開始日における資産と負債を相続税評価額に直し、その差額の純資産価額を株式の評価額とする方法です。
(資産の相続税評価額の合計 - 負債の相続税評価額の合計 - 評価差額に対する法人税等相当額※)/発行済株式数
※ 評価差額に対する法人税等相当額 =(相続税評価額による純資産価額-帳簿価額による純資産価額)×37%
とりあえず大まかな株式の評価額を知っておかれたいという場合には、相続税評価額は帳簿価格とかけ離れた金額になることは稀ですので、帳簿の純資産価額を発行済株式数で割ることで簡単に把握できるかと思います。
少数株主である場合
少数株主はその会社を支配することはできませんので、株式の価値は配当金を受け取れる程度のことであると考えられるため、配当還元方式により評価計算を行います。
また、あとでご紹介いたします類似業種比準方式と純資産価額方式には、多くの資料が必要になります。非上場会社で更に経営に参加していない少数株主がこれらの資料を揃えることは難しいと考えられるため、簡易的な配当還元方式が設けられています。
配当還元額 =(1株あたりの年間配当額/10%)×(1株あたりの資本金等の額/50円)
2.株式にかかる相続税の計算方法
それでは株式にかかる相続税を簡単に計算してみます。
2-1.相続税評価額の計算
次の条件で、非上場株式の相続税評価額を計算してみましょう。
- 相続開始日:6月8日
- 相続財産:非上場の自社株式300株
- 会社の規模:小会社
- 発行済株式数:500株
- 純資産の相続税評価額:2億5,000万円(資産3億円、負債5,000万円)
- 純資産の帳簿価額:1億5,000万円(資産2億円、負債5,000万円)
この条件では、非上場株式の評価方法は純資産価額方式になります。
(2億5,000万円 - 3,700万円※)/500株 = 426,000円
※評価差額に対する法人税等相当額 =(2億5,000万円-1億5,000万円)×37%=3,700万円
426,000円 × 300株 = 1億2,780万円
この場合の非上場株式の相続税評価額は、1億2,780万円となります。
2-2.相続税の計算
続いて法定相続人が2人の場合の非上場株式1億2,780万円にかかる相続税を計算します。
便宜上、相続税の各種控除などは基礎控除のみとします。
{(1億2,780万円-4,200万円※) ÷ 法定相続人2人 × 20%-200万円 }× 法定相続人2人=1,316万円
※相続税の基礎控除額 = 3,000万円+600万円×2人=4,200万円
相続税の速算表部分
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
【出典サイト】No.4155 相続税の税率|国税庁
非上場株式1億2,780万円に対する相続税は、1,316万円となりました。
非上場株式は上場されていませんので、簡単に売買することができません。相続税の評価額としては1億2,780万円という金額になりましたが、手元にそれだけの現金があるわけではありませんし、すぐに現金化できるものでもありません。
相続財産に株式がある場合には、事前の節税対策が非常に大切になることがお分かりいただけましたでしょうか。株式の節税については、「4.株式にかかる税負担を軽減する方法」でご紹介します。
3.株式の相続手続き
株式の相続が発生した場合の手続きを具体的にご紹介します。
3-1.株式の確認
まず相続人が所有している株式をすべて洗い出します。
株式の評価額は高額になりやすいため、ここで漏れがありますと、高額な申告漏れと追徴課税に繋がってしまいます。
特に上場株式の場合には、こっそり所有していたということも多いです。思い当たる証券会社はすべて確認された方が良いと思います。
将来ご自身が亡くなったとき、所有している財産を一式記載した財産目録のようなものを作成しておくと、残された家族の負担が軽くなりますのでおすすめです。
3-2.証券会社から残高証明書を取得
上場株式の場合には、株式の所有者が死亡したことを取引先の証券会社に連絡し、保有残高や保有銘柄を確認するために残高証明書の発行を依頼します。
残高証明書には、死亡日時点で被相続人が所有している株式の銘柄名や数量、時価が記載されており、遺産分割協議や相続税申告の際に使用します。
