資金調達で最もポピュラーな方法は、銀行融資(銀行からの借入れ)を利用する方法です。
銀行融資は、新たな設備投資を行う場合や事業の運転資金が必要になった場合などに欠かせません。常日頃から銀行と良い関係性を保っていれば、急に資金調達が必要になった時も融資を受けることで安定した会社経営を行うことができます。
ここでは、中小企業の上手な銀行との付き合い方をご紹介します。
1.銀行(金融機関)の種類と組織
銀行と上手に付き合うためには、まずは相手を知ることが必要です。
融資を行う銀行には、主にメガバンク、地方銀行、信用金庫、信用組合、ネット銀行があります。
これらの銀行の特徴を知ることで、自社がどの銀行とお付き合いすればいいのかを判断することができます。
1-1.銀行の種類と特徴
メガバンクの特徴
メガバンクとは、全国的に展開している巨大銀行グループで三井住友銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行などのことを指します。
資金力が豊富なため、大口の融資を低金利で行うことができ、企業向けの融資は「信用保証協会付き融資」と「プロパー融資」を取り扱っています。
信用保証協会付き融資とは、返済が滞った場合に借り主に代わって信用保証協会が返済を行う融資です。銀行側からすると確実に返済が見込まれるため、融資審査が通りやすいことが特徴です。ただし、1億円を超えるような大口の融資には対応できないことがほとんどです。
一方、プロパー融資とは信用保証協会が付かない融資のことで銀行の責任で直接会社に行う融資です。メガバンクでは、大企業との取引に大口のプロパー融資を実行することが可能です。
メガバンクは、全国的に展開している銀行のため地方銀行などと比べて「柔軟なお付き合い」が難しく、中小企業へはパッケージ化された融資商品による融資を主に行っています。中小企業にとっては、個別融資を受けることが難しく、資金の引き上げが早い特徴があります。
地方銀行の特徴
地方銀行とは、各都道府県に本店がある銀行のことで地域密着型の銀行です。地方銀行は、その地域で活動する中小企業と良い関係を構築し、地域にとって重要な産業を後押しする役割があります。
個別融資も積極的に行っているため、地方銀行と上手に付き合うことは、緊急の資金調達に役立ちます。金利はメガバンクと比べて高めに設定されており、信用保証協会付の融資を中心に行っています。
保証協会付きの融資では、プロパー融資に比べて融資審査に通りやすく、借入れ実績のない中小企業であっても融資を受けることが可能です。
信用金庫、信用組合の特徴
信用金庫と信用組合は、一般的に地方銀行より規模が小さく、小規模の会社への融資が特徴です。
地域に根付いた融資を行っているため、関係性を深めることで、きめ細かいサポート受けることが可能です。
大きな融資を得意としておらず、金利もメガバンクや地方銀行と比べると割高です。
ネット銀行の特徴
ネット銀行は、実際の店舗を持たないオンライン上の銀行です。ビジネスローンなどの金融商品を通して会社の融資を行っています。
ネットで申し込める手軽さと短期間で融資が実行されるなどの特徴があります。
オンライン上の銀行ですので個人的なお付き合いを行うことは困難です。
銀行の種類 | 特徴 |
---|---|
メガバンク | 大企業向けの大口プロパー融資がメイン |
地方銀行 | 中小企業向けの個別融資、信用保証協会付の融資がメイン |
信用金庫、信用組合 | 小規模事業者への個別融資、信用保証協会付の融資がメイン |
ネット銀行 | 店舗なし、ビジネスローンがメイン |
1-2.銀行は縦割り組織
銀行組織は通常の民間企業より上下関係が厳しい縦割り組織です。融資についての意思決定では常に上司の判断を仰ぐ必要があり、会社の担当者の一存で融資の判断を行うことはできません。
銀行員の間では激しい出世競争が行われています。また、銀行員は大きなお金を扱う仕事のため横領や不正融資リスクが高いため厳しいコンプライアンスがあることが特徴です。
銀行のルールは、一般的な常識と少し異なるため、次のルールを理解しておきましょう。
配置転換
銀行はコンプライアンス上、違反防止策として配置転換がよく行われ、支店長の場合は平均して3年、長くても5年で転勤になります。銀行の支店において支店長の権限は大きいため、支店長が変更すると銀行の雰囲気も変わってきます。
