借金を含めた相続財産の一切を相続しなくて済む相続放棄は、相続の状況によっては相続人のその後の生活を守る非常に有効な手段です。
今回は相続放棄の方法や、手続きの費用など具体的な事項についてご紹介いたします。
1.相続放棄はどんなときにすべきか
相続放棄は、相続財産のすべてを相続したくない場合に選択します。
具体的には次のようなケースです。
1-1.相続放棄をすべきケース
- 相続財産が債務超過の状況にある
- 被相続人の債務が不明確で、あとから借金が発覚する精神的負担を減らしたい
- 遺産分割協議など他の相続人とかかわりたくない
など
1-2.相続放棄のメリット・デメリット
相続放棄のメリット
相続放棄を選択する最大のメリットは、借金などのマイナス財産を相続しなくて済むという点です。相続を機に被相続人の借金を負わされるようなことになれば、相続人のその後の人生は大きく狂ってしまうからです。
また、相続放棄をすると相続人ではなくなりますので、遺産分割協議や名義変更など他の相続人と関わらなくて済み、相続争いなどの煩わしさから解放されます。
相続放棄のデメリット
相続放棄は被相続人の財産すべてを相続することができなくなりますので、相続放棄した後にプラス財産の方が多いことが分かったとしても、既に相続の権利はありません。
被相続人と同居していた場合には、被相続人の所有物であった自宅からの退去や、家具家電などを手放さなくてはならなくなります。
また相続人の誰かが相続放棄することで、次の順位の相続人に相続権が移ることになり、思わぬしわ寄せがいき、迷惑をかけてしまう可能性があります。
2. 相続放棄の手続き
相続放棄を行うための手続きを流れに沿ってご紹介いたします。
2-1.相続放棄の検討
手続きを始める前にまず、本当に相続放棄をしてよいのか今一度慎重に検討されてください。
相続放棄は一度手続きをすると、原則として撤回することはできません。安易に選択してしまいますと、かえって損失となる可能性があります。
2-2.必要書類の準備
相続放棄を行う意思が確定したら、まず裁判所に提出する書類一式を準備します。
【必要書類】
- 被相続人の戸籍謄本
- 被相続人の住民票または戸籍の附票
- 相続放棄をする人の戸籍謄本
- 相続放棄の申述書
なお、相続放棄申述書については、以下の関連記事をお読みください。
【関連記事】相続放棄申述書の書き方やポイント、提出すべき必要書類について
2-3.家庭裁判所に相続放棄の申述の提出
必要書類が準備できましたら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ提出します。
裁判所によっては郵送での提出を受け付けていますが、不足資料等や訂正があった場合に備えて、直接出向いた方が良いかと思います。
管轄はこちらよりご確認ください。
【参考外部サイト】裁判所の管轄区域 | 裁判所
2-3.家庭裁判所の照会書に記入・返信
必要書類を提出後、1・2週間前後で裁判所より照会書・回答書が送付されてくることが多いでしょう。
本当に本人の意思によって相続放棄の申述をしているかなどの調査を行うための書類ですので、届いた場合には速やかに記入し返送します。
2-4.相続放棄受理通知書の受領
裁判所に相続放棄が認められた場合には、回答書の提出から(照会書が届かなかった場合には、申述書の提出から)1週間前後に、相続放棄が認められましたという通知として「相続放棄受理通知書」が送付されてきます。
以上で相続放棄の手続きは完了となります。
2-5.相続放棄にかかる費用
相続放棄の手続きにかかる費用はそれほど大きなものではなく、3,000~5,000円程度となっており、必要書類の収集にかかる費用が大半です。
- 被相続人の戸籍謄本:750円程度
- 被相続人の住民票または戸籍の附票:450円程度
- 相続放棄をする人の戸籍謄本:450円程度
- 相続放棄の申述書に貼付する印紙代:800円
- 郵便切手:500円程度
3.相続放棄の期限
相続放棄には期限があることを忘れてはいけません。期限を過ぎてしまうと相続放棄ができなくなりますが、やむを得ない事情がある場合には期限を延長することもできます。
3-1.相続放棄ができるのは原則3ヶ月
民法によって相続放棄は、相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内にしなければならないと定められています。
3ヶ月以内に行わなければならないのは、相続放棄の申述書を裁判所に提出することです。承認まで3ヶ月以内におりている必要はありません。
3ヶ月以内提出しなかった場合には、通常の相続の形である単純承認をしたという扱いになり、相続放棄をすることは原則としてできなくなります。
3-2.3ヶ月を過ぎてしまいそうな場合の対処法
プラス財産よりマイナス財産の方が多いのか少ないのかの財産調査が難航しているなどのやむを得ない事情によって、相続放棄の判断が3ヶ月を過ぎてしまいそうなケースもあるかと思います。
そのようなときのために「相続の承認または放棄の期間の伸長」という制度があり、申し立てをして承認されれば、熟慮期間をさらに3ヶ月伸ばすことができるようになっています。
この申し立ては元々の相続放棄の期限である、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に行わなければなりません。
また、申し立てをしたからといって必ず認められる制度ではなく、3ヶ月を超える伸長や再伸長は余程の理由がない限り認められません。
3-3.3ヶ月を超えてしまった場合は?
