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事業承継税制の要件やメリット・デメリットをわかりやすく解説

会社を次の後継者へ引き継がせる「事業承継」には、予想以上にお金がかかります。特に事業を引き継ぐ後継者には、株式が移転する際に「相続税や贈与税」が課税されることになります。

相続税や贈与税は、移転する財産の評価額が高くなるほど税率が高くなる「超過累進課税制度」が採用されており、株式の評価額によっては多額の税金を現金で納付しなければなりません。

そこで登場した便利な制度が「事業承継税制」です。事業承継税制の要件とメリット・デメリット・注意点などをわかりやすく解説します。

1.事業承継税制とは

事業承継税制とは「税金がネックになり事業承継が進まない」といった問題を解決するために創設された制度です。事業承継税制では、後継者が事業を継続して運営していくことを条件として相続税や贈与税の納付を猶予し、一定期間にわたって要件を満たすことで全額が免除されます。

事業承継税制は、とても魅力的な制度ですが、クリアしなければならない要件があります。

1-1.事業承継税制の基本

事業承継税制を検討する場合、基本的なルールを理解する必要があります。

1-1-1.贈与と相続のみが対象

事業承継税制は「贈与と相続の場合のみ」が対象になる制度です。つまり、オーナーが後継者に株式を贈与するか、相続させる場合だけにしか利用できません。後継者に株を売却する場合には利用できませんので注意しましょう。

1-1-2.納税猶予を経て免除になる

事業承継税制を利用するとすぐに税金が免除になるわけではありません。例えば、オーナーが亡くなり、相続が発生した際に事業承継税制を利用すると相続税の支払いが「猶予」されます。その後5年間、一定の要件を満たすことで相続税額の全額(特例措置の場合、一般の場合は80%)が「免除」される仕組みになっています。相続税申告後にも一定の要件を満たしていかなければなりません。

1-1-3.後継者は親族以外でも適用できる

後継者が親族以外であっても事業承継税制を利用することは可能です。ただし、親族以外が後継者になる場合には、オーナー親族と後継者の関係や個人保証の引継ぎの問題などの課題が発生しますので、事業承継税制を検討する場合はオーナーと後継者の間でしっかり話し合いを行いましょう。

1-1-4.一般と特例措置がある

事業承継税制には「一般」と「特例措置」の2つがあります。相続税の納税割合や対象株式数などに違いがあり、特例措置のほうが優遇されています。

特例措置を受けるためには、会社の後継者や承継後5年間の事業計画などを記載した「特例承継計画」を策定し、都道府県知事に提出、認定を受ける必要があります。現在のところ、提出期限が2024年(令和6年)3月31日までとなっていますので、事業承継税制の適用を受ける方は急いで用意しましょう。

  一般 特例措置
事前の計画策定 不要 2024331日まで
適用される期間 なし 20271231日まで
対象になる株式 株式総数の最大2/3 後継者が取得する全株式
猶予割合 相続税80%、贈与税100 相続税・贈与税ともに100
後継者の数 1 3人まで
雇用要件 5年平均80%を維持すること 雇用要件を満たせない理由を提出することで納税猶予が継続される

2.事業承継税制の要件

事業承継税制には次の要件があります。要件はかなり複雑になっていますので、専門家に確認しましょう。

2-1.先代経営者の要件

  1. 会社の代表権を有していたこと
  2. 贈与または相続が発生する直前に先代経営者とその親族グループで株式保有比率50%を超えており、後継者を除いた同族関係者内で筆頭株主であること
  3. 贈与時に代表権を有していないこと
  4. 既に特例措置の適用に係る贈与をしていないこと

①と②については、同族会社であれば難しい要件ではありません。③については、贈与直前まで代表者であっても問題ありませんが、贈与時には代表者を辞任する必要があります。

2-2.後継者の要件

  1. 贈与または相続時直前に50%超の同族グループに属していること
  2. 18歳以上であること
  3. 贈与で適用を受ける場合は贈与時まで3年以上の会社役員経験があること、贈与時に代表権を有していること
  4. 相続で適用を受ける場合は相続発生後5か月以内に代表取締役に就任すること

