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家を建てるためには理想の家を思い描き、設計図を作成し作業工程を確認します。会社を経営する上でも同様に、会社のビジョンを設定し、そのビジョンを達成するための設計図や工程表を作成する必要があります。
この会社経営の設計図や工程表(ロードマップ)のことを「経営計画」と言います。ここでは、理想に終わらず実現させるための、経営計画の上手な作り方をご紹介します。
1.経営計画はなぜ必要か?
経営計画を作成しても「将来のことはわからない」「計画通りにならない」と経営計画の必要性を感じていない方もいるのではないでしょうか。
経営環境の変化が速い現代だからこそ、経営にとって経営計画は必要不可欠です。経営計画を策定することで、次の効果が期待できます。
1-1.目標を見失わない
会社を成長させ、目標となるビジョンを達成するためには、安定的に利益を確保し業績を上げ続けることが重要です。経営計画を策定せず、行き当たりばったりの経営では想定外のできごとに対応することができません。
また、長期的な視野を持たない経営では目指すところを見失い、会社が道に迷ってしまいます。しっかりとした経営計画があれば、目標を見失わずに一歩一歩理想のビジョンに近づいていくことができます。
1-2.ビジョンの共有
経営者が会社の将来のビジョンを描いていても、発信しなければ他の役員や従業員に伝わりません。
経営計画を作成することで経営者の頭の整理をすることができ、また、経営者のビジョンや考えが周囲に伝わることで従業員の意識を向上することができるでしょう。
1-3.信頼性の向上
経営計画がある会社は、会社内部からだけではなく、会社外部からの信頼も高まります。
例えば、金融機関から融資を受ける際には経営計画書(事業計画書)の提出が必要になります。融資を受ける際に急遽作成した経営計画書ではなく、会社のビジョンを反映した経営計画書を提出することで金融機関からの信頼が向上するでしょう。
2.経営計画の種類
経営計画は、計画する期間によって長期経営計画・中期経営計画・短期経営計画に分類されます。それぞれの特徴を見ていきましょう。
経営計画の種類と特徴
長期経営計画 | 中期経営計画 | 短期経営計画 | |
---|---|---|---|
計画の期間 | 5~10年 | 3~5年 | 1年 |
主となる目標 | 経営方針や今後事業展開する事業分野 | 中期的に目指す事業の方向性、目標を達成するための方法や方針 | 中期経営計画に基づく1年間の具体的な行動計画 |
具体性 | テーマや概要 | 具体的な数値目標 | 予算計画も兼ねる |
作成方法 | トップダウン方式 | トップダウン方式とボトムアップ方式の併用 | ボトムアップ方式 |
経営計画の作成手順
長期経営計画
- 経営理念やビジョンの設定
- 長期的な経営戦略の策定
中期経営計画
- 中期経営目標や経営戦略の設定
- 中期数値計画の作成
短期経営計画
- 短期経営目標
- 戦略の策定
- 年間予算・数値計画の作成
3.中期経営計画の作り方
経営計画では、会社の経営理念やビジョンを明確にした長期経営計画の後に行う、中期経営計画の作り方が重要になります。
長期経営計画の内容を中期経営計画に落とし込み、具体的な戦略や数値計算を行っていきます。中期経営計画の作成手順を見ていきましょう。
手順① 長期経営計画の確認
中期経営計画に長期経営計画を落とし込みます。
長期経営計画で文章化された会社のビジョンやミッション、バリュー(経営理念)などを確認し、中期経営計画を作成するゴールの設定を行います。
なお、経営理念の作り方については、次の記事をご覧ください。
【関連記事】経営理念とは?意味や目的、作り方まで分かりやすく解説
手順② 内部環境分析
経営計画とは、将来の目標までのロードマップです。ロードマップを作成するには、まず、自社がどこにいるのかを正しく把握する必要があります。そのためには、自社内部の現状を分析しゴールまでの距離を測定しましょう。
内部環境分析では、自社の強みや弱み、従業員などの人的資源や組織力、会社の経営データを客観的に分析し、会社の武器(強み)と弱点を洗い出しましょう。
手順③ 外部環境分析
自社の周囲を取り巻く外部環境の分析を行います。
マーケットや競合他社の情報を収集し現状の外部環境を分析し、ビジネスチャンスやリスクを網羅的に把握します。
手順④ 分析結果の整理
内部環境・外部環境分析の結果を整理します。
代表的な分析結果の整理方法にSWOT分析方法があります。
SWOT分析では、内部環境分析から自社の強み(Strength)と弱み(Weakness)を整理し、外部環境分析から市場の機会(Opportunity)と脅威(Threat)を整理します。
Strength(自社の強み)
競合他社と比較してどんな点が勝っているかを分析します。
例えば、開発力やマーケティング、技術力などが当てはまります。
Weakness(自社の弱み)
自社が他の競合他社と比較して弱い点を分析します。
例として、知名度の低さや資金調達能力の低さなどがあげられます。
