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相続時精算課税制度を活かす使い方と注意点

生前から行う生前対策の中でも、簡単に行えて効果的な方法の1つに「生前贈与」があります。生前贈与には、贈与額に応じて贈与税が課税されることになりますが、贈与税の課税方法には2つの方法があります。

1つは、原則的な方法である「暦年課税」、もう1つは、選択届出書を税務署に提出することで利用できる「相続時精算課税制度」です。 

以前は、特殊な場合でなければ「暦年課税」により贈与税の課税が有利になるケースが多かったのですが、2023年の税制改正により相続時精算課税制度が優遇されたため、どちらが有利になるのかを検討する重要性が増しています。 

ここでは「相続時精算課税制度を活かす使い方と注意点」について詳しく解説します。生前贈与を検討されている方は参考にしてください。

1.相続時精算課税制度ってどんな制度?

原則的な贈与税の課税方法である「暦年課税」は、1年間に贈与した財産の合計額に応じて課税される方法です。課税期間を「11日~1231日まで」と区切っていることが特徴です。また、年間110万円の基礎控除があり、年間110万円以内の贈与には贈与税が課税されず、贈与税の申告も必要ありません。

もう1つの課税方法である「相続時精算課税制度」は、贈与税と相続税を通算することができる課税方法です。相続時精算課税選択届出書を提出することにより、累計で2,500万円までの贈与については、何度贈与を行っても贈与税は非課税になります。

ただし、累計2,500万円を超えた贈与については、超えた部分に一律20%の贈与税が課税されます。また、贈与者が亡くなると、相続時精算課税制度により生前贈与を行った金額が相続財産に加算して相続税の計算を行わなければならないため、相続時精算課税制度は「税の先送り」としての効果はありますが、基本的に節税効果はありません。

1-1.2024年から相続時精算課税制度はより使いやすい制度に

相続時精算課税制度は、生前贈与した財産が相続財産に加算されてしまうため、特殊な状況でなければ節税効果は見込まれません。

一方、暦年課税には年間110万円の基礎控除があるため、長い期間をかけて少しずつ生前贈与を行うことで相続税の節税が可能であるため、相続税対策では暦年課税が利用されてきました。

しかし、2023年の税制改正によって、相続時精算課税制度に年間110万円の非課税枠が設けられることになり、暦年課税と同様の節税効果を得られるようになります。

一方で、暦年課税は、相続開始前の一定の贈与について相続財産に加算される「生前贈与加算」についての改正によって、現行の相続開始前3年以内から7年以内となり、これまでより使いにくい制度になります。

相続時精算課税制度が優遇されることにより、今後は相続時精算課税制度を利用するかどうかの検討を慎重に行う必要があります。

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1-2.相続時精算課税制度の基本

相続時精算課税制度は誰でも利用できるものではなく、財産を贈与する贈与者と受け取る受贈者の関係に要件があります。

  • 贈与者60歳以上の父母または祖父母
  • 受贈者18歳以上の子・孫

相続時精算課税制度を利用するためには、最初に贈与を受けた年の翌年315日までに相続時精算課税選択届出書と贈与税申告書の提出が必要です。

2.相続時精算課税制度を活かす使い方

相続時精算課税制度は、改正後の基礎控除を利用する以外には大きな節税効果はありません。しかし、特殊な状況下において、制度を利用することで効果を最大限に発揮することができます。

2-1.財産が相続税の基礎控除の範囲内であるケース

相続財産が相続税の基礎控除内であり、一括して財産を贈与したい場合に、相続時精算課税制度が有効です。

贈与した財産は相続発生時に相続財産に加算されますが、加算後の相続財産が基礎控除の範囲内であれば、相続税がかからないため影響がありません。

2-2.収益物件があるケース

不動産収入がある場合に、不動産収入を生み出す収益物件を生前贈与することにより、贈与後に発生する不動産収入も受贈者に移転させることができます。不動産収入の移転は、親族内での所得の分散になり、所得税や住民税の節税に繋がります。