3-3.遺産分割協議により相続人を決定
誰がその株式を相続するのかを、相続人で話し合います。
被相続人が経営者を務めていた会社の非上場株式の場合には、その会社の後継者が相続することが一般的です。
3-4.株式の名義変更手続き
株式を相続する人が決まったら、株式の名義変更を行います。
名義変更を行わない限り、株式は相続人のものにはなっていません。名義変更が完了してはじめてその株式の所有者は相続人になります。
名義変更手続きは上場株式と非上場株式で異なりますので、それぞれご紹介します。
上場株式の場合
取引先の証券会社に名義変更をしたい旨を連絡し、依頼された必要書類を揃えて提出します。必要書類は証券会社ごとに異なりますので、必ず確認してください。
また、被相続人の口座をそのまま使用することはできませんので、株の相続人が証券会社に口座を持っていない場合には、新たに開設します。被相続人の取引先であった証券会社とは別の証券会社の口座に引き継ぐこともできます。
非上場株式の場合
非上場株式の場合には証券会社などが間に入らないため、その株式の発行会社に直接連絡をして手続きを行います。
発行会社に保管されている株主名簿の書き換えが行われたら、名義変更の完了です。
4.株式にかかる税負担を軽減する方法
最後に、株式の相続税負担を軽減させる方法をご紹介します。
株式の評価額は高額になりやすく、特に換金しにくい非上場株式については、生前に綿密な計画を立てておくことが大切になります。
4-1.相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
財産を譲渡して得られた利益は、譲渡所得として所得税の対象になります。
譲渡所得は次の算式で計算するのですが、相続財産を相続開始日の翌日から相続税期限の翌日以後3年以内(相続開始日からでは3年10ヶ月以内)に譲渡した場合には、その相続財産に対して支払った相続税を「取得費」に含めることができます。
この特例は相続税の節税になるものではありませんが、支払った相続税が無になるのではなく、所得税の軽減に使うことができます。
譲渡所得 = 譲渡収入金額 - 取得費 - 譲渡費用
4-2.非上場株式を発行会社に譲渡した場合の特例
非上場株式を発行会社に買い取ってもらう場合、譲渡金額のうち資本金に対応する部分を超える金額については、会社が蓄積してきた利益の分配と考えます。
資本金部分は譲渡所得として20%の所得税で済みますが、利益の分配部分は配当金収入になりますので、所得税の総合課税の対象となり、最大で55%の所得税がかかってしまうことになります。
そこでこの特例の適用を受けると、相続により取得した非上場株式を、相続開始日の翌日から相続税期限の翌日以後3年以内(相続開始日からでは3年10ヶ月以内)に、発行会社に譲渡した場合には、資本金部分と利益部分を合わせて一律20%の所得税率で課税されますので、所得税負担を大きく軽減することができます。
4-3.自社株式の場合
株式の発行会社を自身で経営している場合には、できる相続税対策が広がります。
株式の評価を下げておく
自身で経営している会社ですので、事前に株式の評価を下げておくことができます。相続税評価額が低くなればその分、相続税の節税に繋がります。
評価を下げる方法は、非上場株式の評価方法にあります。
類似業種批准方式は、類似業種の上場企業に比べて業績が良い場合には評価額が高くなりますので、退職金の支給や含み損のある固定資産の売却などで赤字を出しておくと、評価額は下がります。
純資産価額方式は、純資産価額が高いほど評価額も高くなりますので、設備投資や不動産の購入を行っておくと含み損が発生し、評価額が下がります。
事業承継税制の適用を受ける
事業承継税制とは、先代経営者から後継者へ非上場株式の贈与または相続があった場合には、後継者にかかる贈与税または相続税の納税が全額猶予される制度です。
非上場株式の評価額は、業績好調な会社であればあるほど蓄積された利益が膨らんでおり、思った以上に高額になります。それにかかる贈与税または相続税も高額になりますので、その納税が猶予されるということは、事業承継を円滑に進めるうえで大きなメリットになります。