Opportunity(市場の機会)
市場のビジネス環境が自社にとって追い風になっているかどうかを分析します。
例えば、急激なIT化により消費者行動が変化し自社に有利に働くなどがあげられます。
Threat(脅威)
外部環境による自社へのビジネスリスクは何かを分析します。
例として、円安による安価な海外製品の流入などがあります。
SWOT分析をもとに、クロス分析を行います。自社の強み × 市場の機会を関連させて分析を行うことで、さらなる自社の強みに気付くことができます。
また、自社の弱み×脅威を分析することで、自社の改善点のヒントを得ることができます。
手順⑤ 中期的な戦略の策定
分析結果をもとにして「事業ドメイン」を決定します。
事業ドメインとは、自社の強みが発揮できる市場を新たに定義し、その市場での機会を新たに発見することを言います。
自社の強みを生かすことができ、弱みを回避することができる事業ドメインを考え、中期的な視点で戦略の策定を行います。
手順⑥ 数値目標の設定
策定した中期的な戦略をもとに具体的な数値目標を設定していきます。
目標を達成するためには「どの程度の期間で」「どのくらいの数値目標を達成するか」を明確にします。
そして、数値目標を達成するためにはどのような課題をクリアする必要があるかを具体的な行動プランに落とし込みます。
具体的な数値目標と行動プランを設定することで従業員への「見える化」が行われ、現場への中期経営計画の落とし込みに繋がります。
4.経営計画を実現させるには
マネージメント手法の1つにPDCAという方法があります。これは、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)というサイクルを行い、継続的に業務改善を図る方法です。
PDCAを中期経営計画に当てはめると、経営計画を作成することはPlan(計画)になります。経営計画を実現させるためには、計画を次のDo(実行)へ落とし込むことが重要です。
4-1.PDCAへの取り組み
作成した経営計画は、全社で共有して実行に移す必要があります。
各部署で中期経営計画に沿った行動プランの進捗状況をチェックし、常に会社の方向性を意識しましょう。
月1回などPDCA会議を行い、経営計画の実行状況や数値目標への達成度を確認することで経営計画の実現へ近づいていくでしょう。
4-2.短期経営計画の策定
短期経営計画、つまり単年度の予算を策定することは経営計画の実現へ繋がります。
中期経営計画の数値目標を細分化し、短期間の目標数値を分析して予算計画を作成します。
月次ベースで予算と実績の差異を比べることで、経営計画で予測することができなかった要因を発見することができます。
また、対策や改善を繰り返すことでより良い行動プランの作成に繋げることが可能です。
4-3.人事評価制度への反映
従業員の中期経営計画への取り組みを促進する方法に「人事評価制度へ反映」する方法があります。
経営計画の行動プランを実行できている従業員へプラスの人事評価を行うことで従業員のモチベーションを向上させ、さらに経営計画の実現へと近づくことができます。
ただし、会社の固有の人事制度や組織風土にどのくらい影響を与えるかを調査してから行わなければマイナスの影響を与えてしまうおそれがあります。
5.中期経営計画の問題点
中期経営計画の実行は、会社の経営にとって重要です。しかし、あまりにも中期経営計画に固執することで起こる問題があります。
5-1.コンピテンシートラップ
中期経営計画のように3~5年による収益向上を図るためには「効率化」を重視することになるため、現在利益をあげている事業を深掘りしていくことになります。この事業を深掘りしていくことを経営学では「知の深化」と言い、会社の成長に必要です。
また、会社の長期的成長には「知の探索」も必要になります。「知の探索」とは、既にあるもの同士を組み合わせて新しい製品やサービスを生み出すことを言います。
会社が中期経営計画により「知の深化」を重視するあまり「知の探索」が疎かになり、会社の成長やイノベーションが遅れる可能性があります。
これはコンピテンシートラップと呼ばれ、中期経営計画を重視する会社に多く見られる現象です。
5-2.現場の声が強くなる
中期経営計画では、長期経営計画とは異なり現場の声を反映するボトムアップ方式を取り入れるケースが多くあります。
現場の声は大事ですが、重視しすぎると目の前の課題を乗り越えることが目標になってしまうおそれがあり、長期的な視野で計画を行うことが困難になる可能性があります。
まとめ
今回は「経営計画の作り方とポイント」についてご紹介しました。
経営計画は会社にとって設計図であり、ロードマップでもあります。先のことを計画することは難しく、将来予期せぬことが起こる可能性もあるため、経営計画は必要ないと思われかもしれません。
しかし、経営計画をしっかりと作成することで、行き当たりばったりの経営判断ではなく、一貫性のある判断をすることができ、より理想的な会社に変わっていくことができます。
経営計画を作成するうえでのお悩みや疑問がある際には、上原会計事務所へお気軽にご相談ください。