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世の中には生前贈与や家族信託など、様々な手法が存在しますが、不動産や株式などの資産を多く保有している人に最適な手法が「資産管理会社」を利用した方法です。
資産管理会社を設立することで、相続税の節税や所得の分散、納税資金の準備などのメリットを得ることが可能になります。一方で資産管理会社を管理する手間やコストが発生するため、メリット・デメリットをよく理解したうえで検討しなければなりません。
ここでは「相続対策で資産管理会社を設立するメリットと設立方法」について詳しく解説します。
1.資産管理会社について
資産管理会社とは、文字通り「個人の資産を管理する会社」のことを言います。株式会社や合同会社のような法人格の名称ではありません。
個人が所有している収益物件や株式などの財産を個人が100%オーナーである資産管理会社に移転させ、資産管理会社がその財産の運用や管理を行います。
1-1.資産管理会社を設立する収入の目安
資産管理会社を設立することで恩恵を得られる目安は、収入から経費を差し引いた所得が800~900万円と言われています。
これは、所得税と法人税の課税システムと税率が異なることが原因であり、個人の所得が800万円ぐらいになると所得税率よりも法人税率の方が低くなるためです。
1-2.資産管理会社の設立は誰に相談すべき?
「資産管理会社を検討しているが誰に相談すればいいのだろう」と悩まれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
会社設立の専門家は司法書士になりますが、資産管理会社を設立することで節税効果が得られるかどうかのシミュレーションができる専門家は税理士です。
特に個人の所得税と会社の法人税だけではなく、相続税などの資産税に強い税理士に相談されることをおすすめします。
2.資産管理会社を設立するメリット・デメリット
資産管理会社には、税金の節税効果や事業承継対策などのメリットの他にも様々なデメリットもあります。メリット・デメリットを見ていきましょう。
2-1.資産管理会社を設立するメリット
資産の圧縮効果が期待できる
資産管理会社を利用したスキームでは、会社が不動産を保有し、オーナーは役員として会社の株式を保有する方法が一般的です。オーナーが亡くなった場合は、会社の株式が相続財産になるため、会社の株式の評価額を算定しなければなりません。
不動産の相続税評価額は、通常の取引金額よりも低く評価されますが、資産管理会社の株式の評価額はさらに低くなる場合が一般的です。会社の株式の評価額の計算は、会社の純資産を相続税評価額で求め、含み益にかかる法人税相当額(37%)を差し引いて計算することが可能です。
ただし、取得後3年以内の不動産は通常の取引価額により評価を行うことになるため、節税効果が少なくなってしまうので、早めに不動産の移転を行っておく必要があります。
所得を分散させることで所得税を節税
個人で財産を保有している場合、その財産から生じる利益は個人の所得になり、所得税が課税されます。所得税は累進課税となっており、所得の金額が大きければ大きいほど所得税率が高くなるため、所得を1人に集中させるよりも分散させた方が合計した所得税の負担は少なくなります。
例えば、個人で保有している賃貸マンションを資産管理会社に移転させ、家族を資産管理会社の役員にして役員報酬を支給した場合を考えてみましょう。賃貸マンションの収益は全て資産管理会社の収益となり、その収益から家族に役員報酬を支給することで家族全体の所得税を大きく減らすことができます。
また、所得を分散させることで資産の増加を鈍化させることができ、相続税の節税にも繋がります。
死亡退職金制度を活用できる
会社を設立すると、死亡退職金制度を活用できるようになります。
相続税では、死亡退職金は「みなし相続財産」に該当しますが、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が設定されています。また、死亡退職金は所得税の課税対象にならないため、相続税と所得税の節税対策として非常に効果的です。
会社は経費の範囲が広い
個人事業主として不動産経営を行っている場合は、その不動産に関するものしか経費にすることはできません。
しかし、会社は個人事業主よりも経費の範囲が広く認められており、社宅や社用車を間接経費として計上することも可能です。
損失がでても10年間繰り越すことができる
青色申告を行っている個人事業主は、損失が生じた場合、翌年以後3年繰り越すことができます。一方で、法人の場合は損失(欠損金)を翌年度以後10年間繰り越すことが可能です。
オーナーが社会保険に加入できる
オーナーや家族が資産管理会社の役員になると、社会保険に加入しなければなりません。
個人事業主として負担していた国民年金と国民健康保険から厚生年金と健康保険に切り替わり、将来支給される年金が多くなったり、負担なしで扶養家族を健康保険に加入させたりすることもできます。
2-2.資産管理会社を設立するデメリット
コストがかかる
資産管理会社を設立し、運営を行っていくためには多くのコストが発生します。
法人設立費用
株式会社にするのか、合同会社にするのかによってかかる費用は異なりますが、合同会社で約10万円、株式会社で約22万円の費用が発生します。司法書士に依頼する場合には、さらに費用が発生します。
不動産移転コスト
不動産を個人から会社名義に切り替える際に、登録免許税や不動産取得税、消費税が発生します。
会社の維持コスト
会社である以上、毎年法人税の申告を行わなければならず、法人税や法人住民税などの負担、税理士報酬などのコストが発生します。
利益が出ていない場合であっても法人住民税の均等割(約7万円)は毎年発生します。また、役員の社会保険料についても負担しなければなりません。
2-3.手間がかかる
会社を運営するためには、会計帳簿の作成や決算書の作成、法人税申告、社会保険料や源泉所得税の納付、株主総会や取締役会の決議などの手続きが発生します。
2-4.会社に移転した財産は勝手に利用できない
個人から資産管理会社に移転した財産は、会社の所有物になるため、個人が勝手に使用することはできません。
2-5.小規模宅地等の特例が適用できない
相続税の計算では、要件を満たすことで宅地の評価を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」を適用することができます。しかし、資産管理会社に宅地を移転した場合、移転した宅地で小規模宅地等の特例を適用することはできません。
3.資産管理会社を設立する方法
資産管理会社を設立する方法は、基本的には通常の会社設立と同様の流れで行います。
- 定款の作成・認証(合同会社は認証不要)
- 資本金の払込み
- 登記申請手続き
- 税務署、都道府県、市町村への届出
- 健康保険・厚生年金の加入手続き
- 法人口座の開設
法人口座を開設後は、個人と会社で不動産などの財産の売買契約を締結します。そして、会社から個人に対して売買代金の支払いを行います。
通常、設立当初の会社には財産を買い取る資金がないため、買い取った不動産の家賃収入などを原資に分割払いを行うことが一般的です。
個人から会社へ不動産を移転する場合には、次の書類が必要です。
- 登記識別情報または登記済権利証
- 住民票
- 実印
- 印鑑証明書
- 固定資産評価証明書
- 免許証などの本人確認書類
4.節税のための資産管理会社設立は当事務所へご相談を
資産管理会社を利用することで相続税や所得税を節税することができますが、コストや手間がかかるため慎重に検討を行いましょう。独断で判断せず、税金の専門家である税理士に相談しながら、ご自身にとって資産管理会社の活用が効果的なのかを見極めることが重要です。
当事務所では、節税のための資産会社設立のご相談も承っています。ご興味のある方は、ぜひ、お問い合わせください。