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通常、株主名簿に記載されている株主と実際の権利者は一致します。しかし、場合によっては、記載されている株主と実際の権利者が別である「名義株式」が存在することがあります。
名義株式の状態で放置していると、事業承継やM&Aの場面で支障が生じるだけでなく、将来の相続発生時においても問題が生じる可能性があります。そのため、名義株式が存在している場合には、早めに解消をしておくことが大切です。
今回は、名義株式の概要とその解消方法について解説します。
1.名義株式とは
名義株式とは、どのような株式のことをいうのでしょうか。以下では、名義株式の概要について説明します。
1-1.名義株式とは
名義株式とは、会社に実際に出資をした人と、会社の株主名簿に記載されている株主が異なる株式のことをいいます。
会社設立時や株式発行時などに、何らかの事情によって他人の名義を借用して株式の引き受け・払い込みをすることがあります。この場合、株主名簿には、実際に出資を行った名義借用者ではなく、形式的に名義を貸しただけの名義貸与者の名前が記載されます。このような状態になった株式が名義株式と呼ばれるものです。
1-2.名義株式が発生する理由
このような名義株式が発生する理由としては、主に、以下の2つが考えられます。
平成2年以前に会社を設立し、発起人となった場合
平成2年以前の商法では、会社を設立する際に、7人以上の発起人が必要であり、発起人は、会社設立時に1株以上の株式を引き受ける必要がありました。したがって、法定の発起人の人数を揃えるために、家族、親戚、従業員、知人などの名前を借りて、形式上の株主になってもらうケースが少なくありませんでした。
相続税対策
同族会社においては、企業オーナーに自社株式が集中していることが多く、自社株式の相続税評価が高額になる企業では、将来の自社株式の承継において高額な相続税の負担が生じる可能性があります。
そこで、企業オーナーに集中していた自社株式を家族、親族、役員、従業員などに分散させて、相続発生時の税負担を軽減する目的で形式的に名義変更が行われることがあります。このような場合、株主名簿には、形式的に企業オーナーから自社株式を譲り受けた人が株主として記載されますが、実際に議決権を行使するのは企業オーナーであるため、名義株式が生じます。
2.名義株式のデメリット
名義株式をそのまま放置することには、以下のようなデメリットがあります。
2-1.相続税の追徴課税が発生する可能性
相続税を回避する目的で、株式の名義を出資した本人ではなく、その子どもなどの相続人名義にしたとしても、相続税の課税は、その財産の名義人が誰であるかではなく、その財産を実質的に所有しているのが誰であるのかによって課税が行われます。そのため、名義預金と同様に、名義株式についても名義人ではなく、実際の出資者が財産の所有者として扱われる可能性があります。
そこで、名義株式が相続人ではなく、被相続人の財産であると判断されるような場合には、被相続人が亡くなった際に相続税の申告をしなければなりません。しかし、名義株式が被相続人の遺産に含まれると認識していない相続人としては、名義株式を含めて相続税の申告をすることができず、後日追徴課税されるリスクがあります。
2-2.事業承継税制の適用が否認される可能性
事業承継税制とは、円滑な事業承継を行うことを目的として、後継者が相続や生前贈与によって株式を引き継いだ場合に、本来支払うべき相続税や贈与税の支払いを猶予する制度のことをいいます。
事業承継税制の適用を受けるためには、さまざまな要件がありますが、先代経営者が一定以上の株式を保有しているということも要件となります。この場合の株式保有要件は、形式面ではなく実質面で判断することになり、事業承継税制の適用を受けるために、形式上名義を後継者から先代経営者に変更したとしても、先代経営者名義の株式として認められないおそれがあります。
たとえば、先代経営者が保有する株式の数が事業承継税制の適用要件に不足する場合に、後継者、親族、従業員の保有する株式を形式的に先代経営者の名義に変更するということが行われます。株主としての権利も同時に移転していればよいですが、実質的には、後継者、親族、従業員といった名義人が引き続き株式の権利を行使していると、名義株式にあたり、事業承継税制の適用を判断する場面で同制度の適用が否認される危険があります。
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2-3.名義人が株主としての権利を有すると贈与税の課税リスク
株式の名義変更に伴う贈与税の取り扱いに関して、無償で株式の名義変更が行われた場合には、原則として贈与に該当すると考えられています。また、株式の名義人になっている人がその事実を認識している場合には、名義人に対して株式の贈与があったものとして扱われます。
