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創業時や従業員を雇用する際に、就業規則を作成することがありますが、一度作っただけでほとんど変更していないことはないでしょうか? 実は、そんな就業規則はいろいろな問題を抱えている可能性があります。
就業規則は、法令の変更や会社の状況に合わせて都度変更していく必要があります。就業規則を見直すべき理由と、見直しのチェックポイント、および注意点について解説していきます。
1.なぜ就業規則を見直す必要があるのか?
法律の改正や働き方改革を推し進める時代の変化など、労働者を取り巻く環境はどんどん変わってきています。この労働環境の変化に対応し、労働トラブルが発生しないようにするためには、定期的な就業規則の見直しが必要です。
「会社設立時にしっかりとした就業規則を作っているから大丈夫」と思っている場合であっても、当時の就業規則では会社の実情を反映したものになっておらず、本来の意味をなさなくなってしまっているかもしれません。
就業規則の見直しを行うことで、次のようなメリットを得ることができます。
1-1.労働トラブルを避けることができる
就業規則とは、職場における労働者のルールブックです。就業規則の見直しを行い、適正なルールを定めることで労働トラブルを回避することができます。労働者の労働条件、服務規律、退職・解雇の要件を就業規則に定めることで、労働者の不当な労働の改善やモラルの向上、トラブル防止に役立ちます。
会社設立時などに作成した「モデル就業規則(厚生労働省が公開している無料のテンプレート)」のまま見直しを行っていない場合は、職場の実情を反映しておらず、労働トラブルに発展してしまう可能性があります。
1-2.最新の法令に対応することができる
就業規則は、労使間のルールブックという役割であるため「労働基準法」をはじめとした法令に準拠したものでなければなりません。
しかし、労働基準法などの法令は、社会情勢や国の政策によって何度も改正されているため、定期的な見直しを行わなければ、現行の法令に違反してしまうことも考えられます。最新の法令に合わせるためにも、定期的な就業規則の見直しが必要です。
1-3.安心して働ける環境を整備する
就業規則は労働者を縛り付けるルールだけではありません。休暇制度(ボランティア休暇等)や賃金制度(報奨金規定等)を見直し、労働者が安心して働ける環境を作り上げることも重要な役割です。
就業規則の見直しを行っていない場合は、休暇制度や賃金制度が適正に更新されておらず「従業員が働きにくい職場」になってしまいます。労働環境の適正な整備は労働者のモチベーションにも繋がり、離職率の低下にも影響してきます。
1-4.助成金の申請に必要
国策で推し進めている「働き方改革」では、職場環境の改善を求めており、就業規則を改善し、要件を満たすことで受給申請が可能となる助成金もあります。
例えば、多くの会社で利用されている「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」は、有期契約などの非正規労働者を正規雇用する場合や派遣社員を直接雇用する場合に支給されます。
この制度には「賞与または退職金の制度」と「昇給制度」が適用されることが要件になっているため、就業規則を見直して明文化する必要があります。
2.就業規則を見直す際のチェック項目
「就業規則を見直した方がいい」と言われても、どの部分から見直した方がいいのか悩まれてしまうのではないでしょうか。就業規則の見直しを行う際は、次の項目をチェックしてみましょう。
- 労働時間の制度に関する項目
- テレワークに関する項目
- 賃金制度に関する項目
- 正社員以外の従業員に関する項目
- 育児・介護休業に関する項目
- ハラスメントの予防に関する項目
2-1.①労働時間の制度に関する項目
労働者の労働時間は、原則的に1日に8時間、1週間に40時間を超えてはならないとされています。ただし、労働基準法では、フレックスタイム制をはじめとした様々な労働時間に関する制度が認められています。自社で活用できそうな制度がある場合は、就業規則に取り入れてみましょう。
- 1か月単位の変形労働時間制
- 1年単位の変形労働時間制
- フレックスタイム制
- 勤務間インターバル制度
- 高度プロフェッショナル制度
など
また、2020年4月より「時間外労働の上限規制」が法令で定められ、原則として月45時間かつ年360時間の上限が設けられていまので、時間外労働を考慮した就業規則の見直しが必要です。
2-2.②テレワークに関する項目
多くの会社で導入しているテレワーク勤務では「オフィス外で発生する通信費は誰が負担するのか」「労働時間をどのように設定するのか」「対象者を誰にするのか」などのルールを定める必要があります。
これらのルールを明文化するためには、就業規則の付則として「テレワーク勤務規程」の作成を行いましょう。テレワーク勤務者とオフィス勤務者の間で労働条件や待遇の差が生じないように見直すことが重要です。
2-3.③賃金制度に関する項目
賃金制度に関する規定は、必ず就業規則に記載しなければならない項目です。賃金制度に変更がない場合であっても、待遇などの「相対的必要記載事項」の変更を行う際は、就業規則の見直しが必要です。
特に、2020年4月(中小企業は2021年)から実施された「同一労働同一賃金」では、賃金、退職手当、臨時の賃金、最適賃金、費用負担、職業訓練関係などに影響しており、待遇の変更が必要になる場合もあります。
また、2023年より「月60時間以上の時間外労働に関する割増賃金率引き上げ」が行われていますので、自社の割増賃金率を変更する場合には就業規則の見直しが必要です。
2-4.④正社員以外の従業員に関する項目
雇用期間が5年を超える有期労働者の勤務期間が通算で5年を超えて更新された場合には、無期間の労働者へ申し込みができる「無期転換ルール」に自社の就業規則が対応しているのか確認しましょう。
就業規則を見直す際は、無期転換ルールに対する自社の対応方針が決まっていなければなりませんので、全員を無期転換にする方針なのか、転換を回避する方針なのかを明白にして見直しを行う必要があります。
2-5.⑤育児・介護休業に関する項目
育児・介護休業に関する制度は育児・介護休業法により定められており、この法令では「育児休業を取得しやすい雇用環境の整備」が会社に求められています。就業規則の見直しについては、2022年より新設された「出生時育児休業制度(産後パパ育休制度)」や「育児休業の分割取得」について改定を行う必要があります。
2-6.⑥ハラスメントの予防に関する項目
2020年より、会社へ対してハラスメント対策の義務化が行われています。ハラスメントへの適切な対応が求められており、相談窓口の設定やハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応、再発防止に向けた措置を講ずることなどが必要になります。ハラスメントの予防を周知するために就業規則に「ハラスメント防止規定、行為者の処分」などを規定する必要があります。
3.就業規則変更時のポイント
就業規則の変更は会社だけで行うことができず、労働者代表等に意見を聞きながら進めていく必要があります。また、賃金制度などの一定の制度を変更する場合には、労働基準監督署への届け出が必要となり、また労働者代表等の意見書の添付も必要です。
就業規則を変更した後は、誰でも見やすいところへの就業規則の備え付けや就業規則の書面配布など、労働者に変更事項を周知させなければなりません。
就業規則の変更が労働者にとって不利益になる場合については、労働者一人一人に変更する正当な理由を説明し、十分な理解を得る必要があります。
まとめ
就業規則は定期的に見直す必要がありますが、日々の業務がある中で、最新の法令をキャッチアップし定期的に見直すのは大変な作業です。
就業規則の見直しについては、専門家にご相談いただいたほうが、抜けや漏れがなくスムーズに行うことができる可能性が高くなります。
当事務所では、就業規則の見直しについてもご相談を承っておりますので、お気軽にご相談ください。