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相続時精算課税制度とは?|その仕組みメリット・デメリットについて

「相続時精算課税制度」とは、生前贈与の方法の1つで、2,500万円まで贈与税が非課税となる制度です。

2,500万円まで非課税と聞けば、使うに越したことはないと思われるかもしれません。しかし、適用を受けるためには要件を満たさなければならず、メリット・デメリットもあります。また、税制改正により、2024年以降からは、新たな仕組みも追加されます。

そこで、今回は相続時精算課税制度についてご紹介いたします。

なお、相続時精算課税の必要書類や、申告方法についてお知りになりたい方は、是非次の記事をご一読ください。

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1.相続時精算課税制度とは

1-1.現行の相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は、60歳以上の両親や祖父母などの直系尊属から、20歳以上の子や孫などへの贈与について適用することができ、贈与額2,500万円までは贈与税が非課税となる制度です。
2,500万円を超えた場合には、超えた金額に一律20%の贈与税がかかります。

また、相続時精算課税制度の適用は、贈与の状況に応じて、父からの贈与については相続時精算課税制度を適用し、母からの贈与については適用しないというように贈与者ごとに自由に選択することができます。ただし、一度選択すると暦年贈与には戻せません

さらに、相続時精算課税制度は、その名称通り、相続時に精算して、贈与したすべての額に相続税が課税されるのがポイントとなります(2,500万円を超えた部分について支払った贈与税があれば、相続税から差し引きます)。

つまり、現在の相続時精算課税制度を利用すると、2,500万円までの贈与には贈与税を支払わずに済む一方で、贈与者の相続が発生すると、相続税となって受贈者に課税される仕組みとなっています。

1-2.相続時精算課税制度の適用要件

相続時精算課税制度の適用を受けるためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。

【贈与者】

  • 贈与をする年の1月1日時点において60歳以上であること

【受贈者】

  • 贈与を受ける年の1月1日時点において20歳以上であること
  • 贈与者の直系卑属である推定相続人(子またはその代襲相続人)または孫であること

【贈与財産】

  • 財産の種類、金額、贈与の回数に制限はありません。

2.相続時精算課税制度改正のポイント

令和5年の税制改正により、2024年1月1日から、相続時精算課税制度にも、贈与税の基礎控除が新設されます。

2-1.贈与税の基礎控除の新設

税制改正により、2024年1月1日から、相続時精算課税制度に年間110万円の贈与税の基礎控除が新設されます。

新たな相続時精算課税制度の下では、年間110万円までの贈与については贈与税が非課税になるほか、相続税も課税されず、さらに贈与税の申告も不要です。

改正後の相続時精算課税制度を選択すれば、贈与者が亡くなっても、相続税の課税価格に持ち戻す(加算する)贈与額から年間110万円までを控除した残額となるのです。

税制改正で相続時精算課税制度に追加される基礎控除のポイント

  • 年間110万まで贈与税がかからない贈与税の基礎控除の新設
  • 基礎控除内の贈与には、贈与税の申告が不要
  • 基礎控除内の贈与には、相続税もかからない

2-2.暦年贈与の持ち戻し期間は3年から7年へ

一方で、贈与をした際に、相続時精算課税を選択しなければ、税務上、暦年贈与として扱われます。

暦年贈与には、贈与者が亡くなる前一定期間内に行った贈与を、相続税の課税対象とする生前贈与加算」という制度が存在します。現在この生前贈与加算の期間は3年ですが、2024年1月1日の贈与から、7年に延長されます。ただし、段階を踏んで延長されるため、実質7年の延長に至るのは、2031年1月以降の相続からになります。

このように、税制改正によって、相続時精算課税には基礎控除が新設され、暦年贈与の生前贈与加算の期間が延長されるため、相対的に相続時精算課税精度が利用しやすくなります。

ただし、どちらを利用すれば有利かは、ケースバイケースです。相続時精算課税と暦年贈与とのどちらを選択するかは、専門家に相談することをお勧めします。

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3.相続時精算課税制度のメリット

相続時精算課税制度には、メリットもデメリットも存在します。

まずは、メリットからご紹介します。

3-1.2,500万円まで贈与税なしで贈与が可能

例えば、暦年贈与で2,500万円の財産を贈与すると、以下のように大きな贈与税がかかります。

(贈与額25,000,000円 - 基礎控除額1,100,000円)× 45% - 2,650,000円 = 贈与税額8,105,000円(※)

※特例税率を使用

これに対して相続時精算課税制度の非課税枠は2,500万円です。多額の財産を一気に贈与しても贈与税が課税されない、または負担を抑えることができます

【特例贈与財産用】(特例税率)

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1000万円以下 30% 90万円
1500万円以下 40% 190万円
3000万円以下 45% 265万円
4500万円以下 50% 415万円
4500万円超 55% 640万円

【出典サイト】No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|相続税 |国税庁

さらに、暦年贈与では、特例税率の場合(※)、基礎控除後の課税価格が年間600万円を超えると贈与税率が30%となり、課税価格によって税率が上昇しますが、相続時精算課税制度では2,500万円を超える部分については一律20%の贈与税率となっており、税率を低く抑える効果もあります。