引継ぎが十分に行われずに配置転換が行われることもあるため、新しい支店長や担当者に自社のことを正しく理解してもらう必要があります。積極的に自社の情報を提示してアピールすることが重要です。
訪問は午前中にする
銀行への訪問は午前中に行うようにしましょう。
銀行の営業は15時までですが、閉店間際になると銀行全体が慌ただしくなります。12時から13時の間もお昼休憩のため、避けた方がいいでしょう。
また、毎月末・毎月1日と25日・偶数月の10日(年金支給日)は忙しいため避けてアポイントメントを取った方が無難です。
2.銀行との上手な付き合い方
銀行は国の機関ではなく民間企業であり、営利目的に活動しているため、定期的に融資を依頼し、滞りなく返済してくれる会社を好みます。
また、銀行員は会社員であり、数字でしか判断を行わない冷徹な人たちの集まりではありません。この2点を踏まえたうえで、銀行員との上手な付き合い方をご紹介します。
2-1.自社の身の丈にあった金融機関選び
銀行と上手に付き合うためには、自社の規模や事業内容に適した銀行選びを行いましょう。
メガバンクや地方銀行、信用金庫などの特徴を理解し、どの金融機関の融資が自社に適しているか判断することが大切です。
例えば、事業規模が大きくなっているのにも関わらず、小規模の信用金庫から融資を得ている場合は効率的ではありません。会社が大きくなればなるほど必要な資金は大きくなります。仮に2億円の融資が必要になる場合、小規模の信用金庫では荷が重すぎて決済に時間がかかる場合があります。
会社の規模に応じて地方銀行、メガバンクの利用を検討したほうがいいでしょう。
2-2.複数の金融機関と付き合う
資金調達は、会社経営を行う上で大変重要です。資金調達ができないリスクを避けるためにも複数の金融機関と上手にお付き合いを行いましょう。
1つの金融機関だけでは円滑に資金調達ができない場合、新たに違う金融機関を探すのは難しいため日頃から他の金融機関とも接点を持つことが望ましいです。
預金口座を開設したり、取引先からの売上金の入金口座の1つにしたりすることで、融資が必要な時に資金調達を行いやすくなります。
また、複数の金融機関と付き合うことで競争原理が働き、有利な条件で融資を受けられる可能性が高まります。
2-3.定期的に銀行を訪問する
銀行とのお付き合いを始めると、銀行の担当者が定期的に会社に訪問することがあります。このような場合でも、こちらから定期的に銀行への訪問を行うと銀行からの印象が良くなります。
金融機関では、会社の担当者が融資の可否を決めるのではなく、融資係が融資審査を行います。決算書や月次試算表を持参して融資係を訪問し、会社のプレゼンテーションを行うことで会社の融資をスムーズに進めることができます。
2-4.会社の月次決算や取引状況などの状況をこまめに報告する
金融機関への会社の情報開示は、積極的に行いましょう。良い情報も悪い情報も正直に報告することで信用を得ることができます。
もし、トラブルが発生した場合でも包み隠さずに報告し、その具体的な対策法も伝えることで会社の信頼も高まるでしょう。
また、「毎月の月次試算表を報告する」という名目があれば、金融機関の担当者が会社を訪れやすくなり、上手なお付き合いに繋がります。
2-5.担当者が変わったら自社のアピールに力を入れる
金融機関では配置転換が定期的に3年ほどで行われます。そのため、自社の担当者や支店長が変わり融資の計画がスムーズに行われない可能性があります。
担当者や支店長が変わったら自社のことをよく知ってもらうために、積極的にプレゼンテーションを行いましょう。新しい関係を築くことは手間がかかりますが、最初の接し方1つで自社のイメージをアップさせる最大のチャンスでもあります。
私たちのような、会計事務所が間に入り会社の業績を説明することで、より信頼を得ることも可能です。
2-6.稟議書ベースで承認を得る
金融機関の担当者や支店長と融資の承諾を口約束で行っていた場合、配置転換により白紙になってしまうケースもあります。
配置転換が行われた場合でも間違いなく融資が受けられるように金融機関に事業計画書などを提出し、稟議書などの文書ベースで融資の承認を得るようにしましょう。
「金融機関はよく転勤がある」ということを念頭においてお付き合いを行うことで、このようなリスクを回避することができます。
