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「子供や孫がマイホームを購入するので資金援助をしたい。」と考えられるご両親・ご祖父母は多いかと思います。しかし大きなお金を無償で渡してしまいますと、それは贈与になり贈与税がかかってしまいます。
そこでこの住宅取得等資金贈与の非課税制度の出番になります。この制度を利用することで、贈与税がかかることなく多額の住宅取得等資金を援助することができるのです。2022年の税制改正大綱により、この制度の適用期間が、2023年の12月31日まで延長されることが公表されています。
今回は、住宅取得等資金贈与の非課税制度について変更点も含めて詳しくご紹介いたします。
1.住宅取得等資金贈与の非課税制度
住宅取得等資金贈与の非課税制度は、直系尊属(両親や祖父母など)から成人(2022年4月1日から18歳以上に引き下げられます)の子や孫に住宅を新築・取得・増改築のための金銭を贈与する場合に適用できる制度です。
非課税になる金額は住宅取得の契約締結日や住宅の性能などに応じて異なり、500万円から3,000万円まで設定されています。
仮に1,000万円の贈与を受けて暦年贈与で課税されたとすると、177万円の贈与税がかかります。これが0もしくは大幅に減額できるのです。
➀ ②以外の場合
住宅の新築等に係る契約の締結日 | 省エネ等住宅※ | 左記以外の住宅 |
---|---|---|
~2015年(平成27年)12月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
2016年(平成28年)1月1日 ~2020年(令和2年)3月31日 |
1,200万円 | 700万円 |
2020年(令和2年)4月1日 ~2021年(令和3年)12月31日 |
1,000万円 | 500万円 |
② 消費税10%で購入した場合
住宅の新築等に係る契約の締結日 | 省エネ等住宅※ | 左記以外の住宅 |
---|---|---|
2019年(平成31年)4月1日 ~2020年(令和2年)3月31日 |
3,000万円 | 2,500万円 |
2020年(令和2年)4月1日 ~2021年(令和3年)12月31日 |
1,500万円 | 1,000万円 |
税制改正大綱の見直しに伴う2022年1月1日からの非課税限度額は、以下の通りです。
③2022年1月1日(令和4年1月1日)~2023年12月31日(令和5年12月31日)までの贈与
省エネ等住宅※ | 一般の住宅 |
---|---|
1,000万円 | 500万円 |
※省エネ等住宅とは、省エネ等基準に適合している住宅であることについて、住宅性能証明書などを贈与税の申告書に添付することにより証明されたものをいいます。
【参考サイト】No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税|国税庁
2.住宅取得資等金贈与の非課税制度の要件
住宅取得等資金の非課税制度は、次の要件のすべてに該当する場合に適用を受けることができます。
2-1.贈与者の要件
- 受贈者の直系尊属であること
直系尊属とは例えば、受贈者の両親や祖父母、曾祖父母になります。
配偶者の父母など義理の関係にある場合には該当しません。ただし、養子縁組をしている場合には直系尊属に該当し、適用対象になります。
2-2.受贈者の要件
- 贈与者の直系卑属であること
- 贈与を受けた年の1月1日時点において20歳以上であること
(令和4年4月1日以降は18歳以上) - 贈与を受けた年の所得が2,000万円以下であること
- 贈与を受けた時点に日本国内に住所を有していること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与を受けた住宅取得等資金の全額を使って住宅を取得すること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、その住宅に居住すること又は同日後遅滞なく居住することが確実であると見込まれること(※)
- 配偶者、親族などの一定の特別の関係がある人から住宅を取得していないこと、またはこれらの人との請負契約等により取得していないこと
- 2009年(平成21年)分から2014年(平成26年)分までの贈与税の申告で「住宅取得等資金の非課税」の適用を受けていないこと
※贈与を受けた年の翌年12月31日までに居住しなかった場合には、特例の適用を受けることができません。既に適用を受けた申告をしている場合には、修正申告が必要になります。
2-3.住宅の要件
