新型コロナウイルス感染症の勢いは衰えず、私たちの暮らしに様々な影響を与えています。特に、コロナ禍で飲食店や旅行業、宿泊業、交通業などの経営は深刻な打撃を受けており、継続していくことが困難な状況に立たされています。そのため、従来のビジネスをコロナ禍に対応したビジネスに切り替えていくことが必要です。
新しいビジネスに切り替えるためには設備投資が必要になり、その設備投資費用の一部(最大1億円)を国が負担する「事業再構築補助金」がスタートします。
1.事業再構築補助金とは?
1-1.1兆円超の予算
「事業再構築補助金」とは、新型コロナウイルス感染症による経済の急速な変化に対応するために新しい事業への進出や事業転換、事業再編など、企業の思い切った事業の再構築を国が支援する制度です。この制度は、2021年のコロナ対策補正予算総額約19兆円のうち、1兆1485億円という莫大な予算が設定されている注目の補助金です。
1-2.補助金の申請要件
補助金の主要な申請要件は次の3つです。
①売上が減少していること
申請前の直近6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が、コロナ以前(2019年または2020年1~3月)の同3か月の合計売上高と比較して10%以上減少していること
②事業再構築に取り組むこと
事業再構築指針に沿った新分野展開、業態転換、事業・業種転換等を行うこと
③認定経営革新等支援機関と事業計画を策定すること
補助金の審査は、事業計画をもとに審査されます。審査を通過するためには合理的かつ説得力のある事業計画でなければならないため「認定経営革新等支援機関」と連携して事業計画を策定する必要があります。
認定経営革新等支援機関とは、税理士や中小企業診断士などの士業や金融機関が経営者のサポーターとして国から認定を受けた「中小企業経営力強化支援法に基づき認定された経営革新等支援機関」の通称です。補助金額が3,000万円を超える事業計画の場合は、金融機関との連携が必要になります。
1-3.補助額と補助率
事業再構築補助金は、中小企業と中堅企業に対してそれぞれ助成金の枠があります。また、中小企業と中堅企業ともに通常枠以外の「緊急事態宣言特別枠」が用意されています。
中小企業の範囲は中小企業基本法により決められており、業種によって資本金と従業員数の範囲が異なります。中堅企業については、中小企業の範囲に入らない、資本金が10億円未満の企業が該当します。
補助額 | 補助率 | |
---|---|---|
通常枠 | 100万円~6,000万円 | 2/3 |
卒業枠 | 6,000万円超~1億円 | 2/3 |
※卒業枠とは、400社限定の特別枠です。事業計画期間内に組織再編、新規設備投資、グローバル展開のいずれかにより、資本金又は従業員数を大幅に増加させ中小企業から中堅企業に成長する企業が申請することができます。
補助額 | 補助率 | |
---|---|---|
通常枠 | 100万円~8,000万円 | 1/2 (ただし、4,000万円超は1/3) |
卒業枠 | 8,000万円超~1億円 | 1/2 |
※グローバルV字回復枠とは、100社限定の特別枠です。次の3つの要件を満たす中堅企業が申請することができます。
①直前6か月間のうち任意の3か月の合計売上高がコロナ以前の同3か月の合計売上高と比較して、15%以上減少していること
②補助事業終了後3~5年で付加価値額又は従業員一人当たり付加価値額の年率5.0%以上増加の達成を見込む事業計画を策定すること
③グローバル展開を果たす事業であること
特別枠(中小企業の「卒業枠」と中堅企業の「グルーバルV字回復枠」)の審査に通らなかった場合は、通常枠として再審査されることになります。
<緊急事態宣言特別枠>
中小企業または中堅企業で補助金の申請要件を満たし、さらに緊急事態宣言に伴って深刻な影響を受けた企業には「緊急事態宣言特別枠」が用意されています。これは、緊急事態宣言による時短営業や不要不急の外出・移動の自粛等により、令和3年1~3月のいずれかの月の売上高が対前年または前々年の同月比で30%以上減少している企業が対象になります。要件に該当していれば、地域や業種の制限はありません。
従業員数 | 補助金額 | 補助率 |
---|---|---|
5人以下 | 100万円~500万円 | 中小企業:3/4 中堅企業:2/3 |
