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創業する際に最初にぶつかる壁は「資金調達」です。自己資金で全て賄える事業であれば問題ありませんが、事業によっては機械や備品などの設備投資や運転資金に充てるために多くの資金が必要になり、自己資金では足りない場合があります。その際に強い味方になってくれる公的な制度が「新創業融資制度」です。
ここでは、新創業融資制度の2つの要件と手続きについてご紹介します。
1.新創業融資制度とは
新創業融資制度とは、公的金融機関である日本政策金融公庫が新規創業者を対象にした融資制度です。一般的な銀行などの金融機関は、決算書などの経営実績により融資審査を行うため、経営未経験者が創業資金を調達することは困難です。
しかし、日本政策金融公庫の新創業融資制度は経営未経験者でも応募することができ、審査を通過すれば手厚い支援を受けることができます。
1-1.融資を受けるための2つの要件
新創業融資制度を利用するためには、次の2つの要件を満たしている必要があります。
①創業の要件
「新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方」
新規創業者を対象にしているため、事業開始後2期以内の創業者が対象になります。事業後2期を過ぎてしまうと新創業融資制度の要件を満たさないため、一般融資での申し込みになります。
創業要件では2年ではなく2期になっていることに注意する必要があります。申請者が法人か個人かどうかで「事業開始後2期以内」の考え方が異なります。
申請者が法人であれば法人設立日から最初の決算日までが第1期となり、第1期の決算日から1年後までが事業開始後2期以内になります。
申請者が個人事業者の方であれば、12月31日を決算日として考えます。年の途中で開業した場合は、開業日から12月31日までが第1期となり、翌年12月31日までが事業開始後2期以内になります。
②自己資金の要件
「新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できる方」
創業資金総額とは、創業する事業のためにこれからかかる設備投資費用や経費などの総額のことを指します。機械代や仕入代、家賃、人件費などが該当します。これらの創業資金総額の1割以上の自己資金を保有していることが自己資金要件になります。融資を受ける金額の1割以上の自己資金ではなく、創業資金総額である点に注意しましょう。自己資金の要件では1割以上となっていますが、3割~4割の自己資金がないと審査を通過することが難しいと言われています。
自己資金の要件には例外的規定があります。「6年以上勤めている企業と同じ業種の事業を始める場合」や「産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める場合」には自己資金要件を満たしたものとして取り扱われます。詳しくはこちらをご覧ください。
【参照】日本政策金融機構:新創業融資制度の「自己資金の要件を満たすものとする要件」
1-2.資金の使いみち
新創業融資で得た資金は、新たな事業を始めるためにかかる費用と事業開始後に必要になる設備投資や運転資金にのみ使用することができます。
1-3.融資限度額
融資限度額は3,000万円になります。上限が3,000万円になる融資は「設備投資と運転資金」で申し込んだ場合です。運転資金のみの融資で申し込んだ場合の上限は1,500万円となります。
1-4.返済期間
返済期間は「各融資制度に定める返済期間以内」と定められています。これは、新創業融資制度は他の融資制度のオプションとして取り扱われるためです。新創業融資制度だけで申し込むのではなく、他の融資制度の上乗せとして申し込むため、返済期間はベースとなる融資制度が基準となります。新創業融資制度と組み合わせる融資制度には、次のようなものがあります。
融資制度 | 融資期間(うち据置期間) |
---|---|
一般貸付 | 設備資金:10年以内(2年以内) 特定設備資金: 20年以内(2年以内) 運転資金: 7年以内(1年以内) |
新規開業資金 | 設備資金:20年以内(2年以内) 運転資金: 7年以内(2年以内) |
女性、若者/シニア起業家支援資金 | 設備資金:20年以内(2年以内) 運転資金: 7年以内(2年以内) |
再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資) | 設備資金:20年以内(2年以内) 運転資金: 7年以内(2年以内) |
新事業活動促進資金 | 設備資金:20年以内(2年以内) 運転資金: 7年以内(2年以内) |
1-5.利率
利率は借入期間などにより異なり、基準になる利率は一定期間で見直しが行われます。
無担保・無保証人(税務申告を2期終えていない方)の場合の利率
(令和4年10月3日現在)
基準利率 | 2.28~3.25% |
---|---|
特別利率A | 1.88~2.85% |
特別利率B | 1.63~2.60% |
特別利率C | 1.38~2.35% |
特別利率D | 1.63~2.30% |
特別利率E | 0.88~1.85% |
特別利率J | 1.23~2.20% |
特別利率P | 2.08~2.75% |
特別利率Q | 1.88~2.85% |
1-6.担保と保証人
新創業融資制度の一番の特徴は、法人で融資を受ける場合に限り「無担保・無保証人」である点です。一般的に法人が融資を受ける場合は、代表者が連帯保証人にならなければなりませんが、新創業融資制度は無担保・無保証人であるため代表者に責任がおよぶことはありません。