住宅に関する要件は、新築や中古住宅などを購入した場合と、増改築をした場合に分かれます。
なお、税制改正大綱の見直しによると、以下の要件のうち中古住宅取得の際の築年数要件は廃止され、昭和57年1月1日以降の家屋については、新耐震基準に適合しているとみなされます。
新築・中古住宅取得の場合
- 日本国内にある住宅用家屋であること
- 住宅用家屋の登記簿上の床面積が40㎡以上240㎡以下であること
- 床面積の1/2以上が受贈者の居住用に使用されていること
- 取得した住宅が次のいずれかに該当していること
- 建築後誰にも使用されていないもの
- 中古住宅は築20年以内(鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造などの耐火建築物の場合は築25年以内)のもの
- 中古住宅で地震への安全性が基準に適合するものであることについて、一定の書類により証明されたもの
- 2.、3.に該当しない中古住宅で、購入後に耐震改修工事を行い、かつ、贈与を受けた年の翌年3月15日までにその耐震改修によりその住宅が耐震基準に適合することとなったことについて一定の証明書等により証明がされたもの
増改築等の場合
- 日本国内にある住宅用家屋であること
- 増改築後の住宅用家屋の登記簿上の床面積が40㎡以上240㎡以下であること
- 床面積の1/2以上が受贈者の居住用に使用されていること
- 増改築等工事が行われる住宅用家屋が受贈者所有のものであり、かつ、居住している家屋に対して行われたものであることが、「確認済証の写し」、「検査済証の写し」又は「増改築等工事証明書」などの書類により証明されたものであること
- 増改築等にかかる費用が100万円以上であること
- 増改築等費用の1/2以上が、受贈者の居住用部分に使われていること
2-4.2023年末まで延長されることに伴う適用要件などの変更点
税制改正大綱による変更点をまとめると以下の通りとなります。
- 適用:令和4年1月1日の贈与から
- 非課税限度額の縮小
- 受贈者の要件:贈与を受けた年の1月1日現在で「18歳以上」(令和4年4月1日以降)
- 中古住宅を購入する際の住宅の築年数要件を廃止
- 昭和57年1月1日以降の家屋については、新耐震基準に適合しているとみなす
4.適用を受けるための手続方法と必要書類
住宅取得等資金贈与の非課税制度の適用を受けるためには、どのような手続きが必要なのでしょうか。またその際に必要になる書類をご紹介いたします。
4-1.贈与税の申告が必要
住宅取得等資金贈与の非課税の適用を受けるためには、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、贈与税の申告書に次の必要書類を添付して税務署に提出しなければなりません。
制度の適用を受けると贈与税が0になる場合であっても申告は必要です。申告がなければ制度の適用を受けることができません。
4-2.必要書類
- 住宅取得等資金贈与の非課税の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書
- 戸籍謄本
- 登記事項証明書
- 新築や取得の契約書の写し
この他にも贈与の内容に応じて必要になる書類が出てくる場合があります。その際には税務署より連絡がありますので、速やかに提出してください。
5.他の贈与税の制度と併用できる
住宅取得等資金贈与の非課税制度は、他の非課税制度と併用することができますので、上手に組み合わせることで更なる節税に繋げることができます。
5-1.併用できる制度
住宅取得等資金贈与の非課税制度は、暦年贈与や相続時精算課税制度との併用ができます。
住宅取得等資金贈与の非課税制度の適用を受けても贈与税がかかる場合には、検討されると良いと思います。
5-2.暦年贈与の場合
暦年贈与には年間110万円の基礎控除額があり、これを住宅取得等資金贈与の非課税限度額と組み合わせることができます。
例えば、住宅取得等資金贈与の非課税限度額が1,000万円の場合に暦年贈与と組み合わせると1,110万円まで贈与税がかからなくなります。
暦年贈与は通常の贈与方法であり適用を受けるための要件はなく、誰でも110万円の控除を受けることができます。
【関連記事】贈与税とは?|どんな時にかかる?非課税枠は?わかりやすく解説
5-3.相続時精算課税制度の場合
相続時精算課税制度には2,500万円の非課税枠があり、住宅取得等資金贈与の非課税限度額が1,000万円の場合には、3,500万円まで贈与税がかかりません。
