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相続を迎える前にご自分の意思を後の世代に伝えるために準備したり、相続税や相続トラブルに備えたりすることを「生前対策」と言います。生前対策は、目的によって異なり、よく考えずに立案・実施してしまうと効果が薄くなってしまうこともあります。
ここでは「5つの相続の生前対策」について解説します。ご一読いただくと、ご自分にとって、どの生前対策が有効なのかが分かるようになりますので、ぜひ最後までお付き合いください。
1.遺言書の作成
遺言は、遺言者が亡くなった後のために、財産の処置などについて言い残し、意思表示を行うことです。この遺言を書面化したものが「遺言書」です。
遺言書の主な種類には、主にご自分1人で完結できる「自筆証書遺言」と公証人のもとで作成する「公正証書遺言」とがあります。普通方式の遺言には、もう一つ「秘密証書遺言」もありますが、あまり利用されていないのが現状です。
1-1.遺言書の効果
相続が発生すると、相続人全員が相続財産について話し合う「遺産分割協議」が行われますが、遺言書があると、遺産分割協議よりも遺言書の内容が優先されます。したがって、相続人に配慮した適切な遺言書を作成することにより、相続人全員が納得できる相続を実現したり、相続人同士の相続財産トラブルを回避したりすることが可能です。
遺言書は相続税対策としての直接的な効果はありません。しかし、相続税の各種特例が利用できるように遺産の分配を考慮した遺言書の作成や、相続税の納税資金が払えるように配慮した遺言書の作成などを行うことで、相続人が安心して相続税申告を行える環境を作り出すことができます。
1-2.遺言書の注意点
相続人に配慮した遺言書の作成は効果的な生前対策になります。ただし、配慮が欠ける遺言書では、逆効果になってしまうこともあります。効果的な遺言書にするためには、ご自分の想いと各相続人の想いを考えながら将来をイメージすることが重要です。
また、遺言書の作成には次のような注意点があります。
自筆証書遺言は無効にならないように注意する
自筆証書遺言の書き方には法律上の規定があり、「日付の記載がない」「押印がない」などの不備があると、「無効」になってしまいます。
一方で、弊所がお勧めする、公正証書遺言の場合には、公証人が遺言書を作成するため、法律上の不備で無効になることはありません。ただし、公正証書遺言を作成する際には、公証役場での事前の打ち合わせや、作成の際に証人2人の立会いが必要になります。
遺留分に配慮する
被相続人の兄弟姉妹以外の相続人には、遺留分の権利があります。遺留分とは、相続人が最低限の遺産を確保できる制度です。
遺言書であっても遺留分を侵害していると、遺留分を侵害された相続人は、侵害している相続人などに対して「遺留分侵害額請求」を行うことができます。遺言書が遺留分を侵害してしまうと相続人の間でトラブルに発展してしまう可能性が高くなるため、トラブル回避のためにも遺留分に配慮した遺言書を作成する必要があります。
2.事業承継対策
会社経営者などが次の後継者候補に対して、経営者に必要なスキルやノウハウや会社経営に必要な株式などを引継ぐことを「事業承継対策」と言います。生前に後継者を決めて事業承継を行うことで、世代交代しても継続して事業を拡大していくことができます。
事業承継は、後継者候補の有無によって、次の3つに分類されます。
2-1.親族内承継
親族内承継とは、現経営者の親族が後継者になる事業承継のことをいいます。親族が後を引き継ぐことで「従業員や取引先の理解を得やすい」「事業承継までの準備期間を確保しやすい」などのメリットがあります。
ただし、親族内承継は、相続の際に「親族間トラブルが発生する可能性がある」などのデメリットもあります。
2-2.親族外承継
親族以外が後継者になることを「親族外承継」といいます。親族外承継には、従業員を後継者にするケースや、外部から経営に招き入れるケースなどがあります。現経営者の親族に後継者がいない場合や、親族に経営者の素質がない場合などであっても、親族外の後継者のもとで事業を継続することができます。
デメリットは、後継者候補が現後継者から株を引き継ぐ際にまとまった資金が必要になることです。株式の贈与を受ける場合であっても、株の評価額によっては多額の贈与税が発生してしまいます。
2-3.事業承継型M&A
後継者候補がいない場合に株や事業を他の企業へ売却することを「事業承継型M&A」といいます。後継者不在で廃業してしまえば従業員の雇用を維持できなくなってしまいますが、M&Aを通じて従業員を後継者に引き継いでもらうことで従業員の雇用維持が可能になります。
デメリットは、買い手を見つけるのが難しいことです。売り手と買い手の条件が合わずに取引が成立しないケースも多くあります。
2-4.事業承継税制について
事業承継は、税金の負担が障壁になりスムーズに進まないことが多いのが実情です。この問題を回避するために「事業承継税制」という制度が設けられており、要件を満たすことで贈与税や相続税の猶予、免除を受けることができます。
3.不動産による相続税の節税対策
相続税の負担を減らすことは、生前対策において重要なポイントとなります。相続財産に預金が多ければ、不動産を購入することで相続財産の評価額を下げ、相続税の負担を軽くすることが可能です。
預金に課される相続税は、預金額そのものですが、不動産の場合は路線価や固定資産税評価額の倍率によって相続税評価額を求めるため、不動産を購入した金額(時価)の7割程度になることがあります。
また、不動産の相続には特例が用意されており、利用することでさらに相続税評価額を下げることができます。
賃貸物件などを購入して生前贈与を行えば、収益の移転を行うこともできるため、不動産による相続税対策はとても効果的です。
4.相続税の納税資金対策
相続税の納付は「一括現金払い」です。相続財産に不動産が占める割合が多ければ、納税する資金が足りず、不動産を売却せざる得ない状況になってしまうこともあります。このような状況を回避するために「納税資金対策」が重要です。
納税資金対策には、生命保険に加入して保険金を納税資金に充当する方法や生前に売却に時間のかかる不要な不動産を売却して現金化する方法などがあります。他にも、生前贈与を活用して少しでも財産を相続人に移転しておくことなどもカギになります。
5.家族信託の利用
家族信託とは、ご家族にご自分の財産の管理、運用、処分を託すことができる制度です。高齢になり認知症を発症して判断能力がないと見なされると契約が無効になってしまうことから、不動産の売却や預金の引き出しができなくなってしまいます。家族信託では、このような場合に、財産を託されたご家族が、代わりに財産を管理・処分することができます。
家族信託は、ご家族に財産の運用を託すだけであり、直接の節税効果はありません。しかし、認知症対策としては、有効な方法です。
また、家族信託では「次の次の世代」を指定することができます。例えば、「自分の亡くなった後は妻に財産を移し、妻が亡くなった後は次男に財産を移す」など、次の次の世代の相続人の設定が可能です。
ただし、株を信託財産として家族信託を行う場合など、事業承継に家族信託を利用する際には、事業承継税制を利用することができなくなってしまいます。事業承継で家族信託を利用する場合には十分な検討が必要です。
6.生前対策については当事務所へご相談ください
生前対策は、その人の状況や相続財産の種類や金額によって優先される対策が異なります。誤った対策を行ってしまうと、相続人にマイナスになることもあります。「自分の場合はどんな生前対策が有効だろうか」と悩まれている方は、専門家に相談し、自分独自の生前対策案を考えてみましょう。
どの生前対策も早ければ早いほど効果が期待できます。先延ばしにせずに行動に移してみましょう。
上原会計事務所では、様々な生前対策をご用意しています。ぜひ一度、ご相談ください。