相続放棄の申述書を提出せず、相続の承認または放棄の期間の伸長の申し立てもせずに3ヶ月が経過してしまった場合には、相続放棄の承認を受けることは非常に難しくなりますが、絶対に不可能というわけではありません。
この場合には、裁判所に相続放棄に関する事情の詳細を記載した上申書を提出し、通常より細かい確認を受けることになります。
書面の記載内容や回答次第で相続放棄が認められるかが決まる難易度の高い手続きになりますので、期限を超えた相続放棄については経験豊富な司法書士や弁護士へご相談されることをおすすめいたします。
4.相続放棄をする際に押さえておくべきポイント
最後に、相続放棄を行ううえでご留意いただきたいポイントをご紹介いたします。
4-1.他の相続人に伝えておく
例えば、相続人が5人おり、そのうちの1人が相続放棄をした場合には、相続財産は残った4人で相続することになります。
相続財産に借金がある場合には、相続する1人当たりの借金の額が増えることになりますので、前もって他の相続人から相続放棄の了承を得ておかなければ、トラブルに発展する可能性があります。
4-2.相続放棄をした者の相続人は代襲相続できない
相続放棄をした人は、始めから相続権がなかったとされますので、代襲相続は発生しません。
例えば、父が死亡し相続人がその配偶者と子であり、子が死亡している場合には孫が代襲相続し、相続人は配偶者と孫になります。しかし、子が存命で相続放棄をした場合には、孫は代襲相続できず、配偶者のみが相続人となります。
4-3.生命保険・遺族年金の扱い
生命保険金や遺族年金は被相続人の死亡を起因として発生するものではありますが、相続放棄をした人が受取人である場合には、相続放棄をした人の固有の財産となるため受け取ることができます。
一方で、生命保険金の受取人が被相続人である場合には、被相続人が受け取るべき保険金を相続人が相続することになりますので、相続放棄した人は受け取ることができません。
ただし、相続放棄を検討していた相続人が被相続人の保険金を受け取ってしまった場合には、相続放棄できなくなってしまいます。
4-4.相続人全員が相続放棄をすると財産は国庫に
相続人全員が相続放棄をした場合には、相続財産を相続する人がいなくなってしまいます。その場合には「相続財産法人」が創設され、相続財産管理人が相続財産の処分をし、最終的にプラス財産が残った場合には国庫に入り国のものになります。
4-5.手続きは郵送のみでも可能
相続放棄の申述書とその他の必要書類を裁判所へ提出する手続きは、郵送のみでも行うことができます。
郵送する際には普通郵便ではなく、レターパックや書留など追跡できる方法にした方が安心です。
裁判所によっては郵送に対応していないところもありますので、事前に確認されてください。
4-6.相続放棄の代行をしてくれる専門家
相続放棄には3ヶ月という期限があります。相続に関する他の手続きと重なった状況で、財産の調査から必要書類の準備までこなすのは、相続人にとってなかなかの負担になるかと思います。
相続放棄の手続きにご不安がある場合には、専門家である司法書士や弁護士に代行を依頼されると安心です。
報酬の相場としましては、司法書士で3万円程度、弁護士で5~10万円程度となっています。
4-7.却下された場合には再申述できない
裁判所から相続放棄が却下された場合には、2度目の申述はできません。
その代わりに、2週間以内に即時抗告をして高等裁判所に審理してもらうことができますので、専門家への相談をおすすめいたします。
まとめ
相続放棄を行う場合には、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に申述しなければなりません。
シンプルな内容であれば手続き自体は難しいものではありませんが、期限を超えているなどの特殊な申述の場合や、予想外の事態が発生した場合に備えるために、専門家への依頼も検討していただけたらと思います。