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生命保険への加入は、相続税対策として簡単で効率的な方法です。
不動産を活用した対策など、節税効果が高い相続税対策もありますが、家賃下落リスク、空室リスク、不動産価格低下のリスクなどが生じてしまいます。
生命保険を利用した相続税対策は手軽に行うことができ、保険契約により将来受け取れる保険金が確定する確実性の高い方法です。保険契約の中でも、特に「終身保険」が相続税の節税・納税資金の確保などのメリットがあります。ここでは「終身保険を活用した相続税対策」について詳しく解説します。
1.終身保険と定期保険との違い
死亡した際に受け取れる死亡保険には、大きく分けて「終身保険」と「定期保険」があります。
終身保険
終身保険は「保障が一生続く保険」のことを言います。保険期間が終身になっているため、解約しない限りはずっと保障を維持することができます。
定期保険
定期保険は「保障期間が定められた保険」のことを言います。保障期間を10年、20年に定めて契約する「年満了」と被保険者が一定の年齢に達するまで保障が続く「歳満了」の2つのタイプがあります。
終身保険と定期保険のメリット・デメリットをまとめると次のとおりです。
終身保険 | 定期保険 | |
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メリット |
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デメリット |
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1-1.終身保険の方が相続税対策に適している
終身保険と定期保険のどちらであっても、受け取れる死亡保険金には相続税法上、非課税枠が設定されています。
死亡保険金の非課税枠=500万円×法定相続人数
どちらの保険契約であっても相続税対策として有効だと言えます。しかし、大事なポイントは「人はいつ亡くなるのか誰にもわからないこと」です。
定期保険は保障期間が決まっているため、その期間内にお亡くなりにならなければ、相続税対策として成立しません。一方、終身保険は、保障が一生続くため、解約しなければ死亡保険金を必ず受け取れるため相続税対策に適していると言えます。
1-2.相続税対策に有効な「一時払い終身保険」
終身保険の中でも「一時払い終身保険」が相続税対策として多く利用されています。
一時払い終身保険とは、契約時に保険料を一括で支払う保険のことであり、月払いや年払いで支払う保険よりも保険料が安くなります。
一時払い終身保険は、払込金額と同額または払込金額よりも高額の死亡保険金を受け取ることができ、加入可能年齢が80~90歳までの保険商品も多いため、高齢者の方でも加入しやすいのも特徴です。ただし、一時払いであるため、加入の際にはまとまった現金が必要です。
相続税対策は、生前贈与など、生前に長い期間をかけて行うことで効果を発揮します。しかし、一時払い終身保険を活用した方法は、契約して払い込みをするだけで完結するため、手軽な方法として人気が高い相続税対策です。
2.一時払い終身保険と預貯金との相続における比較
相続財産に預貯金がある場合と、生前に相続税対策として預貯金を払込金の原資として一時払い終身保険に加入する場合とでは、相続での取り扱いが異なります。
一時払い終身保険に加入した場合と預貯金をそのまま保有した場合の相続における比較を見ていきましょう。
一時払い終身保険 | 預貯金 | |
---|---|---|
財産の種類 | 受取人の固有財産 (遺産分割・遺留分の対象外) |
相続財産 |
相続税法の取り扱い | みなし相続財産 (死亡保険金の非課税枠あり) |
相続財産
|
受取方法 | 受取人が保険会社に死亡保険金を請求する | 遺産分割協議書を提出し、相続手続き完了後に払い戻しが可能になる (相続発生後に口座が凍結される) |
2-1.一時払い終身保険の取り扱い
一時払い終身保険により受け取る死亡保険金は相続財産ではなく、受取人の固有財産とみなされます。そのため、受取人が相続放棄を行っても、死亡保険金を受け取ることが可能です。