6~20人 | 100万円~1,000万円 | |
21人以上 | 100万円~1,500万円 |
緊急事態宣言特別枠の審査で通らなかった場合は「加点」された上で通常枠で再審査になるため、特別枠で申請した方が審査に通る可能性が高くなります。
1-4.補助の対象になる経費
事業再構築補助金の対象になる経費はこれまでの助成金に比べて幅広く設定されており、今までの補助金であまり支援がなかった建物費・広告宣伝費・研修費なども対象になっている点が特徴です。
<補助の対象になる経費>
- 建物費(建物の建築・改修、建物の撤去、賃貸物件等の原状回復)
- 機械装置・システム構築費(設備、専用ソフトの購入やリース等)、クラウドサービス利用費、運搬費
- 技術導入費(知的財産権導入に要する経費)、知的財産権等関連経費
- 外注費(製品開発に要する加工、設計等)、専門家経費
- 広告宣伝費・販売促進費(広告作成、媒体掲載、展示会出展等)
- 研修費(教育訓練費、講座受講等)
補助の対象にならない経費には、従業員の人件費や旅費、不動産の購入費用、株式の購入費用、車両や汎用品購入費用、フランチャイズ加盟料、販売する商品の原材料などがあります。
1-5.事業再構築補助金の公募スケジュール
事業再構築補助金の公募は、2021年度中に全5回行われる予定です。
第1回目の公募は、2021年3月26日から5月7日にかけて行われました。5,181事業者が応募し、2,866事業者が採択されました。
第2回目の公募は2021年5月20日から7月2日にかけて行われました。20,800事業者が応募し、9,336事業者が採択されました。
第3回目の公募は2021年7月30日から9月21日にかけて行われました。
なお、第3回公募から、最低賃金枠の創設や、売上高減少要件の見直しなど大幅な変更が行われています。詳細は、中小企業庁の「事業再構築補助金」サイトをご確認ください。
1-6.補助金支給までの流れ
事業再構築補助金が支給されるまでの流れは次のとおりです。
- 補助金の交付申請を行い、交付が決定する
- 交付決定後12か月または14か月の期間が補助事業期間となり設備などの購入を行う
- 実績を報告し、確定検査を受け補助金の額が決定する
- 精算払請求を行い、補助金の支給が行われる
- 補助事業終了後は5年間フォローアップ期間となり、経営状況などについて年次報告を行わなければならない
(出典:中小企業庁『事業再構築補助金の概要』)
2.事業再構築とは?
2-1.事業再構築の5つのタイプと要件
事業再構築補助金は「事業再構築」についての支援を行う制度です。「事業再構築」という言葉は一般的にあまり聞き馴染みがないため、経済産業省・中小企業庁では「事業再構築指針」により「事業再構築」の定義について明らかにしています。
事業再構築には「新分野展開」「事業転換」「業種転換」「業態転換」「事業再編」の5つのタイプがあります。似ている言葉が並びますが、それぞれ主たる業種、主たる事業が同じか変更があるかという違いがあります。
内容 | 主たる業種 | 主たる事業 | |
---|---|---|---|
新分野展開 | 新たな製品等で新たな市場に進出する | 同じ | 同じ |
事業転換 | 主な「事業」を転換する | 同じ | 変更 |
業種転換 | 主な「業種」を転換する | 変更 | 変更 |
業態転換 | 製造方法等を転換する | 同じ | 同じ |
事業再編 | 事業再編を通じて新分野展開、事業転換、 業種転換又は業態転換のいずれかを行う |
同じ or 変更 |
同じ or 変更 |
また、5つのタイプの事業再構築には、それぞれの要件があります。
要件 | |
---|---|
新分野展開 | ①製品等の新規性要件、②市場の新規性要件、③売上高10%要件 |
事業転換 | ①製品等の新規性要件、②市場の新規性要件、③売上高構成比要件 |
業種転換 | ①製品等の新規性要件、②市場の新規性要件、③売上高構成比要件 |
業態転換 | ①製造方法等の新規性要件、②製品の新規性要件、③売上高10%要件 (提供方法変更の場合:②商品等の新規性要件または設備撤去等要件) |
事業再編 | ①組織再編要件、②その他の事業再構築要件 |
各要件の詳細は省略いたしますが、中小企業庁の資料をご参照ください。
