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相続税は一生に一度あるかないかの申告です。とは言え、慌ただしく相続の手続きをしているうちに、「申告を忘れていた・・・」ということは誰にでも起こり得ることです。
気が付いたのが申告期限後だった、忘れていたところに税務署から連絡が来たという場合には、気が気ではなくなることと思います。しかし、そこからでも、対処法はあります。
今回は、相続税申告を忘れていた場合にはどうなるのか、忘れないためにはどう対処すればよいのかについてご紹介させていただきます。
1 相続税申告を忘れていた場合はどうなる?
まず、多くの方がご不安に思われている、相続税申告を忘れていた場合にはどうなるのかについてご紹介させていただきます。
1-1.相続税申告を忘れていたら税務調査が入る
税務署は、相続税申告があると想定していた相続人から申告がなかった場合には、税務調査を行い、相続財産のすべてを調べて間違いなく申告不要なのかを確認します。
税務調査のみに対応してくれる税理士もいる
その際には、税理士へ立ち合いの依頼をされることをおすすめいたします。依頼していなかった申告に対する税務調査であっても、対応してくれる税理士はおりますのですぐに相談してください。
税務調査に税理士の立ち合いを依頼することには、次のメリットがあります。
- 調査員に対して適切な対応をしてもらえる
- 結果的に節税効果がある
相続人のみで税務調査へ対応しますと、専門知識で武装している調査員の意図した通りに話が進んでしまう可能性が高くなります。
一方で、税理士に立ち合いをお願いすれば、調査される側も税理士という対抗できる手段を準備することができ、調査員の専門的な質問や追及に対して落ち着いて対応することができ、過度な相続税が発生することを防ぐことができます。
また税務調査に強い税理士に依頼することができれば、合法的に巧みな話術で相続税を最小限に抑えることができます。
もちろん、上原会計事務所でも、税務調査への対応はさせていただいております。
税務調査については、次の記事で詳しく説明させていただいております。是非、ご一読ください。
【関連記事】相続税の税務調査とは?
1-2.相続税申告を忘れていた場合のペナルティ
相続税申告を忘れていた場合には、無申告加算税または延滞税重加算税のいずれかと延滞税がペナルティとして課されます。
無申告加算税
申告をしなかったことに対する罰金です。
申告期限後に自主的に申告した場合
- 税務調査が入る前に自主的に申告:納税額の5%
- 税務調査の連絡があってから実際に来るまでの間に申告:納税額の10%(税額が50万円を超える場合、超える部分について15%)
税務調査により無申告を指摘され申告した場合
- 納税額の15%(税額が50万円を超える場合、超える部分について20%)
税務調査によって相続税100万円の無申告が指摘された場合
100万円のうち50万円には、15%が、50万円を超えた50万円には、20%が課税され、無申告加算税は、17万5,000円となります。
50万円 × 15% + 50万円 × 20% = 17.5万円
重加算税
相続財産を隠ぺいして相続税申告を忘れていたふりをしていた場合など、無申告であった理由が特に悪質と認められる場合には、無申告加算税に代えて重加算税がかかります。
その名称通り40%という非常に重い税率となっています。
- 重加算税の税率:40%
税務調査によって相続税100万円の無申告が指摘され、さらに悪質であると認められた場合
100万円 × 40% = 40万円
延滞税
相続税を申告期限後に納めることに対する利息のような税金で、期限の翌日から納付した日までの日数に応じてかかります。
罰金である加算税とは性質が異なります。
原則
- 申告期限の翌日から2ヶ月以内の期間:年7.3%
- 申告期限の翌日から2ヶ月超の期間:年14.6%
特例
低金利時代が続いていることが考慮され、延滞税の税率についても特例が設けられており、現在は次の税率によって計算することができます。
- 申告期限の翌日から2ヶ月以内の期間:年2.5%(※)
- 申告期限の翌日から2ヶ月超の期間:年8.8%(※)
※ 税率は、2021年1月1日から12月31日までのものを使用しています。
その他の年の年率については、以下のサイトよりご確認いただけます。
【参考サイト】延滞税の割合|国税庁
税務調査によって相続税100万円の無申告が指摘され、申告期限である3月31日から3ヶ月後の6月30日に納付した場合
4月1日から5月31日までの61日間に、年2.5%、6月1日から30日までに年8.8%が課税され、延滞税の納税額は、11,400円(100円未満切り捨て)になります。
4月1日から5月31日:100万円 × 2.5% × 61日/365日 = 4,178円(1円未満切り捨て)
6月1日から6月30日:100万円 × 8.8% × 30日/365日 = 7,232円(1円未満切り捨て)
4,178円 + 7,232円 =11,400円(100円未満切り捨て)
最終的に、税務調査によって、相続税の無申告が指摘され、6月30日に納付した場合は、次のいずれかが、相続税に加えて課税されることになります。
無申告に悪質性が認められなかった場合
無申告加算税額 175,000万円 + 延滞税額 11,400円 = 186,400円
無申告に悪質性が認められた場合
重加算税額 40万円 + 延滞税額 11,400円 = 411,400円
1-3.相続税の時効
相続開始から5年間または7年間、税務署に相続税申告をしていないことが見つからなければ時効となり、相続税申告と納付の義務はなくなります。
5年間に該当するのは善意の相続人である場合で、「善意」とは、嘘偽りなく、相続税申告はないと信じ切っていた人のことをいいます。
反対に、相続税申告が必要だと知っていた相続人については7年間となります。相続税申告をしなければならないことを知っていたけれども、忘れていたという場合も「悪意」に該当します。
「7年くらいなら逃げ切れるのでは?」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、次にご紹介する税務署の調査力を踏まえますと、ほぼ不可能とお考えください。
【関連記事】相続税の時効と見つかった場合のペナルティ
2.相続税申告を忘れていたことを税務署はどうやって知る?