一方相続税法上、死亡保険金は「みなし相続財産」となり、相続税の課税対象になります。死亡保険金には「500万円×法定相続人数」の非課税枠が設定されており、遺産として預貯金を相続するのと比べて節税効果が期待できます(ただし、受取人が相続放棄を行った場合には、受取人は法定相続人とはみなされないため、死亡保険金の非課税枠を利用することはできません)。
2-2.預貯金の取り扱い
亡くなった被相続人が保有していた預貯金は、「相続財産」として取り扱われます。金融機関が銀行口座名義人が亡くなったことを確認した時点で銀行口座は凍結されてしまいます。
また、遺言書が残されていない場合には、誰が預貯金を相続するのかでトラブルになる場合があります。
相続税の取り扱いについては、通常の相続財産として相続開始日現在の預金残高が相続税評価額となり、相続税の対象になります。
3.一時払い終身保険は節税効果が高い
一時払い終身保険は死亡保険金の非課税枠の適用があるため、預貯金で保有しているよりも相続税が少なくなります。どれくらいの節税効果が期待できるのか、具体例とともに見ていきましょう。
【事例】
- 相続財産:1億4,800万円
- 法定相続人:3人(配偶者・長男・長女)
- 遺産分割方法:法定相続分で分割
預貯金として保有していた場合
正味の遺産額1億4,800万円-基礎控除額(3,000万円+600万円×3人)=課税遺産総額1億円
各相続人の仮の相続税額
配偶者
1億円×法定相続分1/2=5,000万円
5,000万円 ×20%(税率)-200万円(控除額)=800万円長女
1億円×法定相続分1/4 =2,500万円
2,500万円×15%(税率)-50万円(控除額)=325万円長男
1億円×法定相続分1/4 =2,500万円
2,500万円×15%(税率)-50万円(控除額)=325万円
相続税の総額800万円+325万円+325万円=1,450万円
相続税の納税額
配偶者控除額725万円を差し引き725万円
被相続人が一時払い終身保険に加入していた場合
死亡保険金の額:2,000万円
受取人:配偶者正味の遺産額(1億4,800万円-死亡保険金の非課税枠1,500万円)-基礎控除額(3,000万円+600万円×3人)=課税遺産総額8,500万円
各相続人の仮の相続税額
配偶者
8,500万円×法定相続分1/2=4,250万円
4,250万円 ×20%(税率)-200万円(控除額)=650万円長女
8,500万円×1/4 法定相続分=2,125万円
2,125万円×15%(税率)-50万円(控除額)=268万7,500円長男
8,500万円×法定相続分1/4=2,125万円
2,125万円×15%(税率)-50万円(控除額)=268万7,500円相続税の総額
650万円+268万7,500円+268万7,500円=1,187万5,000円
相続税の納付額総額
配偶者控除593万7,500円を差し引き593万7,500円
この事例では、被相続人が預貯金として保有していた場合と、生前に2,000万円の一時払い終身保険に加入した場合の相続税額の差は131万2,500円になり、一時払い終身保険に加入することで相続税を大きく節税できることがわかります。
今回は法定相続人の数は3人で計算しましたが、法定相続人の数が多ければ多いほど非課税枠が増えるため、法定相続人の数が多ければ、さらに節税効果が高くなります。
4.死亡保険金が遺留分の対象になることも
死亡保険金は相続財産ではなく、受取人の固有財産になるため原則として遺留分侵害額請求の対象にはなりません。しかし、受け取る相続財産が著しく不公平な場合には、死亡保険金が遺留分の対象になることも考えられます(平成16年10月29日最高裁判決)。
死亡保険金のほうが相続財産よりも多額になる場合などは取り扱いに十分注意するようにしましょう。
5.終身保険を利用した相続税対策は当事務所へご相談を
終身保険を利用した相続税対策は、他の相続税対策よりも手軽にでき、節税効果も高い方法です。しかし、一時払い終身保険の加入にはまとまった資金の支払いが発生するため、慎重に検討しましょう。
専門家に相談することで、相続税の概算額や保険に加入することで節税できる税額などを確認することができます。不安な方は税理士に相談してみましょう。
当事務所では、こうした終身保険を活用したものから生前贈与や不動産を使ったものまで様々な相続税対策を準備して、ご相談者様に適した対策をアドバイスさせていただきます。お気軽にご相談ください。