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子供や兄弟など親族への事業承継は、事業承継のパターンとして最も多いですが、相続や個人保証の問題など、親族ならではの課題点も存在します。
ただ、親族への事業承継では、時間をかけて準備できるため、しっかりした対策を行えば、事業承継を成功させられる可能性も高いです。親族内の事業承継を成功させるために、課題点とやるべきことを整理していきます。
1.親族内の事業承継のメリット&デメリット
日本の会社の約95%以上が特定の親族が株を保有し、運営する同族会社です。同族会社の世代交代では、代表者の子供のなどの身内を後継者にする「親族内承継」が一般的であり、中小企業の約7割が親族内承継により世代交代を行っています。
1-1.親族内の事業承継のメリット
多くの中小企業が親族内承継を行う理由は、「子が親の後を継ぐ」という文化的な視点以外にも次のようなメリットがあるためです。
1-1-1.時間をかけて準備することができる
「自分の子を次の後継者にする」と早い段階から決めておけば、子に社内で営業や製造など様々な経験を積ませることができ、後継者本人が時間をかけて経験を積むことができます。
1-1-2.社員や取引先からの信頼を得られる
子などの親族が後継者になる方が、第三者が後継者になるよりも慣習的に受け入れられやすく、社員や取引先からの信頼を得られやすいでしょう。
1-1-3.制度的に事業承継が行いやすい
事業承継を行うためには、後継者を指名するだけではなく、安定した経営を行うために自社株式を後継者に移行させる必要があります。親族内承継では、生前贈与や相続により自社株式を移行することができ、事業承継税制の要件を満たすことで多額の相続税や贈与税が猶予されます。
1-2.親族内の事業承継のデメリット
親族内の事業承継はメリットだけではなくデメリットもあります。
1-2-1.経営者の資質があるとは限らない
現経営者の子に必ずしも経営者の資質が備わっているとは限りません。特に中小企業では会社の業績が経営者の資質に大きく左右されます。資質がない子が後継者になってしまうと経営判断を誤ってしまい、業績悪化や社員とのミスコミュニケーションに繋がってしまうおそれがあります。
1-2-2.親族内でトラブルが発生する可能性がある
後継者になる可能性がある親族が1人なら問題ありませんが、社内に複数の後継者になる可能性の親族がいる場合にはトラブルに発展する可能性があります。
例えば、経営者に長男と次男がおり、経営者の相続が発生した場合はどうでしょうか。後継者になる長男は「遺産分割により自社株式を全て相続したい」と主張し、次男は長男が後継者になることに納得しておらず「法定相続分により自社株式を相続したい」と主張した場合、遺産分割協議がまとまらずトラブルに発展してしまいます。
1-2-3.個人保証の問題
中小企業では、会社の借入金を経営者が個人保証しているケースがあり、後継者に会社を引き継ぐ際には後継者が個人保証を行わなければなりません。後継者に個人保証を行う十分な財産がない場合には、後継者への個人保証の変更が認められない可能性があります。
2.親族内の事業承継を成功させるためにやるべきこと
親族内の事業承継を成功させるためには、次の4つのことを重点的に行う必要があります。
2-1.後継者の育成と周知
親族内の事業承継は難しいことではないと思われがちですが、後継者を次の経営者にするための教育に十分な期間が必要です。後継者の経験値が不十分のまま事業を承継してしまうと事業に大きな支障をきたしてしまいますので、早めから後継者の育成を行いましょう。
また、社員や取引先などの関係者に後継者の周知を徹底しましょう。早めから周知を行うことで関係者と信頼を築きやすくなり、承継後も上手く付き合っていけるようになります。
2-2.後継者以外の親族への配慮
親族内の事業承継では自社株式を後継者に集め、経営を安定させる必要があります。自社株式は生前贈与や相続により後継者へ移行させるため、他の親族の理解と親族への配慮が必要です。後々トラブルにならないよう、遺留分に配慮した遺言書の作成や遺留分に関する民法の特例の適用などを検討してみましょう。
2-3.事業承継資金の準備
事業承継を行うためには資金を準備しておく必要があります。この資金とは、自社株式を後継者に集中させるための資金です。贈与や相続により自社株式を移行させる場合には、贈与税や相続税の納税が発生します。
自社株式の評価額は、会社の事業規模や純資産価額によって異なり、会社によっては自社株式の評価額がかなり高額になることもあります。高額な自社株式の贈与や相続を行うと高額な税負担を強いられることになります。
要件を満たすことで事業承継税制により納税猶予を受けることもできますが、事業承継税制はルールが細かく設定され、納税猶予取消しになってしまうと猶予された税金を一括納付しなければならないなど使いにくい制度になっています。
また、後継者が事業承継後に設備投資や販路開拓などを行う場合には、経済産業省の「事業承継・引継ぎ補助金」に応募することで資金調達が可能です。
2-4.個人保証の引継ぎ
事業承継では、後継者への個人保証の引継ぎができずに事業承継がなかなか進まないことがあります。事業承継を速やかに行うためには、個人保証の引継ぎについての対策を行う必要があります。有効な対策としては「事業承継特別保証制度」を活用する方法です。
事業承継特別保証制度は、定められた要件を満たすことで、事業承継時の個人保証の引継ぎを不要にする制度です。個人保証が不要になることで後継者の負担が少なくなり、速やかに事業承継を行うことができます。
3.自社株式の移転方法
親族内の事業承継には「自社株式の後継者への移転」が必要不可欠です。自社株式を後継者に移転する方法は3つあります。
3-1.①自社株式を生前贈与する
自社株式を段階的に生前贈与する方法です。一度に移転するわけではないため、一度に高額な資金を用意する必要はありません。年間110万円の基礎控除を利用し、長年をかけて自社株式の生前贈与を行う方法が一番確実で負担する資金が少なくなる方法です。
ただし、税制改正により2024年以降の贈与では、暦年課税の生前贈与加算が7年間になりますので、早い段階から生前贈与を行わなければ税金の負担を減らすことはできません。
3-2.②自社株式を相続する
経営者が亡くなり、相続により自社株式を移転する方法です。自社株式を一度に移転するため、自社株式の評価次第では多額の相続税が発生します。また、遺言書がない場合には誰が何を相続するかを遺産分割協議で決めなければならないため、後継者に賛成していない相続人がいる場合、遺留分などのトラブルが発生してしまう可能性があります。
3-3.③自社株式を売買する
経営者が後継者に自社株式を売却する方法です。経営者自身の意思で行うため、相続による移転に比べてトラブルが少なくなります。ただし、適正な計算により自社株式の株価を決定しなければ本来の株価と売却した金額の差額が贈与となってしまいますので注意が必要です。
4.事業承継計画書を作成しましょう
中小企業の事業承継には長い期間が必要です。行当りばったりではなく、事業承継計画を事前に検討し、事業承継計画書の作成を行いましょう。事業承継計画書を作成することで、後継者や他の親族と認識を共有することができ事業承継が進めやすくなります。また、事業承継計画書の作成は事業承継税制や事業承継特別保証制度を受けるための要件になっています。
事業承継は会社にとって経営者が変わる大きなイベントです。法律や税制も大きく関わってきますので、専門家に相談のうえ事業承継計画書を作成しましょう。
4-1.事業承継計画のサポート
当事務所では、経営と税制の両方の観点から、様々な業種の経営者様の事業承継をサポートさせていただいております。計画段階から実行に至るまでお客様に寄り添い、事業承継の成功を目指してまいります。弁護士や社労士とも提携しておりますので、事業承継に当たっての法的な課題や、労務面での問題にも対応可能です。ぜひご相談ください。