そのため、名義株式の名義人が配当金を受け取っていたり、議決権行使を行っている場合には、名義株式の名義人であることを認識していると判断され、無償で株式の名義変更が行われた場合には、贈与税が課税されるリスクがあります。
3.名義株式かどうかを確認する方法
名義株式かどうかを確認する方法としては、以下の方法が考えられます。
3-1.創業者に名義株式を確認する
会社の設立時に名義株式が生じた場合には、会社の創業者が、名義株式が生じた事情をしっていることがあります。会社の創業者が存命中であれば、会社の創業者に確認をしてみるとよいでしょう。
3-2.名義貸与承諾書を探す
名義を借りる際には、名義貸与者と名義借用者との間で、「名義貸与承諾書」を作成することがあります。それぞれ1通ずつ保有しているはずですので、自宅などを探してみるとよいでしょう。
3-3.設立時の出資金の振込人の確認
設立時の出資金の振り込みが株式の名義人以外の名義で行われている場合には、名義株式である可能性があります。当時の出入金記録などを確認して誰から出資金の振り込みがなされたのかを確認してみるとよいでしょう。
3-4.配当金の支払先の確認
配当金の支払いが株式の名義人以外の人に支払われている場合には、名義株式である可能性があります。
3-5.株主総会の通知先の確認
株主総会の通知が株式の名義人以外の人に発送されている場合には、名義株式である可能性があります。
3-6.株主総会の出席者・議事録の確認
株主総会に出席しているのが、株主名簿に記載されている株主以外である場合には、名義株株式である可能性があります。そのため、議事録を見て、誰が株主総会に出席をしているかを確認しましょう。
4.名義株式の解消手続
名義株式の状態を解消する場合には、以下のような手続きを行います。
4-1.名義人と連絡が取れているケース
名義株式の名義人と連絡が取れている場合には、以下のような方法で名義株式の解消を行います。
名義人から承諾を得て名義株式の解消を行う場合
名義人と連絡が取れている場合には、まずは名義人に事情を説明して、名義株式の名義変更を求めていきます。その際には、名義株式であることを証明する必要があります。名義株式であることを証明することができる以下の資料を準備しましょう。
- 名義貸与承諾書
- 出資金の振り込み履歴
- 配当金の支払い通知書
- 株主総会招集通知
- 株主総会議事録
次に、名義人が名義株式の名義変更に同意してくれる場合には、「株主名簿の記載事項等に関する確認書」および「名義書換の合意書」に署名・捺印をもらい、株主名簿・法人税別表2の株主欄を更新します。
名義人から名義を戻すことに承諾を得られない場合
名義人が名義変更に承諾をしてくれない場合には、以下のような方法で名義変更を行ってきます。
株式の買い取り
名義人に対して金銭などの対価を支払うことによって、株式の名義変更を行います。ただし、対価が実際の株式の価値に比べて著しく低い場合には、贈与税が課税される可能性もあります。
強制排除
強制排除(スクイーズアウト)は、名義人が保有する株式を1株未満にすることによって、強制的に会社が株式を取得する方法です。
全部取得条項付き種類株式を利用する場合には、発行済み株式すべてを全部取得条項付き種類株式に変更し、少数株主の株式を会社や大株主が買い上げることで、強制的に名義株式を回収します。
株式併合を利用する場合には、複数の株式を1つにまとめて少数株主の保有する株式を1株未満の端株にすることで、株式としての効力を失わせ、端株を会社が買い取ることにより、強制的に名義株式を回収します。
なお、いずれの方法でも株主総会の特別決議が必要になります。
訴訟による株主権の確認
裁判所に株主権確認請求訴訟を提起して、株主名簿の書き換えを命じる判決を得ることによって名義変更をすることも可能です。ただし、訴訟による手続きの場合には、真の権利者が実質的名義人であることを証拠によって立証していかなければなりません。
4-3.名義人と連絡が取れないケース
名義人と連絡が取れないというケースで、以下のような要件を満たす場合には、所在不明株主の株式売却制度を利用することによって、名義株式の状態を解消することができます。
- 所在不明株主に対する通知または催告が5年以上継続して到達しないこと
- 所在不明株主が剰余金の配当を5年間継続して受領しないこと
所在不明株主の株式売却制度を利用すれば、名義人の承諾がなかったとしても、取締役会決議および裁判所の許可を得ることによって売却することが可能となります。
5.まとめ
名義株式が存在している場合には、会社経営上および税務上さまざまなリスクが生じることになりますので、早めに名義株式の状態を解消することが大切です。名義株式の解消をお考えの企業および経営者の方は、早めに専門家に相談をするようにしましょう。