2-7.金融機関主催のセミナーやイベントに参加する
良い付き合いはギブアンドテイクです。金融機関で顧客を獲得する目的でイベントやセミナーが行われる際は、積極的に参加しましょう。
さらに、金融機関が取り扱っている金融商品の販売や公共料金の自動引落し、新たな定期預金の開設など協力すると喜ばれます。
金融機関のグループ会社である保険やリース会社、ファクタリング会社などを利用することも良いお付き合いに繋がります。
2-8.長い付き合いを意識する
会社と金融機関は切っても切れない関係です。「今は資金が必要ないから関係ない」と目先のことばかり考えずに「いつかお世話になるかもしれない」と考えてお付き合いしましょう。
金融機関の担当者も人間です。見ず知らずの会社よりも良い関係が続いている会社への融資の方を積極的に通してくれます。融資が必要になったからと言って、その時に慌てて行動してもうまくいきません。常日頃から長い付き合いを意識した人間関係を構築することが重要です。
3.金融機関から嫌われる行動
金融機関と上手にお付き合いするためには、やってはいけない行動があります。次のような行動を避けて良い信頼関係を築きましょう。
3-1.取引金融機関をころころ変える
複数の金融機関とお付き合いすることはリスク回避のために重要ですが、融資を受ける金融機関をころころ変える会社は金融機関から嫌われます。
金融機関のビジネスモデルでは長い期間融資を行い、確実に回収することが鉄則です。融資期間が終了したら付き合いをやめ、新しい金融機関に融資を申し込むような会社は金融機関にとって有り難い存在ではありません。金融機関を取引先の1つとして考え、継続してお付き合いしましょう。
3-2.困ったときだけ借入のために泣きつく
経営がうまくいかず、資金調達が必要になったので金融機関へ融資を申し込みに行くことは会社経営として合理的です。しかし、金融機関との付き合い方としてはあまり良い行動ではありません。
金融機関は「確実に返済を受けるために経営が危ない会社には融資をしたくない」と思っているため、困ったときだけ泣きついてくる会社を快くは思いません。本当に困ったときだけ融資の相談を行うのではなく、会社の経営が傾く前の段階で金融機関が融資をしたいと思える時期に相談を行うといいでしょう。
3-3.提出書類がいい加減
融資を申し込む際には「決算書・資金繰り表・事業計画書・借入残高推移表」の提出が必要です。これらの書類をいい加減に作成していると「計画性のない会社」または「書類作成能力がないダメな会社」と見られてしまいます。
事業計画書などを作成するためには多くの労力が必要ですが、信頼を得るためには完成度の高い資料の作成が必要です。自社で作成が困難な場合は、当事務所がご相談を承ります。お気軽にご連絡ください。
3-4.経営者に信頼がない
会社経営が上手な経営者ほど金融機関と上手なお付き合いを行っています。翻せば、金融機関との付き合いができない経営者は会社経営も上手に行えません。
会社内外から厚い信頼がある経営者は金融機関からの信頼もあり、上手に末永いお付き合いを行うことができます。簡単なことではありませんが、まずは周りからの信頼を得ていくことが金融機関との信頼関係にも繋がります。
まとめ
今回は「銀行との上手な付き合い方」についてご紹介しました。金融機関との信頼関係を築くことで資金調達リスクを回避し、会社経営を安定させることが可能です。
銀行員も会社員なので良好な人間関係を保ち、お互いが助け合う関係を築くことが重要です。
上原会計事務所では銀行との上手な付き合い方についてアドバイスを行っています。この先、銀行融資を考えられている方はお気軽にご相談ください。
銀行との付き合い方に関するFAQ
中小企業はどんな銀行と付き合えば良いですか?
地方銀行では中小企業向けの個別融資や信用保証協会付の融資を中心に行っていますので、地方銀行と上手に付き合うと良いでしょう。
小規模な企業の場合、信用金庫・信用組合と付き合うのも効果的です。
銀行との上手な付き合い方を教えてください
以下のようなポイントを意識すると良いでしょう。
・定期的に銀行を訪問する
・会社の月次決算や取引状況をこまめに報告する
・担当者が変わったら自社のアピールに力を入れる
・金融機関主催のセミナーやイベントに参加する