どうして、申告をしていないにもかかわらず、税務署は申告の必要の有無を知ることができるのでしょうか。
2-1.生前から相続税の対象者を絞っている
相続税は遺産の額に応じてかかる税金です。所有している財産が大きい方は、いずれ相続税の課税対象になることが予測されます。
国にとって相続税は大きな税収であり、課税の公平の観点からも漏れがあることは許されません。税務署は相続税の対象になる方については生前から目を付けており、財産の動向を見張っています。
2-2.死亡情報を直ぐに把握
人が死亡した場合には、必ず役所に死亡届が提出されます。受理した役所はその情報をコンピューターに入力し、入力された情報はそのまま税務署にも共有されるようになっています。
2-3.強力な調査権限
先のご紹介で、なぜ税務署に所有している財産が分かるのかと疑問を持たれませんでしたでしょうか。
税務署には強力な調査権限があり、不動産の登記情報、銀行口座の動き、美術品や宝飾品の購入履歴などは筒抜けだと考えてください。
また、税務署には国税総合管理システム(略してKSKシステム)という、全国の納税者の申告に関するすべての情報を一括管理するコンピュータシステムがあります。
これには国民1人1人の納税に関する情報が過去から蓄積されており、これまでの収入から保有しているであろう財産が推測できます。
3.申告期限間近に思い出しても税理士に依頼できる?
相続税申告書の作成は非常に時間がかかります。したがって、原則的には、税理士へのご依頼は遅くとも申告期限の2~3ヶ月前にお願いしたいと思います。
しかし、ご安心ください。申告期限間近であっても税理士である以上お受けさせていただくのが当然です。
3-1.申告間近でも依頼は可能
申告期限間近であっても、過ぎていても、税理士へ依頼することはできます。期限が迫っているからという理由で断られることは基本的にありません。状況に応じて、適切な申告をサポートします。
ただし、絶対に期限内で申告してほしいなどの無理なご依頼は、断られる可能性があります。
3-2.申告期限間近の税理士報酬は?
税理士報酬は自由設定が認められており、依頼する税理士によるのが大前提ですが、申告期限間近でのご依頼に対しては通常の相続税申告料に割増料金がかかるのが通常となっています。相場としては1~5割増し程度です。
相続税申告料の相場が遺産総額の1~1.5%ですので、遺産が1億円であった場合の申告料は100~150万円、それに10~75万円程度の割増料金がかかる計算になります。
3-3.申告期限に間に合わない場合の対処法
申告期限に間に合わない場合には、いかにペナルティ税金の負担を下げるかが基本的な対処法になります。
- とりあえず概算で期限内申告をする
- 確定してから期限後申告をする
- 申告期限後3年以内の分割見込書の利用
詳しくはこちらでご紹介しておりますので、ご覧ください。
【関連記事】相続税申告はいつまでにしなければならない?申告期限について徹底解説
4.相続税申告を忘れないためには
相続税申告を忘れてしまうと、税務調査の負担だけではなく、ペナルティとしての税金が無駄にかかってしまいます。
相続税申告を忘れないようにするためには、自分には相続税申告があるということを生前から知っておくことが重要になります。
4-1.早めの対応
相続はいつ起こるか分かりません。相続のことが頭に浮かんだ時が準備を開始するときです。
相続に早過ぎる対応はありませんので、できる限り相続開始前から準備をしていただけると良いかと思います。
特に先祖代々で相続税申告が発生しているご家庭では、相続税申告が発生する可能性が高く、税務署も当然に把握していますので、早め早めの対応を心掛けてください。
4-2.早めのタイミングでの税理士への相談
税理士へ相談しておけば、申告までのスケジュールを組んでもらうことができ、相続税申告自体を忘れるということはまずありません。
特に、相続開始前から相談しておくと申告だけではなく、相続税の節税対策まで行うことができますのでおすすめです。
まとめ
相続税申告を忘れていた場合にはペナルティの税金が発生しますので、とにかく早く対処することが重要になります。
無申告については税務署も注意深く目を光らせており、何事もなく時効を迎えるということは99%ないということをご承知おきください。
税務調査が入る場合にも備えて、相続税申告を忘れていることに気が付いたらすぐに税理士へご相談されることをおすすめいたします。