ただし、代表者が連帯保証人になることもでき、その場合は利率が0.1%低減されます。
法人ではなく個人で新創業融資を受ける場合については、借り入れる人と連帯保証人を区分することはないため、無担保・無保証人のメリットを得ることができません。
2.新創業融資の申込方法と手続きの手順
新創業融資を申し込む場合は次の手順で行います。
手順①融資の相談
最初に新創業融資制度の要件を満たしているかどうか日本政策金融公庫に相談しましょう。日本政策金融公庫では「事業資金相談ダイヤル(0120-154-505)」を開設しており、これから創業を考えている人、または創業して間もない人を対象にした「創業ホットライン」のサービスを提供しています。
手順②必要書類の作成
新創業融資制度を申し込むためには「借入申込書」と「創業計画書」の作成が必要です。書類は日本政策金融公庫のホームページから取得することができます。記入例も用意されていますので、記入例を参考に作成しましょう。各書類には次のような項目を記入します。
・借入申込書
借入申込書には借入者の住所や氏名、家族の状況と借入申込金額を記入します。借入申込金額は運転資金と設備資金に分かれており、設備資金で借入を行う場合は設備の見積書が必要になります。
・創業計画書
創業計画書にはこれから行う事業の詳細を記入していきます。設備資金や運転資金をどのように使い、どのように返済していくのかが簡潔に分かる創業計画書を作成しましょう。売上計画と経費を算出し、毎月どのくらい返済できるかを明確に示すことで融資審査を通過しやすくなります。日本政策金融公庫のホームページには、各事業別の記載例が用意されています。
手順③申し込み
新創業融資の申し込みは、最寄りの支店に出向いて申し込む方法と郵送で申し込む方法があります。申し込みに必要な書類は、次項の「必要書類」をご覧ください。
手順④担当者と面談
申し込みが受理されると融資審査の担当者から面談の連絡があります。面談では融資担当者に事業計画やその実現性、創業への熱意などをプレゼンテーションし、担当者の心を掴むことが重要です。創業する事業をよく調査し、成長性やリスクなどを理解しておきましょう。
手順⑤融資契約
面談の結果、融資審査を通過することができれば融資契約へと進みます。融資契約書が届くので必要事項を記入し提出します。
手順⑥融資の実行
融資契約が完了すると指定した口座に入金されます。
3.必要書類
3-1.申込時に必要になる書類
新創業融資の申し込みには、次の書類が必要になります。見落としが無いように注意しましょう。
借入申込書
<借入申込書の添付書類>
- 設備資金の場合は設備の見積書
- 企業概要書
- 申告決算書(個人の場合)
- 確定申告書・決算書(法人の場合)
- 履歴事項全部証明書または登記簿謄本(法人の場合)
- 最近の試算表(法人の場合)
※創業していない場合には、申告書や決算書などは必要ありません。
創業計画書
<創業計画書の添付書類>
- 月別収支計画書
3-2.面談時に必要になる書類
融資担当者との面談時には事業をもっと良く知るために追加で資料を要求される場合があります。次のような資料を用意しておくといいでしょう。
資金を証明するもの
要件の1つである自己資金の要件を確認するために必要になります。具体的には、預金通帳や有価証券など自己資金が分かるものになります。
ローンの残高状況の分かるもの
住宅ローンや自動車ローンなどがある場合は、残高が分かるものが必要になります。
固定資産税評価証明書または課税明細書
所有する不動産がある場合に提出します。
店舗などの賃貸借契約書
店舗や事務所を既に借りている場合に必要です。契約が済んでいない場合は予約契約書を提出します。
源泉徴収票
前職または現在勤務している会社が発行した源泉徴収票の提出が必要です。
本人確認書類
運転免許証やマイナンバーカードなど本人が確認できる書類が必要です。
4.創業で困ったら
新たに事業を創業する場合は、希望とともに不安を感じる方も少なくないのではないでしょうか。
「実現できるか分からない」「何から始めていいか分からない」などの不安がある方に向けて、当事務所オリジナルのリーフレット「創業ノート」をプレゼントします。
ご希望の方は、こちらのリンク先より、ダウンロード可能です。
当会計事務所においても創業計画書の作成支援から融資手続きのサポートまで承っており、皆様の創業を応援しています。
まとめ
今回は「新創業融資制度」についてご紹介しました。
創業時に必要な資金調達ができるかどうかは、今後の事業展開に大きく左右します。しっかりしたビジネスプランを立て、融資担当者の心を掴むことで融資を得ることが創業する上で重要です。
当会計事務所では、夢に向かって創業される方のために様々なサポートを行っております。創業に不安を抱えている方や悩まれている方のお手伝いをさせていただきますので、お気軽にご相談ください。
新創業融資制度に関するFAQ
新創業融資の対象者は?
新たに事業を始める方、または、事業開始後税務申告を2期終えていない方です。
新創業融資では、いくらまで借りれますか?
設備投資と運転資金の両方の融資で申し込んだ場合は、融資限度額は3,000万円です。運転資金のみの融資で申し込んだ場合は、融資の上限は1,500万円です。
新創業融資では、自己資金は必要ですか?
新たに事業を始める方、または。事業開始後税務申告を1期終えていない方は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金が必要です。借りる金額ではなく、創業資金総額の1割以上であることにご注意ください。