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遺留分が発生した場合の相続税の計算方法と申告

相続では、「遺留分」が争いの原因になることがあります。遺留分は相続と密接に関係するものであり、相続税の計算にも影響します。

今回は、遺留分が発生した場合の、相続税の計算と申告についてご紹介します。

1.遺留分とは

1-1.遺留分とは

遺留分は、遺産のうちで、相続人が最低限取得できることが保障されている割合です。
相続には遺族の生活を守るという役割があるため、法律上、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分が認められています

遺産のうちいくらまでが遺留分となるかの割合の基本的な考え方は、法定相続分の2分の1です。ただし例外として、直系尊属(父母や祖父母など)のみが相続人である場合には、法定相続分の3分の1になります。

例えば、相続人が配偶者と子供1人であった場合の遺留分は、配偶者と子供の法定相続分2分の1ずつの更に2分の1となりますので、4分の1ずつということになります。

遺留分の割合

原則 相続財産の1/2
例外:直系尊属のみが相続人の場合 相続財産の1/3

1-2.遺留分の請求方法

遺留分が侵害された場合には、侵害した人に対して遺留分侵害額請求を行い、侵害された金額を返還してもらうことができます。以前は、遺留分を請求されると現物での返還が原則で、例外的に金銭での支払いが認められていましたが、法改正により、金銭での返還に一本化されました。

遺留分侵害額請求の方法に、決まりはなく、口頭で侵害額を返してほしいと伝えるだけで、遺留分侵害額請求になります。しかし、後々言った言わないのトラブルを避けるために、内容証明郵便(※)を送付するのが一般的です。

※内容証明郵便:誰から誰宛てにいつどんな内容の文書を送ったかを郵便局が証明してくれる制度です。

1-3.遺留分侵害額請求権の時効

遺留分侵害額請求権は、相続の開始と、遺留分が侵害されている贈与や遺贈があったことを知った日から1年以内に行使しなければ消滅してしまいます。

また、これらの事実を知らなかったとしても、相続の開始から10年を経過すると、遺留分侵害額請求権は消滅します。

2.申告期限内に遺留分額が決まった場合の相続税申告

遺留分侵害額請求が発生したとしても、相続税の申告期限までに返還があり解決した場合には、それぞれの相続人が最終的に取得した財産額で、相続税申告を行います。

遺留分の問題があったとしても、相続税申告の前に財産が動いただけで、相続税申告で特別な手続きを行う必要はありません。

以下のような事例を使い、考えてみます。

【事例1.】

  • 遺産総額:6,000万円
  • 遺贈額:2,500万円
  • 相続人:配偶者A、長男B、次男C
  • 受遺者:甥D

相続人・受遺者の遺留分額の計算

相続人・受遺者 取得した財産額 遺留分の額 請求できる遺留分の額 遺留分請求後の財産額
A(配偶者) 2,000万円 6,000万円 × 1/2(遺留分割合)
× 1/2(法定相続分) =1,500万円
 1,500万円 < 2,000万円
請求はできない
2,000万円
B(長男) 1,000万円 6,000万円 × 1/2(遺留分割合)
× 1/4(法定相続分) =750万円
750万円  < 1,000万円
請求はできない
1,000万円
Ⅽ(次男) 500万円 6,000万円 × 1/2(遺留分割合)
× 1/4(法定相続分) =750万円
750万円 ― 500万円 =250万円 750万円
D(甥) 2,500万円
(遺贈分)
相続人でないため遺留分なし 2,250万円

Cは甥であるDに遺留分を侵害されています。

そこで、CはDに対して遺留分侵害額請求を行い、Dは、申告期限内にCに250万円を返還しました。

この場合には、最終的に取得した財産額、A2,000万円、B1,000万円、C750万円、D2,250万円で相続税申告を行います。

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3.申告期限後に遺留分額が決まった場合

相続税の申告期限までに、遺留分がいくらになるのかが決まらないことは、往々にしてあります。こうしたケースでは、期限内に遺留分精算前の遺産相続内容に従って暫定的に相続税申告を行っておく必要があります。