※暦年贈与の贈与税率には、「一般贈与財産(一般税率)」と「特例贈与財産(特例税率)」の2つがあり、特例税率が適用されるのは、直系尊属(祖父母や父母など)から、その年の1月1日において18歳以上の者(子・孫)などへの贈与となっています。一般税率は、特例税率が適用されない贈与に使われる税率です。

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3-2.値上がりが見込まれる財産を贈与すれば相続税の節税できる

相続時精算課税制度の適用を受けた贈与財産を、相続税の計算時に相続財産に加算する際の金額は、「贈与時の価格」です。

贈与時よりも相続時の方が、財産価値が高くなると予想される財産を生前贈与しておくことで、値上がり分の相続税を節税することができます。

3-3.早期に財産を受贈者に移転できる

相続時精算課税制度の設立の目的は、父母や祖父母から子や孫へ財産を移転し、消費を拡大することにあります。

2,500万円まで贈与税が非課税となることから、より大きな額の財産を一括贈与することができます。

4.相続時精算課税制度のデメリット

ただし、相続時精算課税制度には、次のようなデメリットも存在します。

4-1.贈与財産が値下がりすると相続税の負担が大きくなる

前述の通り、相続財産に加算して相続税の計算のもとになる金額は「贈与時の価格」です。贈与財産が相続開始時に値下がりしていると、値下がり分ほど余分な相続税を支払うことになってしまいます。

贈与せずに相続した方が、値下がりした財産価格が相続財産になり有利となります。

ただし、これは相続時精算課税制度に限らず、生前贈与をする際に発生するリスクです。

4-2.小規模宅地等の特例の適用が受けられなくなる

小規模宅地等の特例とは、被相続人が使用していた宅地等で一定要件を満たすものについては、その評価額を最大8割減額することができる制度です。

ただし、相続時精算課税制度の適用を受けた宅地等には、この節税効果の大きい小規模宅地等の特例を適用することができません

例えば、被相続人の自宅土地2,500万円に小規模宅地等の特例を適用すると、その評価額は、500万円になります。

2,500万円×(1-80%)=500万円

この土地を相続時精算課税制度の適用を受けて生前贈与してしまうと、相続財産に加算される金額は2,500万円そのままとなってしまい、非常に大きな損失となってします。

なお、小規模宅地等の特例については、以下の記事をご参照ください。

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5.相続時精算課税を選択すべきケース

ご紹介してまいりました通り、相続時精算課税制度にメリットとデメリットの両方があります。ご理解いただいたうえで、適用を検討しなければなりません。

そこで最後に、相続時精算課税制度の適用を受けた方が有利となる可能性が高いケースをご紹介いたします。

5-1.相続税がかからないケース

相続時精算課税制度を適用した贈与財産が相続財産に加算されたとしても、相続財産が基礎控除の額以下であり相続税がかからない場合には、2,500万円以下の贈与を行っても贈与税は非課税となり、さらに、相続税もかかりません。

相続時精算課税制度のメリットのみを受けることができます

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5-2.高収益の収益物件があるケース

収益物件を所有する場合には、相続税の計算時に賃貸収入まで相続財産として参入されます。しかし、生前贈与をすれば、賃貸収入も受贈者に移転し相続税がかかることはないため、賃貸収入が高額になるほど、相続財産を圧縮する効果が大きくなります。かといって、収益物件を暦年贈与の基礎控除枠を使って贈与すると、贈与の回数を重ねなければならない、毎回贈与契約をしなければならない、生前贈与加算されるリスクがあるなどのデメリットがあります。

一方、相続時精算課税制度の適用を受ければ、2,500万円までは贈与税の負担なく一括贈与することができ、贈与後から相続発生までの賃貸収入が被相続人に蓄積されずに済みます。ただし、前述した通り、相続時精算課税制度を利用すると、小規模宅地等の特例を適用することはできません。

しかし、限度面積を超える収益物件を所有する方や、毎月発生する収益が多い方は、相続税を節税できる可能性があり、一度、相続時精算課税制度を利用した場合のシミュレーションをしてみることをお勧めします。

5-3.自社株式を保有するケース

被相続人が中小企業のオーナー社長である場合、所有している自社株式は相続財産となります。自社株式の評価額は会社の評価額です。したがって、業績好調で伸びている状況では、自社株式の評価額も年々増大していることになります。

特に同族会社のオーナー社長であれば、ご自分に退職金を支給することなどで、ある程度会社の評価額を下げることも可能であり、自社株式の評価が下がったタイミングを狙って贈与すると、より高い節税効果を生むことができます。

まとめ

税制改正によって2024年以降の相続時精算課税制度にも贈与加算の基礎控除が新設されます。このことから、相続時精算課税制度を利用しやすくなることは確かでしょう。

ただし、暦年贈与と相続時精算課税制度いずれを選択すると有利になるかは、ケースバイケースです。専門家に相談することをお勧めします。

上原会計事務所では、シミュレーションを行って、どちらを選択すると有利になるかをアドバイスすることが可能です。ぜひ一度、ご相談ください。

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