(出典:中小企業庁『事業再構築指針の手引き』)
https://www.meti.go.jp/covid-19/jigyo_saikoutiku/pdf/shishin_tebiki.pdf
2-2.事業再構築の具体例
事業再構築の定義を満たした具体例を簡単に見ていきましょう。
①新分野展開の具体例 不動産業からレンタルオフィス業へ新分野展開
ビジネスマン向けのウィークリーマンションを営んでいた不動産会社がテレワーク需要の増加を踏まえてウィークリーマンションの一部をテレワークスペースや会議室に改装するとともにオフィス機器を導入。3年間の事業計画終了時点でレンタルオフィス事業の売上高が企業の総売上高の10%以上となる計画を策定している場合は、新分野展開の要件を満たすことになります。
このケースでは、主たる業種、主たる事業ともに不動産業のままで変わりません。
②事業転換の具体例 日本料理店が焼肉店を開業した場合
日本料理店が、換気の徹底によりコロナ感染症のリスクが低いとされる焼肉店を新たに開業し、新たに卓上備え付けのロースター等の設備や内装の改装を計画。3年間の事業計画終了時点で焼肉店の売上高の構成比が最も高くなる(標準産業分類の細分類ベース)計画を策定した場合は、事業転換の要件を満たすことになります。
このケースでは、主たる業種は飲食店のまま変わらず、主たる事業は日本料理店から焼肉店に転換されています。
③業種転換の具体例 レンタカー事業から貸し切りペンション業に業種転換した場合
レンタカー事業を営む企業が、コロナ感染症の対策を行った貸し切りペンション事業の経営を開始し、レンタカー事業と組み合わせた宿泊プランを提供。3年間の事業計画終了時点で貸し切りペンション事業(宿泊業)の売上構成比が最も高くなる計画を策定した場合は、業種転換の要件を満たすことになります。このケースでは、
主たる業種、主たる事業ともに物品賃貸業(レンタカー事業)から宿泊業(貸し切りペンション事業)に転換されています。
④業態転換の具体例 居酒屋から弁当の宅配事業に業態転換した場合
居酒屋事業を営む企業がコロナ感染症の影響により売上高が激減したため、店舗での営業を縮小しオンライン専用の弁当の宅配事業を新たに開始。3年間の事業計画終了時点で弁当の宅配事業の売上高が企業の総売上高の10%以上となる計画を策定している場合は、業態転換の要件を満たすことになります。
このケースでは、主たる業種、主たる事業ともに飲食店業(居酒屋事業)のままで変わりませんが、業態が転換されています。
3.申請手順と申請方法
ここでは、事業再構築補助金の具体的な申請手順と申請方法を見ていきましょう。
3-1.GビズIDプライムアカウントの取得
事業再構築補助金の申請は全て電子申請で行われます。そのため、事前に「GビズIDプライムアカウント」を取得する必要があります。
GビズIDプライムアカウントは、様々な行政サービスにログインできるサービス「GビズID」で取得することができます。ただし、アカウントの発行には3週間ほど時間がかかることもあるため、早い段階で取得するといいでしょう。
アカウント発行が申請に間に合わない場合は、早期発効が可能な「暫定GビズIDプライムアカウント」を利用することも可能ですが、後日、正式なアカウントが必要になります。
3-2.認定経営革新等支援機関と一緒に事業計画書の作成
事業再構築補助金の審査を通過するには、合理的で説得力のある事業計画を策定することが必要です。自社の現状の状況をしっかりと把握し、自社の強みを利用できる新しい市場の分析や事業計画で課題になる点やその解決方法など、客観的な視点で分析しなければなりません。
事業計画は、税理士や中小企業診断士、金融機関などの認定経営革新等支援機関と相談しながら作成しなければなりません。事業計画の基礎部分が決まったら早めに認定経営革新等支援機関に相談しましょう。認定経営革新等支援機関は中小企業庁のホームページから検索することが可能です。
【参照】認定経営革新等支援機関検索システム
https://ninteishien.force.com/NSK_CertificationArea
事業再構築補助金は、補助金の支給後5年間は年次報告を行わなければなりません。年次報告では補助金で購入した設備の厳格な管理が必要です。そのため、日々の会計処理や決算書類の作成ができる、経営革新等支援機関に認定されている税理士に相談することをおすすめします。事業計画書は、次の事項を含めて15ページ以内で作成しなければなりません。