後継者の要件で注意することは、贈与であれば「3年以上の役員経験があること」です。贈与時に代表取締役である必要もありますので、計画的な役員就任が必要です。相続の場合は、相続発生時から5か月以内に後継者が代表取締役に就任する必要があります。

2-3.会社の要件

事業承継税制を利用するには会社にも次の要件があります。

  1. 中小企業者であること
  2. 従業員が1名以上
  3. 収入がゼロでない
  4. 風俗営業会社、資産管理会社ではないこと

中小企業者に該当するかどうかは業種、資本金、従業員数で判断を行います。

業種 中小企業者
(下記いずれかを満たすこと)
小規模企業者
資本金の額または
出資の総額
常時使用する
従業員の数
常時使用する
従業員の数
製造業、建設業、運輸業、その他 3億円以下 300人以下 20人以下
卸売業 1億円以下 100人以下 5人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下 5人以下
小売業 5,000万円以下 50人以下 5人以下

【出典】中小企業庁:中小企業の定義について

2-4.事業継続要件

事業承継税制では認定された後も事業継続要件として、次の要件を5年間満たさなければ納税が免除になりません。

  1. 後継者が代表者でいること
  2. 後継者が受け継いだ株式を保有していること
  3. 会社の雇用人数が平均80%以上であること

この要件で重要なことは「雇用人数が平均80%」以上であることです。ただし、特例措置を受けている場合で80%以上を保つことができない場合、その正当性を証明できる資料を提出することで猶予が継続できることもあります。

2-5.特例承継計画の提出

特例承継計画を作成し、提出することで一般措置よりも優遇された「特例措置」を受けることができます。一般的には「特例措置」を利用するケースが多いですが、特例承継計画の提出期限が2024年(令和6年)3月31日までになっており、延長されるか未定のため注意が必要です。

3.事業承継税制のメリット

3-1.納税資金が必要ない

事業承継では、株式を移転する際の贈与税や相続税が高額になりやすく、納税資金の用意が大変です。事業承継税制(特別措置)を利用することで、株式移転にかかる贈与税や相続税の全額が猶予され、要件を満たすことで免除されます

事業承継の課題である「税金問題」をクリアすることができるため、承継後の事業展開などに集中して取り組むことができます。

3-2.株価対策が不要

事業承継では、株価対策を行いながら株価が低くなった時に贈与を行い、後継者へ株式を移転していきます。株価対策は損益の状況の見極めや配当金、役員退職金などで行うため、知識とタイミングが重要です。

事業承継税制(特別措置)では全ての納税額が免除の対象になるため株価対策を考える必要はありません

4.事業承継税制のデメリット

4-1.途中でやめると全額納付+利息

事業承継税制では、途中で会社を廃業したり、M&Aにより会社を売却したりすると納税猶予が取り消され、猶予された税額の全額と猶予されていた期間の利息を納付しなければなりません

猶予されていた税額なので、実際には利息だけがデメリットになりますが、免除になると思っていた税金を支払わなければならないため、納税資金の確保が課題になります。

4-2.途中で打ち切られることもある

納税猶予が認められていても「代表者を変更した」「従業員数の平均が80%を下回った」「株式の一部を売却した」などの理由により、納税猶予が途中で打ち切られることがあります。これ以外にも、打ち切りとなる要因は多くあります。

打ち切られると猶予されていた税額と利息を納付しなければなりませんので、納税猶予承認後についても株式の移転や会社の組織変更などについては慎重に行いましょう。

4-3.毎年届出が必要

納税猶予が認められた後は、継続届出書を5年間、毎年提出する必要があります。5年経過後は3年に1度でよくなります。届け出自体は難しくありませんが、届け出を失念してしまうと納税猶予が打ち切られてしまいます。

まとめ

事業承継税制は、相続税・贈与税が猶予または免除される、大変ありがたい制度です。一方で、細かい要件がたくさん存在し、一つでも満たさないと適用できないことになりかねません。

事業承継税制を適用できるかできないかは、会社の存続問題にもかかわりますので、確実に適用するためには、一度、税理士にご相談されるのが望ましいでしょう。

当事務所では、事業承継税制を考慮した事業承継の提案もしておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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