ただし、後述するように、不動産の生前贈与は、相続時より税額が増額するので、実行前に、相続税に強い税理士に相談することをお勧めします。

2-3.値上がりが確実な資産があるケース

相続時精算課税制度は、生前贈与した財産が相続財産に加算される制度です。加算される金額は「生前贈与した時の価格」になります。

例えば、現金2,000万円を生前贈与すると、相続財産に2,000万円が加算されます。現金のように価値(相続税評価額)が変動しないものであれば損も得もしませんが、土地や株式など、生前贈与時と相続発生時の価値が異なる財産の贈与には注意が必要です。

2,000万円の価値のある土地を生前贈与し、相続発生時には土地の価値が3,000万円になっていた場合を考えてみましょう。相続時精算課税制度により贈与を行っている場合、相続時に加算される金額は生前贈与時の価格なので2,000万円です。生前贈与を行っていない場合には、相続発生時の価値になるため土地の価値は3,000万円になります。このように、相続時精算課税制度を利用して生前贈与を行うことで、相続財産1,000万円分の相続税を軽減することができます。

「再開発により土地の価値が確実に上昇する」「一時的に損失を出して株価が下がった非上場株式」など、将来的に値上がりが確実な資産がある場合は、相続時精算課税制度の利用を検討してみましょう

2-4.事業承継にも使える相続時精算課税制度

前述の通り、相続時に加算されるのは、「生前贈与した時の価格」です。

したがって、会社経営者は、自社株式の価格が値下がりしたときを見計らって、相続時精算課税制度を利用して後継者に贈与すると、相続時に加算される額を抑えて、相続税の節税が可能になります。

3.相続時精算課税制度の注意点

相続時精算課税制度は、税制改正により利用しやすい制度に変わってきていますが、制約も多く、しっかりとデメリットを理解して選択しなければならない制度です。相続時精算課税制度において、次のポイントを押さえておきましょう。

3-1.一度選択したら二度と戻せない

相続時精算課税制度を一度選択すると、同じ贈与者と受贈者の贈与では一生、相続時精算課税制度が適用されます。

途中で暦年課税に戻すことはできません。税制改正後は、相続時精算課税制度にも110万円の基礎控除が適用されることになるため、以前ほど大きな注意点ではありませんが、検討が必要な事項になります。

3-2.相続税の2割加算に注意

相続税には、「2割加算」という制度があり、相続税の1.2倍を納めなければならない対象者がいます。

2割加算の対象者は、以下以外の方です

  • 被相続人の配偶者
  • 被相続人の1親等の血族

受贈者として考えられる典型的な2割加算の対象者は、お孫さんでしょう。

通常、孫は法定相続人ではないため、相続税の納税義務者ではありません。しかし、相続時精算課税制度を利用して孫へ贈与を行うと、孫が相続税の納税義務者となります。

また、子が生存している場合(代襲相続ではない場合)には、孫の相続税額が2割加算されてしまうことになります。

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3-3.不動産の生前贈与はコストがかかる

生前贈与による不動産の移転は、相続での移転に比べて「登録免許税」と「不動産取得税」のコストが増加します。不動産の固定資産税評価額が高ければ高いほど、負担が増加することになります。

3-4.小規模宅地等の特例が利用できない

宅地を相続する場合には、要件を満たすことで相続税評価額を最大で80%減額することができる「小規模宅地等の特例」を利用することが可能です。

しかし、宅地を相続時精算課税制度により生前贈与している場合は、この特例が利用できず、相続税の負担が大きくなる可能性があります。

3-5.贈与を受けた財産では物納ができない

相続税は現金一括納付ですが、納税資金が足りない場合は、一定の要件を満たすことで相続した土地や建物で納税を行うことができます。

しかし、土地や建物を生前贈与していた場合は、相続により取得したものではないため、物納を行うことはできません。

まとめ

相続時精算課税制度は、改正により利便性がアップしたため、これから注目されていく制度です。しかし、注意点も多く、よく理解して、慎重に検討して選択しなければならない制度でもあります。利用方法によっては、税負担が大きくなってしまう可能性もありますので、事前に専門家へ相談しましょう。

上原会計事務所にご相談いただければ、事前に生前贈与のシミュレーションをすることが可能です。その他、相続時精算課税制度についての疑問にもお答えいたします。お気軽にお問い合わせください。

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