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かつては、金融機関から融資を受けるとき、経営者が連帯保証人になるケースがよくありましたが、経営者保証がある状態だと事業承継がしづらくなります。
そこで、経営者保証を外すためのポイントや具体例、手続きの流れを詳しく説明していきます。
1.事業承継で経営者保証を外す動きが活発に
中小企業が金融機関等からの融資を受ける場合に経営者が借入金の連帯保証人になる「経営者保証」を求められることがあります。
経営者保証は貸す側(金融機関等)にとって有利な制度ですが、中小企業の経営者にとっては大きな負担になる制度です。なぜなら「会社経営に失敗すると自分の財産まで失ってしまうため」です。そのため、思い切った事業展開ができなくなってしまったり、経営者保証があるために後継者不足に陥ってしまったり、様々な問題点が指摘されています。
近年では、経営者保証の問題点を改善するため、2013年に「経営者保証に関するガイドライン」が作られ、経営者保証を外す動きが活発になってきています。金融庁によれば、新規融資に経営者保証を求めない融資の割合が増加しており、2022年上半期には約3分の1の新規融資には経営者保証がついていません。
【参考】中小企業庁:経営者保証に関するガイドライン
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/#guideline
また、後継者へ事業承継を行う際、経営者保証の引継ぎの有無が事業承継の障壁になっていましたが、各金融機関では事業承継時に可能な限り経営者保証を解除していく動きになっています。
例えば、商工中金では令和2年より一定の条件を満たす企業の融資に対して原則的に「無保証化」しています。事業承継の際には、経営者保証を不要とする新たな保証制度を創設し、経営者への負担が軽減できるようになっています。
2.経営者保証を外すためのガイドライン
世間では経営者保証を外していく動きになっていますが、「会社の連帯保証人になりたくない」という思いだけで経営者保証を外すことはできません。経営者保証を外すためには「経営者保証に関するガイドライン」に沿った対策を行うことが重要です。ガイドラインでは、経営者保証を外すための3つの対策があげられています。
- 法人と経営者との関係の明確な区分・分離
- 財務基盤の強化
- 財務状況の正確な把握、経営の透明性確保
2-1.①法人と経営者との関係の明確な区分・分離
1つ目の対策は「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」を行うことです。つまり「経営者と会社の財産はしっかり区別しましょう」ということです。
例えば、経営者所有の建物の一部を工場やオフィスで使用している場合は会社から経営者へ適切な賃料の支払いを行う、むやみに会社から経営者への貸し付けを行わない、個人の費用と会社の経費の線引きをきちんと行うなど、経営者と会社の財産をしっかりと区分するようにしましょう。
ガイドラインでは、整備状況などを税理士などの外部の専門家から検証してもらい、金融機関等に開示することが望ましいとされています。
2-2.②財務基盤の強化
経営者保証を外すためには、会社の収益力のみで融資を滞りなく返済することが条件になります。業績を安定させ、融資の返済に十分なキャッシュフローを確保することや十分な内部留保が確保されていること、今後の業績が安定的であることなどが求められます。
2-3.③財務状況の正確な把握、経営の透明性確保
ガイドラインでは、会社は金融機関などに対し、貸借対照表や損益計算書などの財産状況が分かるものに加え、事業計画や業績見通しなどを開示し、説明することにより経営の透明性を確保することが求められています。
透明性を確保するためには、年1回の決算書だけの説明ではなく、事業年度中に試算表などを用いて定期的な報告を行うなどが効果的です。
3.経営者保証を外す方法の具体例
経営者保証を外す方法は上記①~③のポイントを実現し、金融機関等から経営者保証の解除を認めてもらうことです。経営者保証を外すことができた具体的な例をいくつか見ていきましょう。
3-1.経営者保証コーディネーターによるポイント整理により解除できたケース
経営者が法人に多額の資金と事業用の土地の一部を借りており、法人と経営者との関係の明確な区分ができていないと指摘され、経営者保証を外すことができていなかったケースについて見てみます。
このケースでは、経営者保証コーディネーターにより、経営者保証を解除するために次のことを実施し、解除することができています。
- 経営者が法人に貸していた多額の資金について、借入金の内容を精査し、金融機関からのプロパー無保証の短期継続融資へと借り換えを行った。
- 法人と経営者の財産を分離するため、経営者が所有する法人が使用している土地を法人に売却することを検討。
3-2.財務基盤を強化することで解除できたケース
工場の新設による業務拡大のため融資を受けたが、思うように業績が上がらず、法人の収益力のみでは借入金の返済ができていなかったケースについてです。
このケースでは、外部専門家の巻き込んで得た知見を利用し、経営者保証解除を実現することができています。
- 外部専門家と会社役員が経営課題を整理。課題解決に向け、生産体制の見直し、技術力強化を企図したエンジニアの採用、新市場への進出と営業力の強化を実施した。
- 金融機関へ事業計画と実績を定期的に報告し、計画に修正が必要になった場合は早めの報告と原因の説明を行った。
3-3.財務内容への透明性、信頼性を確保し解除することができたケース
会社の業績が悪くなかったが、経営者が会社の資産を正確に把握しておらず、金融機関が納得できる説明を行うことができず、透明性・信頼性が確保できていなかったケースについてです。
このケースでは、外部専門家に依頼し事業性評価書を作成することで経営者保証解除を実現することができています。
- 外部専門家へ会社の資産の正確性を確認するために事業性評価書の作成を依頼。事業性評価書により会社の経理処理の正確性が担保され、会社の商的流通を正確に把握することができるようになった。
- 金融機関が会社の事業実態を正確に把握することができ、経営者保証の解除を検討する資料作成に役立った。
4.経営者保証を外すための流れ
経営者保証を外すためには「行動すること」が重要です。金融機関に対して次のような流れで行動してみましょう。
4-1.金融機関に正面から頼んでみる
まずは金融機関に「経営者保証を外したい」と正面から頼んでみましょう。その時点でガイドラインの要件を満たしていれば経営者保証を無条件で外してもらえることもあります。もし、経営者保証を外せないと言われた場合には、外せない理由を詳しく尋ねてみましょう。
4-2.条件をクリアする
経営者保証を外せない理由は、裏を返せば会社の問題点でもあります。金融機関に経営者保証を外せない理由を詳しく尋ね、その条件をクリアすることさえできれば経営者保証を外すことが可能になります。
複数の取引金融機関がある場合でも、基本的には同じガイドラインにより経営者保証の有無を判定することになりますので、1つの金融機関が経営者保証を外すことができれば他の金融機関の経営者保証を外すことができるようになります。
4-3.専門家に相談することも必要
経営者保証を外すためには「この会社は経営者保証がなくても大丈夫」と金融機関から信頼してもらうことが重要です。信用してもらうためには、税理士や中小企業診断士などの外部の専門家から客観的に評価、判定してもらい、その結果を金融機関へ提出することが近道です。外部の専門家と連携し、財務状況を改善し、会社の信用力を高めていくことで経営者保証を行わなくても融資を得ることができるようになるでしょう。
まとめ
近年の融資では、経営者保証は必須ではなく、むしろ、経営者保証をつけないケースが増えています。
すでに経営者保証がついている融資も、ポイントを抑えて対策をすれば、経営者保証を外すことができる可能性があります。
当事務所は、認定経営革新等支援機関として、特に、財務状況の分析や改善を得意分野としてサポートしております。経営者保証を外したいとお考えの経営者様には、ぜひ一度ご相談されることをお勧めいたします。