遺留分の額が決まり、遺留分を支払った遺留分義務者が更正の請求を行った場合には、遺留分権利者が修正申告を行い、遺留分義務者が更正の請求をしなければ、当事者同士で清算をします。

遺留分義務者 遺留分権利者
遺留分義務者が更正の請求をする場合 更正の請求 修正申告
遺留分義務者がしない場合 当事者間の清算

3-1.遺留分を支払った遺留分義務者の更正の請求

相続税の申告期限後に遺留分の問題が解決した場合には、遺留分を請求された人は返還を行っているため、既に行った申告よりも取得財産が減少しており、それに伴って相続税も減少しています。この納めすぎた相続税を取り戻すために行う手続きは、更正の請求です。

更正の請求は、弁償すべき額が確定した日の翌日から4ヶ月以内となっています。

事例1.を使ってご説明しますと、Dは取得財産2,500万円として相続税申告と納税を済ませましたが、その後、相続税の申告期限後に250万円をCに返還しました。

Dは返還した250万円に対する相続税について、更正の請求を行うことができます。

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3-2.遺留分義務者が更正の請求を行えば遺留分権利者は修正申告

遺留分の返還をした遺留分義務者が更正の請求を行い還付を受けた場合には、返還を受けた遺留分権利者も更正の請求期限までに修正申告を行い、不足分の相続税を納めなければなりません

更正の請求が行われたにも関わらず何もしないままでいると、税務署が追加分の相続税について決定が行われてしまいます。

事例1.を使ってご説明しますと、Dが更正の請求を行った場合には、Cも取得財産が750万円となった修正申告を行わなければなりません。
Dの更正の請求により、相続人間で財産の移動があったことを税務署は把握します。そしてDに還付があるわけですから、その分をCから追徴する必要があるのです。

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3-3.遺留分義務者が更正の請求をしなければ当事者間の清算

ただし、更正の請求は「できる規定」であり、更正の請求をするかしないかは任意となっています。

Dが更正の請求を行わない場合には、Bも修正申告を行う必要はありません。

しかし、両者の相続税額もそのままにしておくことは不公平です。実務上では、取得財産の増減金額に応じた相続税を独自に計算し、CとDで精算するという方法が取られることが多くなっています。

4.遺留分算定の基礎となる財産は相続開始時の時価評価が一般的

ここまでは、分かりやすくするために、遺産の金額のみで遺留分についての話を進めてまいりました。しかし、実際には、現金や預貯金以外に、不動産や株式など評価が必要な財産が遺産に含まれていることがあります。

一般的に、遺留分の基礎となる財産は、相続開始時の時価評価によって計算されます。評価額について、当事者同士の合意ができれば、申告方法は、前述した通りです。

しかし、遺留分を支払う遺留分義務者は、遺留分算定の基礎となる財産の額は低ければ低いほど支払う額を抑えられ、遺留分を請求する遺留分権利者は、遺留分算定の基礎となる財産の額は高ければ高いほど請求額も高くなります。

そのため、遺留分義務者と遺留分権利者との間に、財産の評価方法や評価額について争いが発生してしまうことが多々あります。不動産を例に取っても、行政が行う一般的な評価方法だけで、以下の4つがあります。

  • 固定資産税評価額
  • 路線価
  • 地価公示価格
  • 地価調査標準価格

当事者同士での話し合いに決着が付かなければ、裁判所で調停や訴訟により決着を付けなければなりません。

まとめ

相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10カ月です。税務署は遺留分があるからといって、この期限を延長してはくれません。期限を超えて申告すると、加算税や延滞税などのペナルティが待ち構えています。

当事務所は、弁護士法人が所属するUグループの一員であり、遺留分についての法律問題についてもご相談いただけます。

遺留分でお悩みの方や、遺留分が原因で相続税申告に支障がある方は、ぜひ一度、当事務所にご相談ください。

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例えば、上記のような場合以外にも、下記のように税理士・弁護士・司法書士を含めた総合的なアドバイスが必要になるケースが少なくありません。

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