事業計画書の記載内容
補助事業の具体的取組内容
自社の企業分析(SWOT分析)により外部環境や内部環境の強み、弱み、機会、脅威などの分析を行い、事業再構築の必要性とその具体的な内容、補助事業で新分野などへの取り組みなどを記載します。応募する補助金の枠に適した事業計画書を作成しましょう。
将来の展望
新事業や転換する事業のユーザー分析やマーケット分析を行い、そのマーケットでの自社の優位性・収益性や課題、リスクなどの解決法を具体的に記載します。マーケット分析については、経済産業省が開発している統計分析ツール「グラレスタ」を利用することができます。
補助金事業で取得する資産
補助金事業で取得する主な資産の名称、分類、取得予定価格等を記載します。
収益計画
事業のスケジュールや資金調達方法、「付加価値額」の算出根拠など具体的な事項を記載します。
3-3.自社で電子申請を行う
事業再構築補助金の申請は、税理士などの認定経営革新等支援機関ではなく、自社で電子申請を行います。GビズIDプライムアカウントを利用し電子申請システムにログインして、事業計画書などの入力を行い送信します。
3-4.添付書類
電子申請では次の添付書類が必要になるので忘れないように準備しましょう。
- 事業計画書(15ページ以内)
- 認定経営革新等支援機関または金融機関による確認書
- コロナ以前に比べて売上高が減少したことを示す書類
- 直近2年間の決算書(貸借対照表、損益計算書、製造原価報告書、販売管理費明細、個別注記表)
- ミラサポplus「活動レポート(ローカルベンチマーク)」の事業財務情報
- 海外事業の準備状況を示す書類(グローバル展開を実施する場合の卒業枠・グローバルV字回復枠の場合)
- 従業員数を示す書類(緊急事態宣言特別枠のみ)
- 緊急事態宣言により売上高が減少したことを示す書類(緊急事態宣言特別枠のみ)
- 2021年1月~3月のいずれかの月の固定費を示す書類(任意)
- 審査における加点を希望する場合に必要な追加書類
4.注意点
事業再構築補助金を申請する上でいくつか注意点があります。申請する場合は以下の点に気を付けましょう。
4-1.事業再構築実施後に補助金が支給される
補助金の支給は補助事業実施期間終了後に、補助事業実績報告書の提出を受け、補助金額の確定後の精算払いになります。そのため、当初の設備費用などの支払いは自己資金で賄う必要があります。
既に資金繰りが厳しい状況にある場合には、金融機関からの融資を視野に入れなければなりません。金融機関は認定経営革新等支援機関でもあるため、一度相談してみてはいかがでしょうか。補助金額が3,000万円を超える事業計画の場合は、金融機関による確認書が必ず必要になります。
4-2.補助金の交付決定前の経費は対象外
補助金の交付決定が行われる前に支出した経費は、補助金の対象となりません。補助金の対象になる経費は原則的に「補助金の交付決定後」になります。ただし、公募開始後に事前着手申請を提出し事務局から承認された場合には令和3年2月15日以降の設備の購入契約などについても補助金の対象になります。
4-3.終了後5年間、年次報告が必要
事業再構築補助金は補助金が支給されて終了ではなく、5年間のフォローアップ期間が設定されています。フォローアップ期間では会計期間終了後60日以内に補助事業に係る事業化等の状況(収益状況を含む)と知的財産権等報告書を提出し、補助事業の報告を行わなければなりません。報告を疎かにすると補助金の交付が取り消され、返還を求められるおそれがあります。
4-4.取得した財産について様々な規定がある
補助金を利用して購入した資産には様々な制限があります。例えば、単価50万円以上の財産の処分を行う場合は事務局の承認を得なければなりません。また、財産を処分した場合はその財産の取得に要した補助金を上限に残存簿価もしくは時価により補助金を納付(返済)しなければなりません。
まとめ
「事業再構築補助金の概要」についてご紹介しました。
事業再構築補助金は、コロナ感染症で経営が苦しい中小企業や中堅企業を支援するために1兆1485億円という予算規模で行われる注目の補助金です。補助率も高く設定されているため、申請要件を満たす事業者の方は検討されてみてはいかがでしょうか。