相続時精算課税制度には適用要件がありますが住宅取得等資金贈与の非課税制度と似ており、60歳以上の直系血族(両親や祖父母など)から、成人の子や孫に対する贈与について適用を受けることができますので、ほとんどの場合で併用できるかと思います。
ただし相続時精算課税制度は2,500万円まで贈与税はかかりませんが、その代わりに贈与者の相続時に相続財産に加算され相続税が課される制度です。
場合によっては相続税の負担が増大してしまい、相続時精算課税制度の適用は受けずに贈与税を支払った方が有利だったということも考えられますので、適用の際には綿密な計画が重要になります。
【関連記事】相続時精算課税制度とは?|その仕組みメリット・デメリットについて
5-4.所得税の住宅ローン控除とも併用できる
住宅ローン控除は住宅ローンを組んで住宅を購入した場合に適用できる制度で、住宅ローンの年末残高と取得対価のいずれか少ないほうの金額の1%が所得税から控除できます。
住宅取得等資金の贈与を受けつつ住宅ローンも組んだ場合には、忘れずに適用を受けてましょう。
6.住宅取得等資金の贈与を共有名義で利用するときのポイント
住宅を共有名義で取得する場合であっても、住宅取得等資金贈与の非課税制度は適用することができます。
一般的なのは夫婦で共有名義にするケースですが、夫と妻がそれぞれ自己の親から資金援助を受けた場合、それぞれで住宅取得等資金贈与の非課税制度を適用することができ、仮に最大1,000万円の非課税限度額であった場合には、夫婦あわせて2,000万円までの贈与が非課税で行えるのです。
ただし、留意すべき点もありますのでご紹介いたします。
6-1.適用対象は直系尊属からの贈与に限られる
住宅取得等資金贈与の非課税制度を受けられるのは直系尊属からの贈与に限ります。
義理の親や祖父母から贈与を受けた資金については、適用の対象外になります。妻の親が贈与をする場合には、夫ではなく妻が受贈者になってください。
6-2.共有名義の持ち分比率
不動産を共有名義で登記する場合には、持ち分の割合も決めなければなりません。
これを「夫婦だから50%ずつだ。」などと安易な決め方をしてしまうと、資金負担が多いほうから少ないほうへの贈与があったとみなされて、贈与税が発生する恐れがあります。
割合は、「自己資金 + 贈与を受けた金額 + 住宅ローン」で夫婦それぞれが負担した資金の割合で決めるようにしてください。
6-3.贈与税の申告は受贈者がそれぞれ行う
「3.適用を受けるための手続方法と必要書類」でご紹介させていただきました通り、住宅取得等資金贈与の非課税制度の適用を受けるためには贈与税の申告をしなければなりません。
適用を受ける受贈者ごとに行う必要があります。夫と妻それぞれで申告をしてください。
7.住宅取得等資金贈与の非課税制度の落とし穴
住宅取得等資金贈与の非課税制度は非常にメリットが大きい制度ですが、この制度の適用を受ける前にご検討いただきたい点についてご紹介いたします。
7-1.小規模宅地等の特例が使えなくなる可能性
将来、贈与者の相続が発生した際には、贈与者が所有している自宅の土地については、その相続税評価額を8割減額することができる小規模宅地等の特例というものがあります。
この特例の適用を受けることができるのは配偶者か同居親族ですが、それらがいない場合には、3年以上自分の持家に住んでいない別居親族も適用を受けることができます。これを通称で「家なき子特例」といいます。
住宅取得等資金を贈与して住宅を取得してしまうと、家なき子特例の適用はできなくなりますので、自宅土地は100%評価となり大きな相続税負担が発生する恐れがあります。
【関連記事】土地の相続税対策に欠かせない小規模宅地等の特例とは?
7-2.資金援助は税務署に見通されている
「資金援助を行っても税務署に発覚することはないのでは?」と考える方がいらっしゃるかもしれませんが、現実はすぐにばれてしまいます。
税務署は富裕層については財産の動きを常に見張っています。銀行口座など職権により簡単に見られてしまうのです。
また住宅を取得した際には登記をしますが、税務署はこの登記簿謄本については特に目を光らせています。30代の一般的な年収のサラリーマンが抵当権なしに5,000万円の住宅を購入したとなると、まず親からの資金援助を疑います。
このように税務署はあらゆる面からチェックをしていますので、数百万円数千万円という大きな資金の動きを見逃すことはまずないと考えてください。
まとめ
住宅取得等資金贈与の非課税制度は非常にメリットが大きい制度ですので、積極的に利用されることをおすすめいたします。
ただし、多くの適用要件がありますので実は対象外だったということがないように注意してください。また小規模宅地等の特例についても入念なシミュレーションが重要になります。