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相続税の計算では、次の通り「法定相続人の数」が増えれば増えるほど基礎控除額と生命保険、退職手当金の非課税枠が大きくなり、相続税が軽減される仕組みになっています。
- 基礎控除額 =3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
- 生命保険・退職手当金の非課税枠 = 500万円 × 法定相続人の数
このことから、相続税対策として「養子縁組により法定相続人を増やす方法」が行われることがあります。
養子縁組による相続税対策は、相続税を減らす効果があるだけでなく、本来は法定相続人になれずに財産を相続する権利がない人を実子と同じ扱いの養子にすることで、その人に遺産を相続させることが可能になります。
ただし、養子縁組は相続税対策には効果的に働きますが、「相続対策」としては効果的だとは限らず、しばしばトラブルの種になってしまうため、養子縁組を行うかどうかは慎重に検討しなければなりません。ここでは「相続税対策で養子縁組をするメリット・デメリット」について詳しく解説します。
1.相続税対策で行われる養子縁組
養子縁組制度とは、血縁関係にかかわらず、親子関係を法的に成立させる制度のことを言います。
養子縁組制度には、親になる「養親」と子になる「養子」双方の意思により養子縁組を行う「普通養子縁組」と、何らかの事情により家庭で養育を受けられない子を養子縁組により家庭で養育を行えるようにすることを目的とした「特別養子縁組」の二種類があり、相続税対策では前者の「普通養子縁組」が用いられます。
1-1.養子は実子と同じ「第1順位」になる
養子縁組で養子になった子は法定相続人となり、実子と同じ権利を持つことになります。
法定相続人には次のような順位があり、第1順位が優先され、上位順位の相続人がいると、下位順位の相続人は、財産を相続する権利がありません。
- 常に法定相続人:配偶者
- 第一順位:亡くなった人の実子・養子
- 第二順位:亡くなった人の直系尊属(父母や祖父母など)
- 第三順位:亡くなった人の兄弟姉妹
養子は実子と同じ順位の法定相続人になり、実子と同じ法定相続分があります。
1-2.孫・子の配偶者を養子にするケースが多い
養子縁組を行うことで相続税対策ができますが、遠縁の人や繋がりの薄い人を養子にするケースは少なく、孫や子の配偶者(長男の嫁)を養子にするケースが圧倒的に多くなっています。
子の配偶者を養子にするケースでは「長男の嫁に親切に介護をしてもらったから財産を残そう」といった思いで子の配偶者と養子縁組を行うことも珍しくはありません。
2.普通養子縁組の方法
普通養子縁組を行うためには、次の条件があります。
- 養親が成人している
- 養子が養親よりも年齢が下である
- 養子になる人は養親になる人の尊属(叔父や叔母など)でないこと
その他、養子が未成年である場合には「家庭裁判所の許可がおりていること」「15歳未満の場合は法定代理人の承諾があること」などの条件があります。
2-1.普通養子縁組の手続き方法
養子が既に成人している場合は「養子縁組届」に届出人の本人確認書類などを添付して地方自治体に提出すことで普通養子縁組の手続きは完了します。
養子が未成年である場合には、家庭裁判所への養子縁組許可の申立が必要です。
3.相続税対策に養子縁組をするメリット・デメリット
相続税対策としての養子縁組には多くのメリットとデメリットがあるため、これらをしっかりと理解し、検討して行わなければ相続トラブルに発展してしまうおそれがあります。メリットとデメリットを見ていきましょう。
3-1.養子縁組をするメリット
相続税対策になる
前述の通り、養子縁組を行うことで「相続税の基礎控除額が増える」「相続税の生命保険・退職手当金の非課税枠が増える」ため、効果的な相続税対策になります。
また、相続税額は相続財産から基礎控除額を差し引いたものを法定相続分で分け、相続税率を乗じて算出します。そのため、養子縁組を行うことで基礎控除額が増え、相続人1人あたりの法定相続分が減少して相続税率が低くなり、結果的に全体の相続税額を少なくすることができます。
法定相続人以外に確実に遺産を渡せる
財産を渡したい人と養子縁組を行い、養子にすることで、確実に相続財産を渡すことができます。
よく用いられるのは、介護などで尽くしてくれた長男の配偶者を養子にし、財産を残すケースです。
養子縁組をしなければ、長男の配偶者は法定相続人ではないため遺産を相続する権利はありません。しかし、生前に長男の配偶者と養子縁組を行っていれば、長男の配偶者も実子と同じ法定相続人としての身分を得ることができ、遺産を相続することができます。
養子縁組は、「法定相続人以外に確実に遺産を渡せる方法」として効果的な方法と言えるでしょう。
3-2.養子縁組をするデメリット
遺産分割協議で揉める可能性がある
法定相続人が納得していない養子縁組は、遺産分割協議で揉めてしまう可能性があります。養子が法定相続人に加わるということは、「実子の相続分が減る」ことを意味し、相続分が減ることに不満に感じ、トラブルに発展してしまうケースは少なくありません。
例えば、亡くなった被相続人が生前に長男の子(孫)を養子にしていると、法定相続人である長男以外の実子は「何で自分の子は孫養子にしてもらえなかったのだろう」と不公平感を感じてしまうでしょう。
相続税対策のための養子縁組は否認されることがある
養親縁組は相続税対策として有効ですが、相続税の節税だけを目的とした養子縁組は「不当減少養子」として相続税の計算上、養子を否認されてしまうおそれがあります。
「相続税法第63条」には「不当減少養子の否認規程」が定められています。実際には、相続税対策だけを目的とした養子縁組なのかを立証することが難しく、明確な基準がないため、否認されるケースは稀です。
しかし「亡くなる直前に養子縁組を行っている」「養子が全く遺産を相続しておらず、基礎控除額や非課税枠を減らすためだけの養子縁組」など、明らかに相続税対策のための養子縁組だと分かる場合は否認される可能性が高いでしょう。
基礎控除額の計算で法定相続人にカウントされる養子には上限がある
養子の数を増やせば増やすほど相続税の節税になるわけではなく、相続税法では基礎控除額の計算にカウントできる養子の数を制限しています。被相続人に実子がいる場合には、養子1人が認められ、実子がいない場合には養子2人まで認められます。
孫養子の場合は「2割加算」
孫を養子にした場合は、相続の前提である「親から子へ、子から孫へ」が「親から孫へ」となるため、相続税の課税を一代飛ばすことができます。一方で、孫が養子として法定相続人となるため、遺産を相続する場合には「相続税額が2割加算」されます。
相続全体として考えれば、2割加算されても孫養子に財産を相続させたほうが相続税が有利になることもあるため、専門家と相談し、検討する必要があります。
4.養子縁組による相続税対策は当事務所へご相談を
養子縁組は、相続税対策としても、法定相続人とはならない人に遺産を渡す方法としても効果的です。
しかし、節税のみを目的とした養子縁組は税務上、否認されるおそれもあります。また、相続トラブルの原因になりやすいため、養子縁組を行う際は、他の法定相続人とよく話し合い、全員が納得したうえで行うようにしましょう。
相続税の対策は養子縁組だけ行うのではなく、包括的に行うことが重要です。生前対策を検討する場合には、専門家を交えてリスクが少なく安心できる相続税対策を行うようにしましょう。
当事務所では、養子縁組を使った相続対策のご相談も承っております。もし、相続対策として養子縁組をお考え方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。