「相続時精算課税制度」とは、生前贈与の方法の1つで、2,500万円まで贈与税が非課税となる制度です。 2,500万円…[続きを読む]
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2023年の税制改正で、相続時に加算の必要がない「年110万円の基礎控除」が新設され、節税対策として注目をあびている「相続時精算課税制度」。しかし、申告を忘れてしまうと非常に大きい税負担が発生するおそれがあります。
ここでは「相続時精算課税制度を選択した際に、申告を忘れてしまった場合のリスク」について詳しく解説します。
1.相続時精算課税制度の申告期限
相続時精算課税制度は、贈与税の計算方法の1つであり、適用初年度に贈与税申告書と併せて「相続時精算課税選択届出書」を提出することで適用することができます。
相続時精算課税制度は、要件を満たすことで最大2,500万円の特別控除が利用でき、累積の贈与額が特別控除額を超えるまで何回でも控除が利用できる制度です。ただし、相続時精算課税制度による贈与額は、相続時に相続財産に加算されます。
2023年の税制改正により、相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除が新設され、原則的な方法である「暦年課税制度」よりも有利になる可能性があるとして注目されています。
相続時精算課税制度を利用した贈与税申告書の提出期限は、通常の贈与税申告書の提出期限と同じであり、原則的に「贈与を受けた翌年の3月15日」までになります。
2.相続時精算課税制度の申告忘れをするとどうなる?
相続時精算課税制度を適用する場合、提出期限までに申告を行わなければ非常に大きな税負担が発生する場合があります。
適用しようとした初年度と選択後2年目以降では取り扱いが異なりますので、それぞれどのようなリスクがあるのかを見ていきましょう。
2-1.初年度の贈与税申告書の提出を忘れた場合
相続時精算課税制度を選択するには、贈与税申告書と併せて「相続時精算課税選択届出書」と受贈者の戸籍謄本や戸籍の附票、贈与者の住民票などの添付書類を「提出期限まで」に提出しなければなりません。
贈与税申告書と相続時精算課税選択届出書の提出を期限までに行っていなければ、相続時精算課税制度を利用することはできず、その贈与は暦年課税制度を利用したものとして贈与税が計算されます。
具体例
評価額が2,500万円の不動産を祖父から孫へ贈与した場合を見てみましょう。申告期限までに贈与税申告書と選択届出書を提出していた場合、2,500万円の特別控除が利用できるため、贈与税額は0円になります。ただし、祖父が亡くなった際に贈与額が相続財産に加算されます。
一方、期限までに贈与税申告書と選択届出書の提出を行っていなかった場合は、暦年課税制度が適用されることになり、高額な贈与税の負担が生じてしまいます。ただし、相続時にこの贈与額の加算はありません。
贈与税の負担額
上記の場合、どれくらいの贈与税額の負担が生じるか計算してみましょう。
暦年課税制度における贈与税額
(贈与額2,500万円-基礎控除110万円)×贈与税率45%=810万5,000円 |
相続時精算課税制度を利用する前提で行った贈与であったのにも関わらず、提出を忘れてしまうと810万5,000円の贈与税の負担が生じることになります。
また、申告期限を過ぎた申告になるため、さらに加算税や延滞税が課されます。
2-2.2年目以降の相続時精算課税制度の贈与税申告を忘れた場合
相続時精算課税制度は、一度選択すると同じ贈与者からの贈与については翌年以降も強制適用になります。
例えば、初年度に1,500万円の贈与、2年目に1,000万円の贈与が行われた場合、2年目についても相続時精算課税による贈与税の申告を提出期限までに行わなければなりません。
もし、2年目の申告期限に間に合わなければ特別控除を利用することはできません。
特別控除が利用できなければ、贈与額全てに一律20%の贈与税が課税されることになり、贈与税の負担が生じます。ただし、この贈与における贈与額は相続時に相続財産に加算され、納付した贈与税額は相続税から差し引くことができます。
贈与税の負担額
初年度に1,500万円の贈与、2年目に1,000万円の贈与が行われた場合に、2年目の贈与税申告書を期限内に行っていない場合は、次の計算により贈与税が計算されます。
期限後の相続時精算課税制度における贈与税額
贈与額1,000万円×(贈与税率一律20%)=200万円 |
初年度に相続時精算課税制度の選択が成立しており、上記の贈与税額は相続財産に加算され、贈与税額は相続税額から控除されることになるため、総合的に見ればプラスマイナスゼロになります。しかし、期限後申告には加算税や延滞税が課されることになり、このペナルティ部分は控除することができず、実質的に負担増となってしまいます。
年110万円以下の贈与は申告不要
相続時精算課税制度を選択している場合、従来は対象の贈与者からの贈与は1円であっても贈与税の申告が必要でしたが、改正により110万円の基礎控除が新設され、2024年1月1日以後の贈与について適用されます。
対象者からの贈与であっても、基礎控除(年110万円)は特別控除(2,500万円)の対象とはならず、相続時に相続財産に加算されることもありません。また、贈与税申告の必要もありません。
3.贈与税申告を忘れた場合に課されるペナルティ
贈与税申告を忘れていた場合「無申告加算税」と「延滞税」が課されます。課税を免れようとして意図的に申告しなかった場合については最も重い「重加算税」が課されます。それぞれどのようなペナルティになるのかを見ていきましょう。
3-1.無申告加算税
申告期限が過ぎて贈与税の申告を行うと無申告加算税が課されます。無申告加算税は「自主的に申告した場合」「税務調査の事前通知を受けてから調査までに申告した場合」「税務調査を受けて申告した場合」で税率が異なります。
令和6年以降
贈与税額 | 自主的に申告した場合 | 税務調査の事前通知を受けてから調査までに申告した場合 | 税務調査を受けて申告した場合 |
---|---|---|---|
50万円以下 | 5% | 10% | 15% |
50万円超え300万円以下 | 15% | 25% | |
300万円超 | 25% | 30% |
※過去5年以内、前年・前々年に同じ税目で無申告加算税または重加算税が課されている場合は10%の税率が加算される場合があります。
※贈与税額が300万円超で納税者の責めに帰すべき事由がないと認められる場合は、50万円超え300万円以下の税率が課されます。
3-2.延滞税
延滞税は、贈与税の納税が遅れたことによるペナルティです。申告書提出日の翌日から実際に贈与税を納付した期限に基づいて延滞税が算出されます。
令和6年1月1日~令和6年12月31日の場合
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3-3.重加算税
隠蔽・仮装した場合に課される最も重いペナルティです。無申告の場合は贈与税額の40%が課され、過去5年以内に同じ税目で無申告加算税や重加算税を課されている場合は、さらに10%加算されます。
4.相続時精算課税制度をご利用の際は当事務所にご相談を
相続時精算課税制度は、生前からの節税対策として有効な方法ですが、内容が複雑であり、初年度に申告を忘れてしまうと非常に大きい税負担が発生し、ペナルティも大きなものになります。
相続時精算課税制度を利用する際は、事前に専門家に相談し、必ず申告を忘れないようにしましょう。
当事務所では、相続時精算課税制度の申告代理から、生前贈与による相続税対策まで幅広く対応しています。相続時精算課税制度をご利用の際には、お気軽にお問い合わせください。