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オーナー社長は会社に死因贈与や遺贈によって遺産を相続させることができます。しかも会社には原則として相続税がかからないため、それを利用した相続対策が可能です。
会社のオーナー社長などには、是非ご検討いただきたい方法の1つです。
1. 財産は会社に相続させることが可能
会社も個人の遺産を相続することができます。そのうえ、相続税は、個人から個人に遺産が相続された際にかかる税金のため、法人である会社にはかかりません。
ただし、会社が相続によって財産を取得した場合には、相続した財産の時価が利益として扱われ、法人税の課税対象になります。
さらに、遺産である不動産や株式などが被相続人の取得時より値上がりしていると、会社へ贈与や遺贈をしたオーナー社長に譲渡所得が発生し、オーナー社長の相続人に対して譲渡所得税がかかる可能性もあります。
このように、会社への相続は、会社の経営状況を判断したうえで行う必要があります
2. 赤字会社を使った相続税の節税法
実は、日本における赤字法人は、6割を超えています(※)。
もちろん不景気の影響もありますが、企業は敢えて赤字にした方が節税対策の幅が広くなり、社長の所得税なども含めて総合的に税金が少なくなることが多いためです。
それでは赤字会社に相続させることで可能になる、相続税の節税方法についてご紹介します。
※【出典】「最新の「赤字法人率」、過去最小の64.8%に低下」|東京商工リサーチ
2-1.個人の遺産と会社の赤字を相殺させる
法人税は、会社の利益に対してかかる税金です。したがって、会社が社長の遺産を相続することで利益が増えたとしても、会社に遺産額を超える赤字があれば利益は出ず、法人税はかからないことになります。
また、法人は繰越欠損金制度により、将来10年間に渡って赤字を繰り越し、黒字が出た事業年度に相殺することができます。
例えば、2020年度に500万円、2021年度に1,000万円の赤字が出た企業に、2022年度に1,200万円の黒字が出たとても、繰越欠損金が1,500万円あるため、法人税は0円になります。
社長の遺産を相続した年に、会社が相続による利益を解消するだけの赤字を出すのは難しかもしれませんが、繰越欠損金があれば相殺のハードルは低くなります。
2-2.会社への貸付金を放棄して赤字と相殺
貸付金は債権として相続の対象です。オーナー社長に自社に対する貸付金があれば、オーナー社長が亡くなると、社長のご遺族の相続財産になり、ご遺族への返済義務が生します。
そこで、社長がご存命の間に、債務放棄をすることが有効です。
債務放棄をすると、会社側は返済するお金が無くなったことで、債務免除益という利益が発生し、法人税の課税対象になります。しかし、その利益も、赤字や繰越欠損金があれば相殺することができます。
2-3.社長個人の土地を会社に貸しつけている場合
借地権は、他人の土地を借りて建物を建てる際に、借主に認められている権利で、通常の取引では、借主が土地所有者に権利金の支払いを行うことが一般的です。
一方、中小企業では社長が会社の事業のために、ご自分の土地を会社に貸し付けていても、権利金の支払いが行われないことが多いかと思います。会社と権利金の支払いのない借地権を設定すると、会社は社長から借地権の権利金相当額の贈与を受けたものとして扱われ、贈与が会社の利益となり、法人税の課税対象になってします。
しかし、その利益額以上の赤字や繰越欠損金があれば相殺され、法人税は発生しません。
結果として、社長個人の土地の借地権を、税負担0円で会社に移転させることができ、相続財産になる社長個人の土地の評価額も、借地権分減額することができます。
3. 赤字会社に相続させるメリット・デメリット
ここでは、赤字会社を使った相続対策のメリットとデメリットをまとめます。
3-1.赤字会社に相続させるメリット
会社の赤字解消になる
赤字があると税金面では有利に働く一方で、会社の経営状態を見られる銀行融資を受ける際には不利に働きます。
しかし、会社の事業のみで、赤字を解消するにはそれなりの時間が必要です。これに対して、会社に財産を相続させると一気に大きな黒字を作ることができ、赤字を解消することができます。
資金繰りが改善される
会社が赤字であるということは、資金繰りに困っていることが多いということです。
会社に相続させることで、会社は無償で財産を取得し、資金繰りが改善されます。
売却して資金化できない財産だったとしても、赤字解消によって会社の帳簿が改善し、融資を受けられる可能性が高まります。
3-2.赤字会社に相続させるデメリット
会社に遺産を相続させると、会社の純資産が増加することで株価が上昇します。
同族会社では、相続により株主が間接的に利益を受けることになったと認定され、株主が保有する株価の値上がり分が相続税の課税対象になります。
4.赤字会社に相続させる方法
赤字会社への相続は、遺贈または死因贈与によって行います。
4-1.遺言書を作成し遺贈する
被相続人が財産の相続先を指定できる一般的な方法が遺言書による遺贈で、遺言書を作成する際に、会社に財産を遺贈する旨を記載します。
受遺者が会社だからと特別な遺言書を作成する必要はなく、通常の遺言書と同様に作成することができます。
4-2.死因贈与契約を交わす
死因贈与は、贈与者の死亡によって効力が発生する贈与です。
贈与者であるオーナー社長と、受贈者である会社が、「贈与者が死亡したら、財産を贈与します。」という契約を交わして、取締役会や株主総会などの承認後、贈与者が死亡すると、その財産が受贈者へ贈与されることになります。
死因贈与する際には、贈与契約書を作成し、契約の証拠を残すようにします。
遺贈・死因贈与いずれを選択しても問題ありません。都合の良い方を選択されると良いかと思います。
5.黒字会社の場合はより慎重に
自社に資産を相続させてする相続税対策は、自社が赤字であることが大前提になります。
繰越欠損金もない黒字会社では、相続した遺産全てが利益となり、法人税の課税対象になってしまいます。
相続税は税率が高いことで知られていますが、相続した遺産が高額であれば、法人税率の方が高くなる可能性があります。
相続する財産額、繰越欠損金の残額などを考慮した十分な試算のもと、慎重な判断をしてください。
6.赤字会社を利用した相続対策は当事務所へご相談を
赤字会社を利用した相続対策とは、会社へ遺産を相続させてその利益を赤字と相殺することで、遺産に相続税はもとより法人税も課税させない方法です。
シンプルな節税方法ではありますが、裏には相続税、法人税、譲渡所得税など複数の税金が絡んでくる複雑さがあるうえに、会社の経営状況を判断して行う必要があります。
当事務所では、こうした相続対策についてもご相談を承っております。弁護士が常駐していることから、相続手続きや事業承継についてもご相談いただけます。是非一度、お気軽にご相談ください。